大首魁ソト
それで村長邸、村長執務室までやってきた。俺とロクコ。
「帰ったぞ! 一体どうなってんだこれは!?」
「あ、おかえりなさいませ村長。奥様もご無事で何よりです」
そこに居たのは、副村長のウォズマだけだった。
「無事も何も、村が町になってんだけど!! アメリアさんはどこだ!?」
「む? ソト様では――ああ、そういえば、アメリア様が村長代理でしたな……そういえば。ええ」
そう。実質ソトが辣腕を振るっている――というのはコッソリ聞いてはいたが、俺はゴレーヌ村に特に指示を出していない。手紙でもだ。つまり、責任者はアメリアさんのままのはずなのだ。
「アメリア様でしたら、カリソト区の方で家屋を建てているかと。……ああ、カリソト区というのは新しくできた部分ですね。名前が付いていなかったのでソト様が名付けておられました」
「なんで村長代理が家建ててんだよ……」
俺も宿や村長邸を建てたりしていたのであまり人の事は言えないが、村になってからは建築は基本クーサンに任せていた。
「クーサンはどうした?」
「クーサンも急ピッチで家を建てています。こちらが進捗ですね。どうぞ」
ウォズマから地図を受け取る。カリソト区の地図で、建築予定のものは四角、建築済みはその中を赤く塗られていた。購入者がいるものは追加で名前が書かれている。
……既に7割が建築済み、そのうち9割が購入済みのようだ。
「へぇ、結構埋まってるのね」
「はい奥様。カリソト区は急激に成長しています。それも村長のご人徳の賜物かと」
「俺の? どういうことだ」
「どういう事も何も村長、『ドラゴンテイマー』の傘下ですよ? しかも帝国の重鎮、四天王とも繋がりがあり、その四天王自身を従えて町を作っている。これは人に集まるなと言う方が無理でしょう」
別にドラゴンは飼ってないんだが……まぁドラゴンに襲われても交渉できるのは確かだし、なんなら報酬次第では仕事も頼めるが……
言われてみれば、いかにも凄いヤツが町を作っているように聞こえる。
『乗るしかない、このビックウェーブに』というやつだ。
一度勢いがついてしまえば、もはや止めることはできない。
強引に止めるのであれば、全てを破壊してなかったことにするしかないが、そんなことも今更できない。
もはや町はできている。町ができているのだ。
「どうしてこうなった……」
「いやはや、まさかソト様に開発計画を託していたとは。そういうことであれば私の方にも一言言ってくださればよかったのに」
「託してない」
「……はい?」
「ソトの独断だ! なにやってんだアイツはぁッ!!」
思わず叫び声を上げてしまう。
「……え。独断で町作ったんですか? その、ソト様が?」
「そうだよ俺はまったく関与も許可もしてないぞ……」
「……そういえば、アメリアさんを補佐に回して、色々サインさせてましたね?」
「その書類見せろ。全部だ!」
「は、はい!」
と、ウォズマが書類を引っ張り出してくる。ロクコにソトとアメリアさんを呼んでくるよう頼みつつ、書類を確認していく。
……新区画開拓計画 発案アメリア。現場責任者、ミーシャ、ドルチェ。
……建材確保計画 発案アメリア。現場責任者、アメリア、ミーシャ。
……新区画外壁建築計画 発案アメリア。現場責任者、ミーシャ、クーサン。
……新区画区民誘致計画 発案アメリア。責任者、アメリア、ドルチェ。
……新区画商店誘致計画 発案アメリア。責任者、ドルチェ。
……新区画開発予算案 発案アメリア。外部協力者、カリニソト。
……新区画運営人員計画 発案アメリア。責任者、ドルチェ、ウォズマ。
……新区画関連依頼1 発案アメリア。受諾:冒険者ギルド、ミーシャ。
……新区画関連依頼2 発案アメリア。受諾:冒険者ギルド。
…………
……
それらは、すべて村長代理の発案での計画となっていた。ソトが関わっているのは、書類上では開発予算案しかない。
一応その予算案の書類を重点的に見る。
……金貨5000枚? おいおいどこからそんな金を。ウチの金庫か? だとしたら横領でガッツリ叱れる……えっ、村の資金にはノータッチでソトのポケットマネーだと!?
は? 建築技法の開発及び販売!? 建築実験による割引!?
あ、備考と概要があるな。
えーっと。概要、トレント石材、スライムコンクリート製法……カンタラが言ってたバジリスクってのはこれか。なるほど考えられている。
ふむ、これが建材確保計画につながってるのか……バジリスクの餌代にスライム代……
材料費及び冒険者ギルドへの支払いもこれですべて賄っていて……
おいおい、商会や新しい住人からの金を村の収入として金庫に突っ込んでやがる。余った金もだ。
町をひとつ突貫で作ったのに完全黒字ってどういうことだよ。
しかも今後継続した収入が見込める……この書類にはないが、DPに至っては丸儲けだ。
……よ、よくできてやがる。これは突発的な思いつきじゃないな?
「パパ! ママ! おかえりなさーい!」
書類を読んでいると、諸々を企んで成し遂げた大首魁、ソトがやってきた。
青い顔をしたアメリアさんも一緒だった。
「ああただいま。ソト、お前随分と元気にしてたみたいだな?」
「えへん。やってやりましたよ!」
「うんうん。だれがここまでやれと言った?」
「……てへぺろっ!」
「あとでお仕置きな」
「ええーーーーーー!! 私、ただパパのために村を大きくしただけなのに!」
絶対嘘だ。とても残念そうには見えないそのニマニマした顔には、いくつかの企みがあるに違いない。
「あ、あの、ケーマさん」
「アメリアさん。いやぁ、村の為に随分色々と発案してくれたみたいですね?」
「…………私はサインしてハンコ押しただけです」
うん、それが一番問題なんだけどね? ちゃんとした手続きになっていて、何も問題がないことになっているのだから。
「パパ、私は悪い事なんてなーんにもしてないですよ? アメリアさんの権限の中で出来ることを最大限やってもらっただけです! だからパパは私を叱れません!!」
「村を任せたら町にして返してきた……ってやりすぎにも程があるだろ」
「いやぁ、四天王ってやっぱり優秀ですねぇ! さすがアメリアさん! 靴下の化身!」
「え、私なにも」
「残念ながらソトがそう手を回したので書類上はアメリアさんが功績第一位ですよ。……なぁ、ソト。この書類見るとハクさんのサインがあるんだが。交渉済みだな? 功績の所在は既に確定してるってことか」
「はい。ぜーんぶアメリアさんの功績です!」
こ、この愛娘め。俺はワタルに功績を押し付けるのを失敗したというのに、なんてやつだ!
「えええっ!? 私がやったことになってるんですかぁ!?」
「そりゃ、俺が村長代理を任せたのはアメリアさんですし? これはハクさんからお褒めの言葉が頂けそうですねぇ」
「おー、それはきっとご褒美にハク伯母様の足から直接靴下を脱がさせてもらえますよ! あ、貰った靴下は私に下さいね?」
「ひぃ……」
ソト、それがご褒美になるのはお前だからだ。アメリアさんは靴下性癖ないだろうからそれはご褒美にならないぞ。
「あ。パパ。四天王の皆さんにはまだ特別報酬とか渡してないので、適当にあげてください。財源は金庫に利益を全部突っ込んどいたんでそこからどうぞ」
「え、これだけコキ使っておいて何も渡してなかったのか?」
「そりゃそうですよ。ハク伯母様からの出向だし、子供の面倒を見る――私が頼んだ仕事をするのは通常業務でしょう? なら私が勝手に金銭報酬をあげるわけにいかないじゃないですか。子供らしくささやかなプレゼントくらいで、靴下はあげましたけど」
ポケットの中の綺麗な石、くらいの『子供の宝物』レベルの報酬なら面倒を見てもらった子供が渡しても良い程度。だがそれが金額の高いものになると問題だから、という主張だった。
「報酬をあげるなら出向先の上司、パパからですよ? 私はなんの権限もない、ただの村長の娘なんですから。ふふふん、完璧な理論です!」
こ、こいつ。町一個作らせて「子供の面倒を見た」で済ます気か!?
手続きが完璧で書類上は本当にその通り済んでしまう……全部ソトの手のひらの上か。
だが。
「我儘でコキ使ったってことは、その我儘が酷かったら叱るのは親として当然だな?」
「あっ」
「これだけの事をしでかしたんだ、相応のお仕置きになるだろう。覚悟しろよ?」
「……で、でもこの大黒字ですよ!? しかも誰も損しない、得しかない。笑顔溢れるウィンウィンの商談で三方良しのオールハッピー! ね!?」
「確かに素晴らしい成果だ。これは俺でも真似できない、そこは素直に褒めるとしよう。すごいなソト、驚いたよ」
俺はソトの頭を撫でる。えへへ、と嬉しそうに笑うソト。
「だが結果が良かったら許されるってのは『大人の世界』での話だ。子供は過程こそを大事にしないといけない。なぜならまだ成果を期待されていない、庇護下にある存在だからだ」
「!? これだけの成果を出したんだからもう大人ってことでいいじゃないですかぁ!」
「『子供の我儘』なんだろ? ダブルスタンダードは良くないぞソト」
さて、成果をしっかり確認した後で、たっぷり褒めて、存分に叱ってやるとしよう。
親なのでな。
(以下お知らせ)
コミカライズが、コミックガルドの方で更新されてますわ!
ニコニコ静画の方も随時更新。コメント付きはいいぞ……! いっぱいコメントしてね!
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