カリソト区の見回り
カリソト区。
そこはゴレーヌ村に新設されたあらたな地区であり、元々のゴレーヌ村の何倍もの広さを誇る一角。
……いやまじで何作ったんだソトめ。普通に町じゃねぇか。
それも3階建てのコンクリート(スライムコンクリートらしいが)の建造物が立ち並ぶキッチリ計算されつくされた街並みである。
そこにはさらに区画が色々と別れており、商業、工業、居住の区画がある。
さらにいえばオフトン教教会もカリソト区支部がちゃんとある。場所は居住区と商業区の真ん中。建築スピードを優先させたのだろう他とほぼ同じ規格のビルで、外装にオフトン教教会っぽい装飾――5円玉モチーフの聖印とか白い漆喰外装とか――が施されたものだ。
そこにもサキュバスシスターが住み込みで働いている。……新しくやってきた分をシスターにスカウトしたとかで増えたらしい。レオナが監禁されていたことと何か関係があるのだろうか?
ともあれ、新教会の統制も元々のオフトン教教会シスター長に据えていたスイラの教育によってしっかりと保たれていたのでよしとする。
「……さて」
そして問題は商業区のさらに一角。居住区から少し隠れるようにして存在する細い通り。
ピンク色の立て看板が並び、ぴっちりしたボディラインの分かる服を着たお姉さんが手招きして客引きしているようなお店達がそこにはあった。
そう。いかがわしいお店である!!
通りの名前もズバリ『オイロケ通り』だとか。
いや分かるよ? 人がこれだけ多いとね、必要だよこういうのは。
ゴレーヌ村だけならまだオフトン教教会だけで誤魔化せた。サキュバスが良い感じに精気吸って処理してくれてたし。どうしてもってやつらは馬車でツィーアの町に行ってた。
ゴレーヌ村の規模で吸いきれなかったのだから、新しい教会ができてサキュバスシスターが増えたところで焼け石に水。いつかこういうお店達は必要だったのである。
まぁ俺は使わないけどね。必要ないし。睡眠欲特化だから。うん。
しかもソトが気を利かせたのか、ここは『欲望の洞窟』のダンジョン領域から外れている。ダンジョンの内容がダンジョンコアに影響を及ぼすという俺の仮説的にはありがたい配慮なのだが、代わりにソトの領域になってるんだよなぁ……
……
まぁレオナがいるし大丈夫か。
とはいえ、それでもカリソト区、そしてゴレーヌ村(町?)の一部であるため、総合責任者である村長としては、確認だけでもしておかねばならないのだ。
俺は適当に客引きをしていた女の人に話しかける。
「こんにちは。ちょっといいか?」
「あらぁ? お一人様ですかぁ? あなたにピッタリなお店を紹介しますよぉ。お好きなプレイはございますぅ? 大丈夫、幅広いお店がそろってまぁす」
「いや、俺は客じゃない。店の責任者と話がしたいんだが……ああ、俺は村長のケーマだ」
「はぁー? 客じゃない? じゃあ帰りなボウヤ。どこの村長だか知らないけど、アタシらには怖ぁいお兄さん達がついてるんだ。イチャモンつけようったってそうはいかないから!」
「……うん?」
怖いお兄さん達? ちょっとまて、反社会的組織ってことか?
困るなぁそういうのは。せめてちゃんと村長の俺を通してもらわないと。
「わかった、じゃあそのお兄さん達と話がしたいから呼んでくれ」
「あら! もしかしてソッチの趣味の人? 女の人より男の人が良いみたいな。しかも無理矢理がお好みぃー?」
「違うぞ。俺は普通に妻子持ちだ」
「うんうん、そういうの関係ないわよね。むしろ趣味に合わない生活で抑圧された鬱憤が溜まるってなもんでしょ。なぁんだお客じゃん」
「冗談はよしてくれ。普通に話をしたいだけだ。まぁ、結果的にイチャモンはつくかもしれないが」
「……アタシが冗談言ってる間にさっさとどっか行った方がいいよぉ?」
はぁーやれやれ、とため息をつく女。
「勘違いしないでくれ、普通に仕事の話だから。別に喧嘩を売りに来たわけじゃない。村長の俺に話を通してくれってだけの事だ」
「はぁ? はぁ、なんで村長なんかに話を通さなきゃならないのさ。やっぱりイチャモンじゃないの、どうなっても知らないからね。……おにーさーん達、お客さんだよー」
女が店の方に声をかけると、冒険者風のガタイの良い男が3人程現れた。
皮鎧を着てる男3人に囲まれると結構な威圧感があるな。俺にとっては今更だが。
「あんだぁ? ひょろっちいなぁ。肉食ってんのか? お?」
「おうおう! おうおうおう!」
「坊主ぅ。泣かされたくなかったらサッサと帰りな?」
「いや普通に仕事の話なんだって。責任者はどこだ? 俺は村長の」
「「「あああぁぁぁん!?」」」
うん、せめて話ができる知能のある人を一人は置いとくべきだな。
真ん中のやつトド獣人でもないのにオウオウとしか言ってねぇぞ。
「なぁお姉さん? こいつら話が通じないみたいなんだ……話ができる偉い人はいる?」
「ウチのボスと話がしたいってんなら、まずはそいつらを黙らせてからだねぇ」
「あー、そういう? 仕方ないなぁ」
そういう事なら、まぁちょっとパワーでゴリ押すしかないじゃないか。
こちとら村長やぞ。
怪我の残らないように手加減してやろう。
「【アイスボール】」
「「「ごふっ!?」」」
もちろん秒でカタが付いた。
腹パン代わりのアイスボールで一撃だ。怪我はなさそうだな、ヨシ!
所詮はそこらにいる用心棒。冒険者ランクでいうとせいぜいCランクだろう。それもDよりの。
「ぐおごごご……な、何をしやがった!? 氷!? こいつ魔法使いか!」
「おおぅ……おぅ、おぅ……」
「なんて詠唱速度だ。俺達じゃ歯が立たねぇ、援軍を呼べ!」
「ちょっとまて、ボスを出せボスを。責任者と話がしたいだけなんだから。ちゃんとこっちに話通してくれってだけなんだから」
ピィイーー! と甲高い音の笛を鳴らす男。するとどこに隠れていたのかワラワラと新たな用心棒たちが現れた。
……全員倒したらボス出てくるってことでいいのかなぁ。
「って、あれ? 村長じゃないっすか?」
「ん? お前は……村の、えーっと、屋台のやつじゃないか」
見るとその中に村人冒険者が混じっていた。
「うっす! 村長も遊びに? いやー村長もハメを外したくなる事があるんすねぇ。奥様方には内緒にしとくっす!」
「いや普通に見回りだ。ここの責任者はどこだ? 話がしたい」
「おっとまってくださいっす。そんなことより今はなんか手に負えない暴漢が現れたみたいなんで先に用心棒依頼の仕事しないとっすわ!……暴漢どこっすか?」
「それは俺のことかもしれん。そこの3人を倒したらボスと話をさせてくれるっていうんで倒したんだが、倒したら笛を吹いたんだ。お前がボスだったりするのか?」
「え、いや自分らはただの用心棒で――あー」
俺の指さす先で腹を抱えて座り込んでいる3人を見て、村人冒険者は「あー」と何かを察したようだ。
用心棒の一人が村人冒険者に話しかける。
「……おいジョン、お前の知り合いなのか?」
「知り合いもなにも、この村の村長っすよ。俺らのトップっす」
「は? え? 村長? ああ。お前の出身の?」
「何言ってんすか、ここの村長っす。ここ、ゴレーヌ村カリソト区のトップっす」
「え? 村? ここは町だろ?」
「じゃあ村長改め町長っす。ここの、俺らの、トップっす。雇い主の雇い主の雇い主くらいの上の人」
「……え?」
……まぁこの規模で村って言われてもピンとこないよね。そこは俺が悪かったよ。
用心棒たちが俺を見る。その中には「あ、村長じゃん」「ホントだ」とちらほら見覚えのある村人冒険者が混じっていた。
「だから、俺はここの責任者と話をしたいだけなんだよ。呼んでくれ。あるいは案内してくれ」
「うっす! 店長たちの纏め役呼んでくればいいっすかね?」
「ああそれでいいよ」
こうして俺はようやくこの『オイロケ通り』の責任者と話ができた。
……責任者はサキュバスで、俺を見るなり即ジャンピング土下座をキメた。そいつはスイラの部下の一人、つまりオフトン教シスターのサキュバスだった。さすがにシスター服は着ていなかったが。
元々色町での経営経験があり抜擢されたそうな。
「教祖様に不敬した新人はしっかりシメておきますんでぇ! 大変申し訳ありませんでした!!」
「ああうん、注意くらいでいいよ。ちゃんと人の話を聞くように言ってあげてね」
「寛大な処置に感謝いたします! 仰せのままに!!――お前達分かったか!? このお方こそ我々のトップだ、二度と失礼するなよ!! 次ぃこんなことあったらシリコダマの刑だからな!!」
「「「お、おう!! 分かりやした姐さん!!」」」
なんだよシリコダマの刑って。……いや言わなくていいよ。うん。用心棒や粗相した女の人が青い顔して震えてるってことは相当アレなんだろうし。
にしてもシスターが色町の元締めかぁ。
つまりこのアレなお店はオフトン教の下部組織。
そしてオフトン教のトップは俺。
「……間接的に俺の店ってことだったのか、ここ」
「間接もなにも、そもそもカリソト区自体が教祖様のものですよね? あ、そうだ! 遊んでいかれるのであればどの店でも無料でOKです! もちろん奥様にも言いませんので!……私がお相手しましょうか? 腕には自信ありです」
「いやそういうのいいから。マジで」
ともあれ、健全でないお店たちだが、運営は健全なようだ。怪しい組織が入る隙間もない様子。……それならいいんだよそれで。うん。
……何かあったら報告はしてね?
(だんぼるのコミカライズは適宜更新されてるので要チェックですわ!!
あと、ニコニコ静画版はコメント付きで見れて楽しい。二度おいしい!!
https://manga.nicovideo.jp/comic/40236
二度おいしい!(大事なことなので二回言いました))