あっ……その、ゴメン……
(そういえば、連載開始してから10周年でした。半年前に。
……祝、10.5周年!!
デビュー10周年のときは忘れないように誰か教えてください())
『――勝者、ナリキン!!』
審判のその宣言に、客席が湧いた。後方腕組師匠面でみていたコボルトニクも満足げに頷いている。かわいい。
「おお、3本のジャッジメントレイとか派手にシメたわね」
「ナリキンのやつめ、演出が良いじゃないか」
観客席から見ていて、3本の光の束が聖女を薙ぎ払うところはかなり見栄えが良かった。
聖女は死んでも生き返るからな。むしろ1回殺さなければ決闘で勝ったとは言えない。
完全に消し飛ばす形となった。これであれば明確に勝負がついたと言えるだろう。
「それに懐かしい物を引っ張り出してきたじゃない、あのゴーレムの腕」
「聖女を仕留めた実績がある隠し武器の腕だな。今回の秘策だ」
「確かに新しく作ったものではなかったわね」
倉庫に仕舞いっぱなしになっていたのでナリキンの鎧に搭載したのだ。
問題は聖女が『聖女に一度受けた技は通じぬ!』とかいうタイプだと回避されていた可能性があったことだが、前にダンジョン探索してきたときも油断したころにわりと同じ罠に引っかかったりもしてたからな。
隙を見て出してやれば食らうと確信していた。
「もし仕留められなかったらどうするつもりだったの?」
「そこはほら。ニクが乱入してどうにかこう」
コボルトニクは【収納】経由で飛び込めばテイムモンスターとして参戦できただろうので。……なに? 活躍できなくて残念? まぁまぁそう言うなって。と頭を撫でてやる。
ニクはモフモフの身体で嬉しそうに目を細めた。
「……コボルトの身体も抱き枕によさそうじゃない? 冬とかなら」
「や、毛がもふもふすぎると意外とくすぐったくてなー。いつもの方が良い」
「試し済みだった」
そらそうよ。試さないハズが無かろう。
と、ナリキンが切り落とされた腕を拾いカシャンとくっ付けていた。
リビングアーマーの特性を生かし肘から切り落としたわけだが、魔導義手と言い張ることにしたのでセーフである。
実際、鎧にくっ付けた隠し腕武器も自在に操れてるからな、ナリキン。
お、聖女が戻ってきた。復活したてで弱っており、神官に肩を借りていた。
ナリキンともにこやかに話している。
御婆さんの上級神官がやってきて宣言する。
「ナリキンよ。おぬしは第二の試練も突破した!」
「聖女アルカが祝福します。ナリキン様、おめでとうございます」
改めての宣言に、会場も再度沸いた。
これはもう聖女派崩壊だろう。いやー、ウチの村に手ェ出した連中どんな気持ち? なんやかんや巡り巡ってお前らの象徴ウチのナリキンの下についたっぽいけどどんな気持ち? ってな。
「ところでケー……キョウ。なんかこの会場で数人、呪われてそうな感じに見えるんだけど」
「ん? 呪い?」
「ほら、私って天使じゃない?」
まぁ天使のようにかわいいけど……じゃなくて、今は天使のロクファの身体だったな。
「こう、呪いっぽい黒いのが視えるのよ!」
「なるほど。便利っちゃ便利だな天使の眼」
「で、あの上級神官の一人、ナリキンを認め済みのロネスキーってやつも真っ黒なの」
「なんだって? そりゃ不味いんじゃないか?」
すでにナリキンを認めた相手だ。ナリキンの教皇就任を阻止するために呪いで暗殺しようとしていてもおかしくはない。
「もはや生きてるのが不思議なくらいよ。さすが上級神官、ってことなのかしらね?」
「ふーむ。……呪いってことはアレだな。目覚ましの出番だな」
「お、解呪しちゃう? しちゃう?」
「やっちゃうかぁー」
ついでにこの決闘場にいる連中もクリーンにしとこう。
俺は『神の目覚まし』を取り出し、俺達の『憑依』や【超変身】等は解除されないように設定した上で鳴らした。
* * *
聖女が生き返って、重い身体を支えられて戻ってきた時、ナリキンの腕はしっかりとくっ付いていた。
「ナリキン様。腕、大丈夫でしたか?」
「ああ、これですか。魔導義手です。斬られたように見せかけただけ、ですな」
「なんと」
そう言って、ナリキンは腕をかぽっと外して見せた。言われてみれば切り落とした腕から血が出ていなかった。てっきり光剣で焼いたからかと思っていたが。
なんと精巧な義手か。全く気付かなかった。
「よければ生やしましょうか? 時間をかければ古い欠損も治せますよ」
「む? ああ。お気になさらず。これはこれで便利でしてな。以前はリビングアーマーとかいわれたものですが、いっそ逆に生身などいらんと思う程ですぞ。はっはっは」
そう言いながら鎧の腰から生えている腕をも自在にわきわきと動かして見せるナリキン。
もはや三腕である。そこまで動かせるのであれば確かに生身の腕より便利なのかもしれない。
「……その腕は、どこで?」
「キョウを探しに行った先で立ち寄ったとあるダンジョンでですな。なかなか強敵でした」
「ダンジョン自体は破壊できたのですか?」
「いやはや、ボスとはほとんど相打ちでしたし、まだまだ奥があるようだったので引き返しました」
そういうと、聖女は一瞬だけ、少しほっとしたような顔をし、すぐに表情を取り繕った。
「どうやら、私では元々ナリキン様には敵わなかったようですね」
「いやいや、紙一重でしたぞ。この手達が無ければ分かりませんでしたな」
ニカッと笑うナリキン。それからちらりとキョウを見るナリキンに、聖女は「まったく謙遜を」とため息をついた。
聖女も戻ってきたところで、審判の一人を務めていたマグニもゆっくりやってきた。
「さて。マグニ殿。これで第二の試練は達成ですかな?」
「ああ。間違いなく達成だよ。おめでとう、アンタはこれでまた一歩、教皇へと近づいた――ナリキンよ。おぬしは第二の試練も突破した!」
「聖女アルカが祝福します。ナリキン様、おめでとうございます」
マグニとアルカがそう宣言したことで、ナリキンは無事第二の試練を突破。
観客として詰めかけてきていた者たちもそれを聞いて沸き立った。
「おおおお! ナリキン最強! ナリキン最強! あなたこそ教皇に相応しい!」
「ようやく新たな教皇が誕生するのか! 異論なし!!」
「バカ、まだ気が早い。あと1つ残ってる。だがこれはきっと……!」
聖女を下したことで、ナリキンの人気はさらに高まった。
個人の武=ダンジョン攻略力=人気。聖王国は案外その単純な式が成り立つあたり、どこか魔国にも似ていた。
しかしその時だった。
とさり。人が一人倒れた。
「む?」
その静かな音に気付いたのは、マグニ上級神官だった。
マグニが音に振り向けば、そこにはロネスキーが倒れていた。
「ロネスキー? なにしてるんだい?」
「……」
「ロネスキー? おい、ロネスキー!?」
しかしマグニの呼びかけに返事がない。その腕をとり脈をとるが――命の鼓動は感じられなかった。
「回復――いや、傷はない。心肺蘇生術! アルカ! ナリキン! ラギル! アンタらも手伝え!」
「は、はいっ!」
「聖女殿は心臓マッサージを! 俺は人工呼吸をする!」
「む!? お、おいロネスキー! 何があったのだ!?」
マグニが即座に一同を呼びつける。
心肺蘇生術。それは勇者によりもたらされた技術。
ここは回復・医療の専門家が集う光神教の神殿であり、その知識も当然あった。決闘の怪我に備えての治療団もいた。
「ロネスキー! しっかりおしロネスキー!! 神の御許に行くにはまだ若いだろう!? おいラギル、解毒魔法!」
「……■■■、■■■■■■■■■―――【ハイディスポイズン】!……だめだ、効果がない。毒の気配がないぞ」
「傷もない、毒もない……なんで倒れてんだい!?」
「体内の、脳の損傷か?」
「それなら、それでもアタシの診察に引っかかるはずだ!」
ここで助けられない命は、この世界のどこでも助けられない。
マグニは適切な判断をした。
他の者も全力を尽くした。
「……わからん。だが、完全に死んでいる」
「おい! こっちにも倒れてる人がいるぞ!! こっちも息がない!」
「なんだって!? くっ……どうなってるんだい!?」
その後、神殿内、それもこの場内で合計10人程の人間が同時に急逝していたことが判明した。
毒ガス等も疑われたが、不自然な毒素はどこにも観測されなかった。
当然、原因究明のために死亡者の共通点が調べられることになった。
観客たちは容疑者である。事情聴取のための時間がとられることに。ナリキンを応援していた身内の者たちも、一旦身柄を確保され軟禁されることになった。
……ナリキンが彼女たちを見た時に思いっきり気まずそうに眼を逸らしていたので、何かしてしまったのかもしれない。





































