ケーマ、聖王国へ。
聖女との決闘の準備を着々と整えつつ、謎のテロリストが見つかったことにした。
ナリキンがこちらに来るのと逆に、俺が聖王国に行くだけだ。ソトに手伝ってもらえば直通である。
今は撮影ダンジョンの戦闘訓練場で最後の準備をしている。
「……マスター。なぜ自分はニク先輩に勝てないのでしょう? 自分の方が大きくて重いし硬いのに。多少は術理も身についてきたと思うのですが……」
「ニクの研鑽の賜物だな。素直に尊敬しとけ」
そして結局、ナリキンはニクに勝てなかった。
……一度だけ、完全にリビングアーマーの状態になることで不意をつき勝つことができたことはあるが、今回それは禁じ手なので実質反則負けである。
「ニク先輩に付いてきてもらえれば心強いのですが……」
「あっちだと獣人は扱いが良くないからなぁ。……まぁうちでも抱き枕なんだが」
「いっそコボルトあたりに『憑依』でいけませんか?」
「ニクはダンジョンモンスターじゃないから『憑依』の機能は使えない……って、そういやニクもソトのマスターなんだから、ソトにコボルト出してもらえばいけるんだったか」
ウチのダンジョンのモンスターを操作するにはコントローラーで操作してもらう必要があるが、自分のダンジョンのモンスターなら『憑依』できる。
「テイマーってことでコボルトニクを決闘に参加させられれば、確かに強力な味方になるが……うーん。今回はそういうのダメそうだよな」
「居てくれるだけでも心強いので、コボルトを1匹、用意だけでもお願いします……!」
「ソトに頼んでおこう。代金代わりにお前の靴下でもくれてやれ」
ソトは老若男女の区別なく靴下収集してるので、ナリキンの靴下も十分対価になるはずだ。
そんな話をしていると、訓練場にロクコが入ってきた。
ぴょこぴょこと小走りでこちらに寄ってきて、俺に抱き着く。上目遣いでにこっと笑った。
「ねぇねぇケーマ? 私も聖王国行きたいんだけど」
「遊びに行くんじゃないんだから……せめてロクファに『憑依』で頼む」
「なによ。私だって村の外に散歩に行ってもいいじゃないの。ケーマだけずるくない?」
ぷくーっと頬を膨らませるロクコ。
「この前ワコークにいったじゃないか。それにお前、聖王国だぞ? ダンジョンぶっ殺国のダンジョンぶっ殺教総本山、そのど真ん中だ。ダンジョンコアを連れてけるわけないだろ。自殺行為でしかないぞ」
「ちっ。仕方ないわね、じゃあロクファへの『憑依』で我慢してあげるわ。その代わり――私にも決闘、見せてよね?」
「それが目的か。小鳥に憑依したらいいんじゃないか?」
「声援飛ばして応援したいのよ。ロクファには小鳥使ってもらいましょ」
うふふ、と口を押えて笑うロクコ。
まったく、交渉も上手くなったもんだ。俺が許可するラインをしっかり把握していやがる。
「おいナリキン。ロクコの応援が入るってことは、負けるわけにはいかなくなったな?」
「……が、頑張りますので!」
「頑張らなくてもいいわよ、勝てば」
おいおいプレッシャーかけてやるなよロクコ。
「マスターからの強化と、頂いた秘密兵器もありますし……負けることはないかと」
「ああ。聖女は殺しても死なない、全力でやっていい。ナリキンも最悪復活できるからな」
「秘密兵器? 何を渡したのよケーマ」
「……まぁ見てのお楽しみ、と言うことにしておこう」
「ふぅん。じゃあ楽しみにしておくわ」
言っても面白くもなんともないものだしな。別に新しいもの作ったわけでもないし。
* * *
聖王国に到着した前ナリキン姿の俺――テロリストのキョウは、早速聖女アルカと会うことになった。
長居は無用だしな。こういうのはさっさと済ませるに限る。
聖女を「見つかったが、堂々と見せるわけにもいかないから」とナリキンの部屋に呼ぶとホイホイやってきた。
「聖女様、こちらがお探しの者で、相違ないですかな?」
「……なっ……!」
「よう、久しぶりだな」
片手を上げて挨拶する。
「……!……!?」
ナリキンと俺を交互に見て、口をぱくぱくさせている聖女アルカ。何か言ってくれ。
「おい、聖女アルカ。お前が俺を呼んだんだろう? 何の用だ、早く言え」
「あ、の。え? ほ、本人……ですか!?」
「俺はただ呼ばれただけだ。その真実はお前の心に聞け」
「その無礼不遜な物言い……!」
聖女がキラキラした目をこちらに向けてきた。
俺、どんなキャラで聖女を言いくるめたかよく覚えてないけど、これでいいらしい。
「い、いえ。まだです。一つだけ、確かめさせてください。ジャッジメントレイを撃ってください」
ジャッジメントレイ……いや、【エレメンタルバースト】だろう。あの時、偽装のために詠唱せず撃ちまくってたし、詠唱破棄のそれを見せろということか。確かに単なるそっくりさんにはできないから証明には丁度いいだろう。ご本人であったナリキンですら撃てない。そう、正しく俺でなければ。
別に大した労力でもないから見せても良いんだが……
「……ここでか? せめて部屋の主の許可を取れよ。部屋を壊してしまうだろうが」
「あっ! す、すみません。そっそ、そうですね。では訓練場に行きましょう!」
「テロリストを連れて、か? はぁ、頭が鈍いようだ。深酒でもしたのか? まだ寝ぼけているとみえる」
「っっっ! な、ナリキン様ぁ……」
半泣きでナリキンに助けを求める聖女アルカ。
さすがに部屋の壁に撃ったら壊れるし、窓の外に向かって撃っても何事かと言う話になるだろう。
「ふむ。では我に向かって撃ってくだされ。我の肉体であれば防げますからな!」
「あれは『弾く』だろうが。弾かれた分がどこにいくか分からんからかえって危ないぞ」
「……むぅ。ではどうすべきか……うーん」
「あ! では私の【収納】に向かって! 中身は出しておくので、どうぞ!」
そう言って聖女はどさどさと【収納】に仕舞っていた様々な武器、保存食やポーション等を床に出した。
「【収納】が壊れてもしらんぞ……ジャッジメントレイ」
俺は聖女アルカの開いた収納空間にひょいと手を向けて、気軽に【エレメンタルバースト】を放った。
お望みであろう通り、詠唱無しでだ。
聖女アルカは【収納】に光の奔流を受け、ギリッと歯を食いしばって耐える。石の床に足跡が残りそうなほど踏ん張って、耐えきった。
「ぐぐう!? がはっ! はぁ、ハァッ!」
「……へぇ。【収納】で攻撃魔法を受けるとそうなるのか。初めて知った」
聖女は明らかにダメージを受けていた。身体ではなく魔力に、だ。
だが考えてみれば【収納】も魔法。魔法と魔法をぶつけると相殺できる、というのは常識だ。
そしてそれは勿論、魔力を消費しての現象であり、収納空間を維持し続けるためには攻撃魔法に対抗できるだけの耐久力が、消費魔力が必要だった。
「な、んという……ッ はぁ、す、ばら、しいッ……! 全力でも相殺しきれないかと思いました……」
膝をついて、息を整える聖女アルカ。
「たった一発でこれか」
「ッ……!」
「おい、ナリキン。お前も【収納】を開け」
「む?……どうぞ?」
「ジャッジメントレイ。ジャッジメントレイ。ジャッジメントレイ」
俺はナリキンが開いた【収納】に3発程打ち込んでやるが、ナリキンは平然としていた。
たじろぎすらしない。
「まぁこんなところか?」
「ああ、この後決闘もしますしな。条件を揃えておくべきということですか?」
そして、俺が初めて知ったのは、これが原因である。
今や俺達の【収納】は、まるで性質が違うのだ。なにせソトのダンジョンと化しているので。
魔法の数発程度、のみ込んで『保存』すらできてしまう。
ようは奥にぶつかる前に収納できてしまえば、『ぶつかって相殺』が発生しない。(ぶつかってもダンジョンの壁がありダイレクトに魔力にダメージということもない)
【収納】の時間停止で光線が減速して止まる程に無茶苦茶長い廊下を用意しておけば確実だが……普通の押し入れ程度しかない【収納】には真似できない技。
そしてそもそも取り出すときは通路の反対側を開き時間を止めないようにする必要が――うん、これも普通の【収納】にはできないな。
つまり今、聖女アルカは俺の攻撃で消耗し、ナリキンは攻撃のストックを3発得たのだ。
だがこれで後の決闘で文句もないだろう。なにせ3回だ。3倍だぞ3倍。
聖女アルカは、驚愕の眼差しをナリキンに向ける。
「ん? どうしましたかな、アルカ殿?」
「……い、いえ……あの、なんともないのですか?」
「何がですかな?」
「どうやら聖女の【収納】はお小さくあらせられるようだぞ、ナリキン。手でも貸してやれ」
「む? そうですか。アルカ殿、お手をどうぞ」
「いえ……! 大丈夫です!」
そう言う聖女アルカは、メラメラと目に炎を宿していた。
……しまった。これはかえって余計なコトしたかな?
(以下お知らせ)
カクヨム新作の『人の不幸が大好きな悪役令嬢、ざまぁのために頑張っていたら普通に溺愛されてますわ?』がそろそろ10万字で締めにはいろうかなってところです。
https://kakuyomu.jp/works/16818792438146132354





































