決闘決着
そもそもが、この決闘はナリキンが有利なところがある。
聖女はナリキンを殺せないのに対し、ナリキンは聖女を殺すことができる。復活すると知っているからだ。
殺し尽くすまで、となればナリキンに勝ち目はなかったが、1回だけ殺せばいい。
逆に聖女は、ナリキンを殺したくない。故に、全力を出しにくい。腕の1、2本は切り飛ばしてくるとは思うが、回復魔法で治せるレベルに抑えるだろう。
「さて。では次は俺の番ですな」
次はナリキンから仕掛けることにした。スゥ、と息を吸う――途中で、切りかかった。
呼吸によるタイミングずらし。呼吸を読める程度の達人がひっかかる魔王流の小技。
だが聖女アルカはその程度ではない。むしろ呼吸を無視して動く相手にこそ慣れている。攻撃にあわせて両手剣を取り出し、受けとめてみせた。
「むぐっ! 通じぬかッ」
「魔王流。先日の配信では使っていなかった技ですね、隠してましたか」
奇襲で小ぶり、なのに重い一撃。地面の土にザリリッと押され込んだ足跡が残っている。聖女アルカは内心では予想以上の威に少し焦っていた。
想像以上に、怪力。そして防御もある。
全身鎧の相手に対し、長期戦は本来有利である。鎧の重量で動けばそれだけでスタミナを消耗するからだ。目の前のナリキンは例外であるかのように、まるで鎧こそが自分の本当の身体と言わんばかりに、軽やかに動いている。
定石は通じない。長期戦は不利である、と、アルカは判断した。
「■■■、■■■■――」
「させませんぞ!! ッ、むぅ!?」
呪文詠唱に再び蹴りを放つが、今度は予測していたアルカ。ダンジョンで呪文詠唱をしながら近接戦をすることは多い。多数のモンスターに囲まれている状況に比べればナリキン一人だけ対処すればいい簡単な状況。距離を取りつつ、詠唱を完成させる。
「――【ジャッジメントソード】ッ!!!」
【ジャッジメントソード】。【ジャッジメントレイ】と並んで光属性王級魔法であり、聖女の切り札の一つ。聖女の持っていた剣に、光が宿った。
王級光属性魔法に恥じない強力な攻撃力を持つこの状態の剣は、アダマンタイトの盾ですら容易く切り裂く。耐えるには相応の防御魔法か、それこそオリハルコンでもなければならない。
当然、剣で受けることも難しい。
「ハァアアアッ!!」
聖女アルカは光剣をナリキンに向かって振り下ろす。しかし、ナリキンはそれを見て不敵に笑った。嫌な予感がして、剣筋が鈍る――いや、それで正解だった。それが正解だった。
「フンッ!!」
「なっ!?」
ナリキンの裏拳が光剣を弾いた。まさかの一撃。完全に体重を乗せていたらそのまま剣を手放すことになっていたに違いない。躊躇したことで、それを免れたのだ。
そして光剣を弾いたナリキンの手が無事なハズが――と、思いきや、その手は、鎧の籠手は一切無事だった。
「闘気ですかッ!」
「?……答える義務はないなッ!」
間違いない、と聖女は確信した。ナリキンが対抗手段を持っていたということに嬉しくもなる。光剣はまだ数分は持続する。改めてナリキンに向かって飛び掛かるようにして、剣を振り下ろした。
それをナリキンは腕で受けた。ガギャリリリリ、と金属の擦れるような音がする。闘気を纏って防御力を上げているに違いない。
「ぐ、ぬぅうううう!!」
「はぁああああ!!!」
闘気が勝つか、光剣が勝つか――『気』特有の熱が薄い。瞬間出力では耐えられるのだろうが、持続は苦手と見た。聖女はこのまま押し切ろうと力を籠める。
直後、剣が急にするりと動き、剣と共にナリキンの腕がごとりと落ちた。元の防御が弱い関節の部分。鎧ごと腕が転がる。聖女は無理に振り下ろした形に体勢を崩してしまったが、決闘において手を失っては勝敗は決したと言っていい。
予測される攻撃は蹴りだろうか。その一撃を耐えれば勝てる。防御のために力む聖女。
そして聖女が勝ちを確信したその時――その胸を、何かが貫いた。
水。超圧力の、水だった。
「……っ、は!?」
見れば、ナリキンの鎧の脇腹から、どこか見覚えのある『手』が生えていた。
人間の手ではない。
それは、かつて、とあるダンジョンで。
「そ、の、腕はッ」
「――ああ。あるダンジョンで手に入れたものだ。ボスからもぎ取ってな」
かつて聖女がやられたボスの腕。
ゴーレム『ウーマ』の最終形態の切り札。魔法攻撃の腕だった。
「魔道具の隠し武器だが、卑怯とは言うまいな?」
「ッ、まさか、言いませんとも……ごふッ」
血を吐きつつ、どこか懐かしさに笑うアルカ。同じ技に、二度やられるなんて。
……心臓をやられた。すぐに動けない。
腕を斬らせて心臓を穿つ。
見事。と、聖女は回復を諦めた。これはもう一度死んだ方が早い。
「今、介錯してやる――トライ・ジャッジメントォ!!」
「あぁ……」
直後、ナリキンが3本の光の柱を放ち、聖女を焼き尽くした。
 





































