聖女の目論見
みなし結婚成立まであと3日。
俺はダンジョン配信に堂々と参加することになった。
「というわけで、本日からこちら、ナリキン様の奥様であるキョウ様が参加なされます」
「んむ、よろしく頼む。魔法系の助っ人だぞ」
『おお! ナリキン様の奥方の1人の!』
『ほう。中々のお胸……』
うん、ネルネの身体だからね。胸がね。なんか育っててね。動きにくいんだよね。
「あ、いや、ちょっと待て。先ほどの紹介で一つ訂正させてくれ。俺……私は別に、ナリキンの妻ではないぞ?」
『え?』
『ん?』
『ああ、なるほど?』
おや?……なんかこう、聖女の企みが潰えたのだからもっと落胆するものだと思っていたのだが……
「……そういえば、みなし夫婦という制度があるらしいな?」
『!』
『……!』
「ええ!? そこ触れてしまうのか!? はぐらかしていたというのに!?」
そういうとこだぞナリキン。こういうのはハッキリ聞いておかないと、色々と落とし穴に落ちがちなんだよ。
例えば、俺達がまだ知らないルールが残っているとかな!!
こいつらの反応を見るに、絶対あるぞ抜け穴!!
「私がこなければ、危うくナリキンは聖女の夫になるところだった、ということで合ってるかな聖女殿?」
「……ふふ、大丈夫ですよ。私はナリキン様の妻になる心の準備は出来ていますから」
「おや、それだとこのままだとナリキンの妻になってしまうようだが? どういう法律があるのか、詳しく知らないんだ。教えてくれるか」
俺が単刀直入にそう聞くと、聖女はニコリと微笑んだ。
「……ふむ。良いでしょう。この配信ではダンジョンにまつわる知識の流布こそメインコンテンツですからね」
「言っておくが、ここで言わなかった内容で『みなし夫婦になる』とか言っても認めないからな」
「ええ、ちゃんと答えますよ。ご安心ください」
ニコニコと聖女はみなし夫婦について話し始めた。
「まず前提として、『みなし夫婦』はダンジョンの中に長期間一緒に居る男女の名誉を守るための制度です。『ふしだらな女』『商売女』といった誹謗中傷に対して、『夫婦』であるとすることでその名誉を守るのです」
へぇ。一応ちゃんとした理由のある制度だったんだなぁ。
「このため、みなし夫婦には、実は男女の数に対する制限がありません」
「……は?」
「実際に適用されるのが1対1という組み合わせが多いのと、新婚夫婦でダンジョンに潜る習慣も混ざって、そのように『誤解』されていることが多いのです」
なん、だと……?
誤解……誤解とな!?
『へぇそうなんだ。知ってた?』
『ああ。世代によっては完全に誤解してたりするよね』
『つまり……どういうことになるんだ?』
「まず、いまだに私がナリキン様の『みなし夫婦』になる話は有効ということですね」
そもそもの前提を誤解によって誤認していた……ヤバい。それは不味いぞ。
それだと俺が来たとて、ナリキンたちの『みなし夫婦』を止めることができないということか……!?
「そして」
「……そして?」
「キョウ様がナリキン様と夫婦でないというのであれば、私とナリキン様のひと月が経過し『みなし夫婦』が成立した時点で、キョウ様もナリキン様と夫婦になります」
……? え、ちょっとまって?
「これは『みなし夫婦』に対して、元々地上で待っていた恋人が横やりを入れるための決まりです。『夫婦としての順序を守るための制度』ですね」
「……『夫婦としての順序』……!?」
「ええ。夫婦間にも順序、序列というものはありますからね。特に、教皇様ともなればそういうものも大事でしょう?」
それはつまり、第一婦人とか第二婦人とか、そういう話か。
ナリキンの妻として既にロクファがいるので、第二婦人・第三婦人か。
「……仮に」
「ん?」
「仮にキョウ様が男性であれば。……その場合は私の『みなし夫婦』に割り込みとなりましたね。教皇であるナリキン様が私の第二夫となり、私とキョウ様が夫婦として強く結びつき、ナリキン様とはやや薄いつながりになったでしょうか」
それでも夫婦であることには変わりない、ということにはなりますけど。
と微笑みを絶やさない聖女アルカ。
つまり、なにか?
聖女アルカの本命はナリキンなので、女性の方が都合がよかった、ってことか?
「また、パーティーに合流した時点で『割り込み』が成立しますが、割り込んだ本人と、割り込まれた夫婦の同性側が『割り込みではない』と証言すれば、『割り込み』側は夫婦になりません」
「ん?」
「単に救助に来ただけ、とかもありますからね。『割り込み』ではないということにすることはできるんですよ」
……んん? 今、少し、なんか……え?
「ちょっとまて? 『割り込み』で『夫婦』になることを拒否するには、夫婦の、それも同性側の証言が必要、ってことか?」
「はい。そうですね」
「え? それだと例えば――お、私が『割り込みじゃない』と言っても、アルカが『いいえ割り込みですね』と言ったら、私とナリキンは夫婦になっちまうってコトか?」
「はい。そうですね」
え? なんで? なんで!?
「え、あの、ナリキンの意見は?」
「みなし夫婦の由来的に、異性側の意見は一旦無視されます。夫婦として名誉を守るために、ね」
「割り込みした本人の否定があるのに!?」
「割り込んで、いたして、責任を放棄――という事があり得ます。その防止のため『割り込みの否定』には夫婦側の否定が必要になっています」
つまり、例えば『みなし夫婦』に男が乗り込んで、乗り込んだ男が女に手を出したとして逃げる、というケースをなくすために。
まず、確実に責任を取らせるために割り込み含め『全員夫婦だろう』と断定される。
次に、救助などによる混入を除くため『いや、そいつは夫婦じゃない』と拒否できる。
……ただし割り込み側のやり逃げも防止するため、夫婦側の否定もないと『夫婦』にならざるを得ない。
そして、割り込みに対して、みなし夫婦側の異性側の証言は無視される。
通常はみなし夫婦の異性側の意見も、同性側が代弁できるので実質無視されるわけではないのだろうが――
「……改めてこれだけ伝えておきましょう。キョウ様も、ナリキン様の妻になるという認識です。ご安心を」
「……は!?」
つまり。つまりだ。
色々と複雑に組み合わさっているが――
――俺が女であることで、聖女との『みなし夫婦』が『俺を巻き込む形で』成立し、そして聖女の証言なしに拒否できない……!?
(色々ややこしくて少し遅れました……!
とりあえず、現状は
『聖女がキョウを否定しないとナリキンとキョウと聖女でみなし夫婦が成立する』
『聖女がキョウを否定してもナリキンと聖女でみなし夫婦が成立する』
となります。それだけ。)






































