閑話:ナリキンと聖女アルカ
「というわけで、ママがダンジョン用意してるんで、時間稼ぎですよナリキン君!」
「……はぁ、ええと、それでなぜソト様がここに?」
「このあと町に繰り出して、恋人とデートしようかなって!」
大変に自由気まますぎるソトが、聖王国のナリキンの元へやってきていた。
マスターはそんなソトに伝言を頼んだらしい。ついでにデートもしてくるつもりのようだが、マスターは知っているのだろうか?
確か、ソトが自由気まますぎて頭を抱えたりしていると聞いたが……今回のこれはどちらだろうか。
「今回協力する条件に、恋人とお外でデートする許可をもぎ取りました!」
「なるほど」
よかった、許可があるなら大丈夫だろう。
「であれば、お気をつけてお楽しみください」
「はい!」
「……しかし、1ヶ月ですか。どのように言い訳しましょうかね……」
「それについては簡単です。パパから作戦を聞いてあります」
第一の試練で使用した配信魔道具。あれの貸し出しを再度申請中で、手続きにしばらく時間がかかっている、ということで。
「そもそもフツーは私のように距離を無視できませんから、手紙のやり取りだけでも手続きの時間がかかるんですよね。むしろ準備に1ヶ月は早いかもしれません」
「なるほど。それなら言い分として正当ですね」
ダンジョン攻略の配信が試練の条件の一つであるなら、この魔道具が借りられないうちにダンジョンに行くわけにもいかない。
いくらでも時間稼ぎができる、魔法の言葉であった。
「というわけで1ヶ月後にまた持ってきてあげますね」
「かしこまりました。ではそのように」
「じゃ、私は恋人とデートいってきますんで!! いってきまーす!」
そう言って、何やら目隠しと猿轡やらをつけて簀巻きにされた黒髪の女性を引っ張り出し、縄を握りしめてナリキンの部屋から外に出て行った。
……明らかに拉致したような女性を引きずる少女。なにかの都市伝説になりそうだ。
「……ふむ。デートか」
ぽつりとつぶやくナリキン。1ヶ月時間を稼ぐ、といっても手続きを待っていると言えば済むのであれば実質やることが無い。これは1ヶ月の休暇と言ってもいい。
ソトを見習って、妻とデートでもするのが良いかもしれない。
尚、ネルネ……キョウは既に去ったので、もちろんこの妻とはロクファの事だ。
そもそもキョウは妻ではない。
また賭場にでも行って情報収集でもしようか。と、そう思っていたところにノックする音が聞こえた。
「ナリキン様、よろしいでしょうか?」
「む。アルカ殿ですか。どうぞ」
聖女アルカが部屋にやってきた。丁度いいので、魔道具を借りる手続きで1ヶ月ほどかかると伝えておく。
「なので、1ヶ月は準備期間としてよいでしょうな」
「分かりました。あの魔道具は必要ですからね、当然でしょう」
あっさりと説明が終了した。さすがマスターの考えた言い訳である。とナリキンは心の中で尊敬を深めた。
「……ところで、そういえば何か用でしたかな?」
「え? あ、えと。ええ。はい。そうですね、丁度私もナリキン様とダンジョン探索の打ち合わせをしようと思って来たので」
「ではまさにその話だったわけですな。タイミングが良かった」
「ですね」
にこり、とほほ笑むアルカ。
……
「まだ何かありますかな?」
「せ、折角なので、持ち物についての打ち合わせも兼ねて買い出し、あるいは買い出しの下見にでも行きませんか?」
「あぁ。まぁ、準備期間はひと月あるとはいえ、早めに用意しておくに越したことはありませんからな」
まったく。そういう話があるなら早く言ってくれればいいのに。
と、ナリキンは席を立つ。
「今からでも大丈夫ですかな? 早速行きたいのですが」
「あ、は、はいっ、大丈夫ですよ。行きましょう」
聖女アルカがナリキンの後ろについて部屋を出る。
急遽、そういうことになった。
「装備はどのようなものが良いでしょうか?」
「さて、どうしたものか。とりあえずマントは欲しいですな。……新しいマントを買うのも良いだろうか」
「良いですね。防寒具にもなるし、防具にもなりますもの」
「それに、ダンジョン攻略の様子を配信するなら見栄えも大事な故にな」
「なるほど。それは新しい視点です、今まで考慮したこともありませんでした」
と、マスターから聞きかじった知識を零しつつ、聖王国の武具屋に顔を出す。
「であるなら、いっそ私も赤い法衣を身に纏うのはどうでしょう? あのダンジョンは森型のようでしたから、赤い色が映えるかと」
「ふむ。確かに赤いマントは目立って良いですな。とても目立つ」
「……あ。確かに目立ちすぎますね。魔物にも」
ナリキンの一言にそれを気付かされ、手にしていた赤い服を棚に戻す聖女。
「なに、魔物は特に問題ではない。倒せばよい」
「おや、そうなのですか? 魔物は、ということは、何が問題なのでしょうか」
「……しいて言えば、アルカ殿に赤が似合うかどうかですかな。個人的な印象ではあるが、アルカ殿は白が似合っていると思っている」
「なるほど……確かに聖女としての衣装は白ですからね」
返り血で赤く染まるので、個人的には赤も似合わなくはないと思っているのだが。
「ダンジョン攻略ではむしろ赤を纏う方が多いのですが。返り血で」
「……ま、白で良いでしょう。民もその方が見慣れているだろうから」
「ああ。それは確かに大事ですね……そうか、今回は市民に見られながらダンジョンに潜るんでしたね。高揚しているところを見られると、少し恥ずかしいです」
「それはそれで、ダンジョン攻略を見せる醍醐味、ではないかな?」
「ですが、ナリキン様は普段通りだったではありませんか」
私ばかりがはしたない姿を晒すのは少し嫌です、と拗ねるアルカ。
「俺もあのダンジョンでは普段と違っていたと思うのだが……どうにも、気が抜けてしまって」
「気が抜ける、ですか? ダンジョンの攻略をしながらにして」
「一カ月居ましたからな。もはや住居のようなものだと感じるほどで」
ひと月後に探索する際にうっかり気が抜けた時の言い訳とする伏線を張っておく。
「常に気を張っていては長時間は戦えませんからな」
「すばらしいですね、さすが次期教皇で……おっと、まだ候補でしたね」
「はっはっは。さて、緑色のマントでも探しますかな」
とマントを探しつつ、ふむ、と顎を触って考えるナリキン。
「そういえば、妻にはやはり青が似合うだろうか? アルカ殿の意見を聞きたいところだ」
「どちらの妻ですか?」
「我が妻はひとりだけですぞ」
「あ、そうでしたね。キョウ様は変装でしたか。ちなみにキョウ様は黒がお似合いでしたね」
「キョウは妻子持ちなので、手出ししない方が良いかと。光神教ではないですしな」
「そうなのですか?……しかし改宗していただければ私が養ってみせますよ? よろしくお伝えしておいてください」
「……伝えるだけは伝えておきましょう」
やれやれ、とナリキンは肩をすくめた。
多夫多妻制は光神教では珍しい事ではないので。むしろ聖女がまだ未婚な方が不思議なほどで。
「……その、私も結婚には興味はあったのですが。ダンジョンに潜っているとどうにも出会いがありませんので」
「ああ。聖女は単騎でダンジョンに挑みますからな」
「はい。従者はいますが、アレは伴侶にする気はないですしね……」
ちらり、とナリキンを見るアルカ。
なるほど。ナリキンは恋愛対象に入るらしい。キョウも。そして、2人同時に結婚もできる光神教では、2人を相手に同時に恋い焦がれても倫理的に問題ないのだ。
さらに言えば既婚者だろうと、その妻ごと囲えばいいだけなのでむしろロクファも狙われている。家族的に。
「……さて、買い物の続きをしますかな」
「そうですね」
強引に話題を変えて流した。聖女アルカも、これについてはじっくり距離を詰める予定なので問題ないようだ。とりあえず、今は。
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