ウチの娘が色々ヤバい。
さて。以前から和解はしていたが、今回の件でレオナは脅威ではなくなった。
ハクさんに対してロクコという切り札が有効なように、もはや敵対したとしても「ソトをけしかけるぞ」でカタがつく、安全装置付きの猛獣だ。
レオナは俺に勝ち、俺はソトに勝ち、ソトはレオナに勝つ。
ああまったく、ジャンケンのような三つ巴だ。
かつて三国志の諸葛孔明は3つの勢力で天下三分の計を謀ったというが、3組のにらみ合いというのは実に分かりやすく平和が訪れるものなのだと実感した。
対等とまではいわないが、牽制しあえる隣人にはなれたと思う。
こうなってようやく俺はレオナと心の底から握手できる。
こうなっていなければ俺はレオナが死ぬのを「厄介事が片付くなら放置してもいいか」と考えただろう。今はなんとか「ソトが気に入ってるしちょっとくらい手助けしてやってもいい」と思っている。
……もしかしてソトはそれを踏まえた上でレオナを監禁したのでは?
いいやよそう。こういう妄想は多分キリがない。
ちなみにソトにはしっかりレオナへ謝らせた。
被害者の前に加害者を引っ張り出す非道だが、レオナはレオナでまんざらでもないっぽいのでよしとする。
……いや、ホント。この二人の関係が良く分からない。レオナってば監禁した相手を初手膝の上に乗せてなでなでしてた。ソトが自然にレオナの膝の上に座って止める暇もなかったのだ。
そしてソトはソトで撫でられながら猫なで声で「ごめんなさいレオナさん……」としおらしく謝って、レオナはそれを凄く甘すぎるものを噛んだかのような引きつったデレ顔をしつつ「いいのよ」と許していた。
あー、なんというか、しいて言えばDV彼氏と依存彼女みたいな感じ? ウチの娘がDVの方になるけど……うーん。複雑なきもち。
「あ。ソトちゃん。それで私の死因について詳しく聞いておきたいんだけど……というか、私が死ぬとか聞いてなかったんだけど。それならそうと先に言ってくれれば……」
「はい! パパからの協力も得られるということなので今こそ話すときです! 黙ってたのはけっして、けっして! 赤ちゃんのように泣き叫んで震えるレオナさんが見たかっただけではないんです!」
……見たかったのは見たかったんだな。その言い方。
「――実は光神サマが『そろそろ殺るか』と動くんですよねぇ」
そしてさらりととんでもない敵の名前を口にした。
「え、なんで? 私、上位神に嫌われるようなことした?……したかも?」
「具体的な理由を話すと時期繰り上げで即座に襲ってくるので秘密です! ここまでの話をするのだけで猶予はギリギリですよ、ギリギリ!」
「……だから話せなかったのね。ケーマさんが協力してくれるまで」
「ですです。レオナさんを生かすだけなら私が常に一緒に居れば一応大丈夫なんですけどね。理由は秘密ですが」
未来知識を話すと、その分周囲に影響が出て未来が変わるのは勿論だが、神様の話題なんて特にご本人の耳に届いて「お? その話しちゃう? じゃあ戦争だね」となりかねない。
一人……1柱で戦争に値する戦力を有しているので、機嫌を損ねたら即戦争。大いにあり得る話なのだ。
「ってか、光神から『殺るか』と思われるとか、一体何したんだよレオナ……まぁレオナだしなんかしたんだろうが」
「さすがに上位神相手には……陣営を反復横跳びする以外はしてないわよ? で、でもそれって私の、『混沌』の特性というか性質というか、ある意味仕方ない事なのよ?」
真実を知っているであろうソトをちらっと見るが、聞くわけにもいかない。
……というか。
「さすがに俺も一応勇者だからなぁ。光神と敵対するのは不味い気がするぞ」
「さすがのケーマさんでも、相手が上位神となると厄介よね……なんでケーマさんは無事で私だけ狙われるのかしら」
「数百年も見逃されてたんだろ。俺もいつ狙われるか分からんな……それより相手が光神だと勇者としてはどうしようもなくないか? 俺はレオナを見捨てる方が良い気がしてきたよ」
「そうね……うーん、うまく逃げられるかしら」
はぁ、とため息をつくレオナ。
「そんな! パパが味方してくれるから正直に話したんですよ!? わかりました、こうなったら光神の秘密を諸々暴露してパパがレオナさんの味方をせざるを得ないように――」
「まて。まて。止まれソト。味方しないとは言っていない。見捨てたくなったとは言ったけどな」
「……ホントですか?」
「ああ。俺が嘘をついたことがあるか?」
「嘘はつきませんが、騙すのは大好きですよね?」
くっそ、よく分かってやがる。さすが俺の娘。
「……とりあえず、ワタルと一緒に行動するとかどうだ? 影響されて運気が上がるかもしれない」
「ワタルさんそろそろ帰るじゃないですか。つまりレオナさんと私が離れ離れになるので却下です。というかワタルといえど私のレオナさんは渡しませんよ!!」
「うん、監禁されていたレオナをそろそろ解放してやろう? な?」
「……ソトちゃん? 私そろそろ一人でトイレいきたいわ?」
「やーーーー! やーーーーだーーーー!!」
「トイレは行かせてやれよ……」
その後レオナからソトを引きはがすのに1時間かかった。
ていうかソトお前その気になれば秒で会いに飛んでくじゃん。離れ離れとか意味ないやつだろうに……はぁやれやれ。
* * *
で。
俺がワコークから帰還したため、四天王の3人は帰還することになった。
元々俺がワコークに行っている間だけと言う話だったはずなので約束通りだ。ソトの件もあったのでちょっと延長してた程である。
「あーあ、休暇だと思ってたのにガッツリ働いてしまったニャ……ワーカーホリックな自分が怖いっ!」
「ミーシャはソトお嬢様に良いように操られてただけでしょうに。ねぇドルチェ?」
「……アメリアも人の事いえなくない? まったく、休暇を満喫したのは私だけだったか」
ソトにそそのかされて町づくりに奔走したミーシャとアメリアさん。二人を見てやれやれ、と肩をすくめるドルチェさん。
だが俺はソトから聞いて知っている。ドルチェさんもソトの出した町管理用のモンスター娘に官僚教育してくれたことを。手塩にかけて育てていた部下のうち数人がソトの配下として奪われてしまったことを。
……ウチの娘が有能過ぎてヤバい。
そんな3人を俺とロクコ、ソトで見送ったところで、ソトがぽつりとつぶやいた。
「……パパほどじゃないですよ。街づくりも建築技法の売り込みも、元々は将来パパがやってたはずのことなので。手柄を横取りしただけです」
「なんと。俺の手柄を持っていってくれてたのか……助かるよ」
「未来のパパにもできるなら貰ってくれって言われてたみたいですからね。どういたしまして」
びしばしぐっぐ、と手あそびで意気投合する俺とソト。
ワタルみたいな俺に功績を押し付けてくる奴とは大違いだぜ。さすが俺の娘!
「ねぇソト。ちなみにそのケーマはどのくらい出世してた?」
「あ、はい。ネタバレになってしまいますが――諸々功績を重ねたパパの娘である未来の私は公爵令嬢だったみたいですね」
「つまりコウシャク……なぁロクコ。コウシャクって子爵のひとつ上だっけ?」
「私が居るんだし、王族のひとつ下のやつでしょ。あと子爵のひとつ上は伯爵よケーマ」
だよね、現実逃避してた。
……
「あ。とりあえず新しく出来た町の方の責任者はソトでいいよな? 管理者もソトの配下モンスターだし」
「まぁ私がやったことですし、責任はもちますよ。カリソト区の区長ってことでお任せください。でも、困った事が起きたら相談くらいは乗ってくださいね、パパ」
相談くらいなら乗るけどな。村長だし。……もう町長なんだろうか?
「ソト様が区長ですか……」
「つまりパパは私がこのカリソト区を好きにしていいと仰せです! ひゃっはー♪」
「(嫌な予感しかしない……これもレオナのせいにちがいない)」
(以下お知らせ)
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