根回しって大事。
早速シドに協力を要請することになった。
頼む以上は俺がドラーグ村の方に行くべきだと思ったんだが、そんなことしないで呼びつけるべきだというダインの助言をうけて、シドを呼んでもらった。
というわけで、その日のうちにお付きの騎士と一緒にシドがやってきた。
こちらも護衛を兼ねてニクを控えさせ、応接室に迎える。
「すまんねシド殿、わざわざ来てもらって」
「いや、こちらこそ声をかけてもらえて有難い。ぜひ協力させてくれ」
ん? 少し背ぇ伸びた? 成長期ってやつかなぁ。
男子三日会わざれば刮目して見よってやつだな。カリソト区関連で忙しいのもあって、数か月は会ってなかったし。
一方、身長が全然伸びそうにないニクは少し羨ましそうにシドを見ている気がした。
「ケーマ殿。なんでも、ダイン殿が暗殺されかけたとか聞いたが。それも、相手はパヴェーラのスラムを仕切っている商人だとか?」
「ああ。ウチに来た暗殺者に吐かせた情報だ」
「……暗殺者に依頼主の情報を吐かせるとか、とんでもなく腕のいい拷問官が居るのだろうか?」
「この間まで帝国四天王の直属だった諜報員でな。元暗部だ」
「納得した」
だよね。四天王の看板はデカい。安心安定の納得感よ。
「……ということは、その商人を渡せばよいかな。すぐに身柄を抑え、財産ごと首を差し出そう」
「うん? 話が早すぎないか? こちらの言ってることが本当かどうかくらいは調べて良いと思うんだが」
「問題ない、ケーマ殿の事は信用している。ああ、生かしておいた方が良いなら勿論そのようにしよう」
む、確かにさらに裏が居るかもしれないから生け捕りのがいいか。
クーサンの嫁になった元暗部さんには追加で仕事してもらおう。報酬はスイートルームの一泊無料ペアチケット(食事付き)とかいいかもな。新婚だし。
「……ところでその商人をこちらにもらったところで、パヴェーラのスラムは大丈夫なのか?」
「ん? スラムの事だし一々気にする必要はないだろう? 別のヤツが仕切るなりなんなりするさ。勝手にできるのがスラムだし……そもそも、スラムもほぼなくなりつつあるしな」
「ふぅん? そうなのか?」
「そうなのだ。カリソト区のおかげでな」
……あー。あのカリソト区を埋めるだけの人がどこから来たのかとか気になってたけど、そっか。スラムとかから人が流れ込んでるのか。
いままでパイの数が限られていたところに、新しいパイが生えてきたようなもの。
そこに群がるアリの如くスラムからカリソト区へ人が移動し、結果として、スラムも消滅しつつある、と。
……だが今度はウチの付近でスラムができる可能性がでてきたな? 新しいパイも無限ではないので、話を聞きつけてやってきたはいいものの、あぶれた分が新たなスラムに、とかで。
まったく面倒な。スラムができたらソトに押し付けよう。優秀でいい娘をもってパパ助かるよ。
「あれ。じゃあ単純に自分が支配してるスラムが小さくなったから逆恨みって感じか?」
「そういうのもあっておかしくないな。多少は気持ちが分からなくもないが、真っ当な商人であればむしろ商機を見出し参入するだろうに」
カリソト区に影響され、ドラーグ村の住民も増えていたと。
どうやらカリソト区周辺はとても景気が良いことになっている模様。
「うーん、すんなりカタがついてしまいそうだな」
「ケーマ殿。問題がすんなり片付くのは悪い事ではないだろう?」
「それはそうなんだが、肩透かしというかなぁ」
とはいえ、仕事が難しくない事は確かに悪い事ではないのだ。
手続きを守ったり、根回しをすることで仕事の難易度が本当に下がる。
なにより暗殺返し、みたいな違法な手段をとる必要がなくなるのだ。
相手が違法な手段をとっていたら尚更、それより上の立場の者に正しく根回しするだけで合法的に破滅させられるときた。
たかがスラムを仕切っている商人程度が、その土地の領主に勝てる道理はないのだ。権力的に。あとは合法で暴力を振るい制圧するだけ!
うん、本当に大事だね、手続きと根回しって。
「商人相手の捕り物はあるが、見に来るか?」
「うーん、相手はただの人だろうし大したことにはならないだろうよ?」
「……確かに、ドラゴンを従えるケーマ殿にかかれば、商人やその護衛程度なんてことはなさそうだな」
やれやれ、と肩をすくめるシド。
と、ここでニクが声をかけてきた。
「ご主人様」
「ん? どうしたクロ?」
一瞬ニクと呼びそうになったがギリギリでクロ呼びにできた。あぶねぇあぶねぇ。
「わたし、捕り物したいです」
「……そうか。シド殿。クロが協力したいそうだ、いいか?」
「え? あ、うん。はい。問題ない」
「ありがとう。適当に暴れさせてやってくれ」
ニクは自主トレばっかりで、戦闘に飢えていた。
最近だとダンジョンでコボルトに憑依して冒険者相手に遊んでて、徘徊する変異ボスコボルトとしてちょっと事件になっているのを知っている。
それでも、やっぱり生身で戦いたいようだ。折角鍛えてるのに、披露する場って中々ないもんな。
「わたしが首をとってきます、ご主人様」
「裏探りたいから殺さないで生け捕りでな」
「はい」
ふんす、と鼻息を荒くして楽しそうだ。表情筋は相変わらずだが尻尾がぱたぱたしていた。
尚、この世界の生け捕りは手足くらいは簡単に切り落としていく。
切り落とした手足があれば、回復魔法でくっ付けられるからね。生やし直すのは難易度高いけど。
「逃げ道の地下通路とかあるといいですね。その方が探しがいがあります」
「……あらかじめ調査しておこう。地属性が得意な魔法師を手配しておく」
「調査なんてほっぽって逃げられる前にふみこむべきでは? 今日これからいきましょう」
「むむっ、クロ殿の言葉も一理あるな。しかし流石に今日これからは難しくないか? どうだハーヴィ」
「はっ! 可能でありましょう。領主様への報告は必要ですが、事後報告でも良いかと」
「なら行くか」
シドの護衛もそう言ったので、これから乗り込むことになった。
なんかごめんね、ニクが暴れたいばっかりに急かしちゃったみたいで。
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