あと3日。
『うぉおおおおッ!!! よし! 中ボス部屋を攻略したぞ! このまま攻略を続けてもっと奥に――』
『――まぁまぁナリキン様。本日はキリも良いですし、もう配信時間終了としましょう』
『いやまだあと30分は』
『進捗のキリが良いので質疑応答をするべきでは?』
『いやしかし』
『まぁまぁまぁ』
草原エリアを抜け、新エリアである深層洞窟エリアの攻略を行っているナリキン達。
しかし思いの外難航しており、遅々として進んでいない。
……みなし結婚まであと3日なんだけど、攻略大丈夫そ?
「なぁロクコ。これだけ教えてくれ、あと3日で行けるかな」
「別に結婚くらいしてあげたらいいんじゃないかしら? 聖女をダンジョン関係の話に入れなければいいだけでしょ?」
はい、だめそうだね。
というわけで救済措置を発動させることにした。
ロクコに許してもらえるように、ちゃんと表から入って行こうね。うん。
* * *
聖女に見張りを任せ、ナリキンがテントで休んでいる。
結局、今日の探索も配信に影響されて遅々として進まなかった。
「くっ。このままでは1か月になってしまう……どうしたら……!」
『やぁナリキン。俺だ。起きてるようだな?』
「!……マスターどうしましょう、あと3日です……!」
『ああ。その対策を今実行中だ』
「さすがですマスター。しかし、対策は一体何を?」
『まぁすぐ分かる。……よし、通信終了』
そう言ってマスターからの通信が終了した。
……一体何を企んでいるのだろう? とナリキンはマスターを待つことにした。
「ふむ。……テントの外に出ておいた方が良いだろうか? それともこのまま待つべきか……出ておくか」
ナリキンはテントの外に出た。
深層洞窟エリアのテントは突き当りとなっている通路に張っており、その通路の中腹辺りに見張りとして聖女が控えている。
元々ナリキンも聖女も一人で野営し安全を確保する術を持っているので、多少離れたくらいでは問題ない。
一応男女であるということもあり、それなりに安全を確保しつつも距離を取った野営形態をとっていた。
聖女は通路の外にあかりが漏れないように布を張りつつ、【ライト】の魔法を浮かべて読書をしていた。
静かな洞窟である。音だけ聞いていればほとんど問題はない。
なので勿論、ナリキンの足音に気付いて聖女は顔を上げた。
「あら。いかがされましたかナリキン様」
「いやなに、攻略に思いの外時間がかかってしまっていると思ってな……」
「ええ、そうですね。そろそろ……ひと月となりましょうか」
「うむ。……ひと月より早く攻略を終わらせる予定だったのだがな」
ニコリ、と聖女は微笑んだ。
「ところで、先ほど何か話されておりましたか?」
静かな洞窟である。独り言も、内容こそ分からないが、何かしゃべってるな、くらいは聞こえるのだ。
「……なに、独り言だ。配信内容についての反省をな」
「ふむ。今日の配信も皆が喜んでおりましたね。……このような賑やかな探索は初めてで、とても新鮮です」
「そうだな。とても2人きりとは言えないダンジョン攻略だと認識している」
「あら、ここに居るのは私達2人だけですよ」
聖女はニコニコ顔だ。
今のはそう、非常に分かりやすく『2人だけじゃないからみなし夫婦じゃないよな?』『いいえ?』というやりとりである。
ほぼ直接的で取り繕っていない会話だ。
ナリキンは額に汗をかいた。
(マスター、早くどうにかしてくれ頼む……! 手遅れになってしまう前に――!!)
そうナリキンが願った時、コツ、コツ、と足音が聞こえた。通路の入り口で止まる。
「む、ゴブリンでしょうか……? 少し退治してきますね」
「いや。それにしては、ちゃんとした靴の音だぞ」
と警戒しつつ静かに立ち上がった所で、その者から声がかけられた。
「……おーい。ナリキン、ここか?」
「……! おお、おお! ここだ、ここだぞ! 待っていた!!」
その声は、間違いない。前の自分――『キョウ』のそれであった。
「あらこの声。キョウ様ではありませんか?」
「うむ! キョウだな!……1ヶ月経ちそうでも無理そうな場合に備えて、助っ人に呼んでおいたのだ!」
これで『2人きり』という状況からは解放される。と、ナリキンは諸手を挙げてキョウを呼び込んだ。
ありがとうマスター、マスターありがとう! あ、今はキョウだったか!
「ようナリキン。ダンジョン攻略が難航しているようじゃないか」
通路に入ってきたキョウは、片手を上げて挨拶した。
「ああ。少し手間取っていてな。だがキョウが居れば百人力だ」
「聖女も久しぶりだな」
「あらキョウ様ではありませんか。……盗賊であれば退治できたのですが」
「はっはっは。アルカ殿? キョウが盗賊なワケないだろう……いや、テロリストではあったか」
「まぁな。というわけで、明日から同行させてもらおうか。攻略も手伝うし、配信にも顔を出すぞ」
「……なるほど?」
ニコリとした笑みを崩さない聖女アルカ。
「キョウ様の実力は今更疑うべくもありませんわ。しかし、キョウ様は顔を晒すのはよろしくないでしょう。ここは、既にナリキン様の妻として顔が売れている姿に変装した方が良いのでは?」
「ん、それもそうだな。では少し待て……着替えるところは見るなよお前ら。【ブラインド】」
スッと【ブラインド】で聖女と、一応ナリキンも目隠しをし、キョウは姿を変えた。
【ブラインド】が解かれた時、そこにはネルネの姿をしたキョウが居た。服の余った部分を折って調整していた。
「よし。これなら良いだろう?……って、別に明日の配信の直前からでも良かった気がするが」
「ええ。ではキョウ様は、よろしければ私のテントにどうぞ?」
「ああいや、遠慮しておこう。俺も自分用のテントは持ってきているからな、ナリキンの近くにテントを張らせてもらおう」
そう言って、さらに奥の方。ナリキンのテントの隣にキョウのテントは張られた。
あからさまに聖女より近い位置のテントである。
「では、明日の配信ではキョウ様が合流したコトを皆さんに通知しないといけませんね」
「ああ。そうだな」
「では俺は休ませてもらうぞ。俺の分の見張りがあるならナリキンに任せる」
「うむ、問題ない。俺が頼んだのだから、そのくらい当然だな!」
ニコニコとナリキンが笑顔で仕事を引き受ける。
そもそもの話、ナリキンはリビングアーマーである。魔力があるかぎり、疲労とは無縁の存在なのだ。
……最近は聖女アルカに振り回され精神的に疲労していたが。
「それでは明日から。オヤスミナサイ」
「……ええ、おやすみなさいませ。キョウ様」
展開済みのテントを【収納】から取り出して中に入るキョウ。
ナリキンだけでなく、聖女もニコニコと、笑顔を崩さなかった。
(そういえば今月で小説家デビュー10周年ですわ。
偶然だけど、『3ヶ月連続コミカライズ発売!』ってデビュー10周年っぽい……!)






































