第三の試練
翌日。改めてナリキン達試練関係者が集められた。教会にある会議のための一室だ。
多くの観客は解放されているが、ナリキンの身内であった者たちは未だ軟禁されている。扱いは丁重だが、見張りも丁寧だった。
「まったく大変なことになったねぇ。ナリキンよ、大丈夫かい?」
「問題ありませんぞ。時にこの場合、試練はどうなるのですかな?」
「……アタシのは達成でいいが、試練をもう一つやってもらう必要があるかもしれん。最後の儀式では試練クリアを認めた3人の上級神官が必要なんだ」
ちらり、とラギルを見るマグニ。
「4番目の候補者はだれだったかね、ラギル?」
「耄碌したか? バラクドじゃな」
「お前の腰巾着じゃないか。やれやれ……できれば革新派がよかったんだが」
これは試練が1つ増えたといっていいだろう。と肩をすくめるマグニ。
「ともあれ、早く我が身内を解放してやって欲しいのですが」
「悪いね。まだ帰してやれないよ。特に、元々聖女に頼まれて探していたテロリストなんかは、ね」
「あぁ。さすがにお見通しでしたか。……まったく、本当にタイミングの悪い事だ」
「何!? テロリストだと!? そやつが犯人なのではないのか、拷問にかけろ拷問に!」
「ラギルや。ナリキン、ひいては聖女アルカの要請で来た客人だぞ。何の証拠もなくそういうことはできん」
そこに若い神官が書類をもってやってきた。
「マグニ様。死者についての共通点がありました。こちらが報告書です」
「ああ。ありがとう」
書類を受け取り、目を細めて読むマグニ。
「……何? 全員、元々死者だった、だって?」
「はい。マグニ上級神官様。過去の治療歴を調べたところ、全員が前教皇様に『蘇生』を施されていた者たちであったことが判明しました」
前教皇。蘇生の秘儀を操り、自身をも蘇生していたのか何代にも渡って教皇を務めていた化け物。
聖女に追い立てられた結果逃亡し、行方不明となっているが……
「つまり、前教皇の魔法が解けたから死んだ――ってことかい?」
「そうなります。また、あの場にいた者で、被害者たちの他に『蘇生』されたものは居ませんでした」
「ほう、調査ありがとう。全容が見えてきたよ」
だとすれば、前教皇がまさにあの瞬間消滅したのかもしれない。
あるいは前教皇の残していた何かが尽きたのか。
タイミングは絶妙に最悪だったが……偶然だろうか?
あるいは、あの場に前教皇に因縁ある者が……いや、それを言ったら聖王国に居る者全員が無いと言い切れない。聖女なんて特に。
「ロネスキー殿も、前教皇に蘇生されていたのですか」
「ああ。あいつは若い頃積極的にダンジョンに潜っていたからね。そういうやつらでは『1度は死んでいる』というのもステータスの一つだった。前教皇が居た頃はね」
死者蘇生を頼めるほど稼ぎがあったということでもあるし、蘇生に成功する運もあったということだ。
「だから教皇様が戻るのを、座を開けて待っているのじゃろうが」
「なんだいラギル。お前、聖女派じゃなかったのか?」
「フンッ! 時間稼ぎに使えないのならもう聖女を支持する意味はないわい!」
「フム」
ナリキンは良く分からなかったので曖昧に頷いておいた。
「よし決めたぞ。儂からの試練じゃ。――故ロネスキーを蘇生してみせよ!」
「おいおいラギル。お前、それに手本示せるのかい?」
「示せぬよ? 示せぬが、教皇になるような者であれば蘇生ができるべきであろう? 皆、そう思っているはずだ」
前教皇が消えた今は蘇生がない。ダンジョンの探索も安全面を大きくとって抑え気味だという。確かに、そう考えると冒険者などは最後の命綱が消えたことに不満を覚えているに違いない。
「なにせ歴代の教皇がそうだったのだからな」
「……実際は一人だったわけだが、確かにそうだ。教皇に期待される役割でも、あるな」
「であれば、試練としたとしても構うまい。なに、失敗しても良い、次の試練を出すだけだ」
実際、ナリキンが蘇生に失敗したところで、ただ『新しい教皇は蘇生ができない』というだけの話になる。あとは試練に一回失敗したという傷になる程度だ。
「……死者の蘇生とは、どのようにすればよいのですかな?」
「やる気かい、ナリキン」
「故ロネスキー殿にはお世話になりましたからな。やれるだけやってみようかと」
「分かった。まぁそれでうまくいけば、第一の試練を再度やる必要もないわけだしね」
「ククク、それでこそじゃ。――ああ、故ロネスキーの死体は教会の【収納】もちが保存しておくから腐敗による劣化は気にしなくて良い。準備が出来たら教えてくれ」
この世界には保存に適した魔法【収納】があり、その中では時間が止まる。
死体の鮮度も維持できるというわけだ。……その魂までは分からないが。
「期間はあえて設けないものとする。ナリキン。おぬしができるまで、あるいはできぬと言うまで、いつまでも待ってやろう」
「……それが狙いかい、ラギル」
「手本を示せない儂の、せめてもの誠意じゃよ。マグニ」
老人2人が目線で火花を散らす。
「(……さて、マスターはどう解決してくださるかなぁ?)」
そしてナリキンは上司に丸投げする気満々であった。
(故ロネスキー氏のご冥福をお祈りしましょう。ゆびゆびー)





































