カリソト区(ニク視点)
「……先日まで森だったとは思えませんね」
ニクは急ピッチで開発の進む新区画の見回りをしていた。壁に近いここは、既に四角く2~3階建ての建物がずらっと並んでいる一角だ。
まだ正式な名前は付けられていないが、ソトが作ったのでカリソト区と呼ばれている。
敬愛するご主人様夫婦が出張に行っている間に、その娘にしてニクがマスターを務めているソトによってゴレーヌ村は発展した。
ただの発展ではない、大発展だ。外壁に確保された土地の面積は町といっていい規模になっており、既に道も石畳が敷かれている。
住居などの建物もゴブリンのような勢いで建ち始めているわけだが、それもこれもソトの齎した新建築技法によるものだ。
なんと従来の十分の一という驚異の短期間で家が建つ。
代わりに、バジリスクやスライムを連れたミーシャやアメリアが生きたトレントを抱えて壁の内側を東奔西走するという滅茶苦茶な光景が繰り広げられているがそれはそれ。
尚、ソトの建築技法にはトレント石材とスライムコンクリートだけではなく、それに適したプレーンの間取り――丈夫さにかこつけて、2~3階の階段と床しかないようなシンプルかつ固定の四角い建物を作り、壁を含めた内装は後から使う人が考えて付けろという『トーフ建築工法』もあった。
……ニクがコッソリ聞いた話によると、「ダンジョンの迷宮エリアのとこ、壁が動いて間取りが変わるじゃないですか? あれを参考にしました」とのこと。
ニクがゴレーヌ村の新しい区画の見回りをしていると、ふと慣れた匂いを嗅ぎとった。
ソトの匂いだ。匂いがした建物を窓から覗くと、そこにはソトがいた。
「ソト様?」
「ひゃひっ!? あ、なーんだ、ニクお姉ちゃんでしたか」
ギィと窓を開けてニクを招くソト。お言葉に甘えて窓から入るニク。
建物の中は既に家具や壁が配置されており、すっかりソトの隠れ家となっていた。
……もっとも、本当の隠れ家は【収納】ダンジョンなのだが。こういう家の外にある別荘もまた隠れ家なのだ。
「ソト様、こんなところで何を?」
「ここは私の秘密基地なんです。パパとママにもナイショですよ?」
こくり、と頷くニク。
「ついでに言うと、宿題をしてたんですよ。今回のトーフ建築も含めて『高速街づくりの実験』ってことにしてハク伯母様にレポートを提出するとお小遣いが貰えるんです」
「なるほど」
「まぁ私的にはお小遣いより靴下の方が嬉しいんですが、お金も大事ですからね」
「そうですね」
お小遣いが貰えるという所以外よく分からないけれど、ニクはしたり顔で頷いた。
ソトは勿論それを分かっていて、詳しく説明する。
「具体的にはこれ書くだけでスライム代とバジリスクのレンタル料が全部ハク伯母様持ちになりますから、バカにならないんですよねぇ」
「?」
「ここの壁や区画を作るのにかかったお金をぜーんぶハク伯母様が出してくれるって話です」
「……それはとんでもないのでは?」
さすがに町一つを作るのにかかるお金が「お小遣い」とか「はした金」で済まない事くらい、ニクにも分かる。
「まぁ上手くいったらそれ以上にハク伯母様に利益がある話なので、伯母様にとっても実質タダですよ。この家も元々は資材置き場だったのを残してタダで改造したおうちです、おそろいですね」
「なるほど……?」
資材置き場の建物だったはずだが、他の家同様に四角い建物になっている。まるで個性を埋没させ、目立たなくするように。
そういえば資材置き場には地下室もあったはずだが、その階段は見当たらない。
「ん、ニクお姉ちゃん。どうかしましたか?」
「あちらの壁に違和感があります。この部屋、外から見た時よりすこし狭くなってませんか? そういえば窓が付いてませんね」
「……あー、緩衝材詰めて防音性能高めてるんですよ。ほら、工事の音とか色々ありますからね。あとそちらはトーフ建築では元々窓はありません、横側にはついてますけど」
そう言うソトは、ニクに目を合わせなかった。
何かやましいことがある時、ソトはニクの目を見ない。
「ご主人様に怒られるような事、しました? あるいは、してますか?」
「ちょぉーっと村を大きくし過ぎたかなぁって気はしてますね!」
「こちらを見てくださいソト様」
ニクの要求を断れず、ソトはニクの目を見る。
「……」
「な、なんですかぁもぉ……私の事好き過ぎ?」
「……」
「う、う。うー……」
「……」
「やぁ、その、えーっと! わ、悪いことは少ししかしてませんよ!?」
「少ししてるんですね」
「……うぅぅ」
しゅん、としおれるソト。ニクのような犬尻尾があったらくってり垂れているだろう。
「ところで、地下はどうなってますか?」
「ち、地下? さぁー、な、なんのことやら」
「なるほど。じゃあここで床板をはいで穴を掘っても何の問題もありませんよね」
「ありますよ!? さすがに家の破壊はやめてくださいねニクお姉ちゃん!?」
それは一理あるので止まるニク。
「そんなことよりお姉ちゃん、イチカが監修してた屋台の串焼き肉があるんですよ。食べますか?」
「食べます」
「ならどうぞ。はい、あーん」
「あーん」
ニクはソトがひょいと取り出した串焼き肉に2つの意味で食いつく。
耳と尻尾をぴこぴこぱたぱたさせて串焼き肉をもぐもぐ食べる。
「美味しいですか?」
「はい、おいしいです」
「よし、それじゃこの家の事はパパとママには内緒ですからね、絶対ですからね!」
「……何を隠してるんです?」
「秘密です! 秘密を隠してますので詮索しないでください! お願いします!」
ソトに頭を下げられてしまえば、ニクは受け入れざるを得ない。
ニクは詮索するのをやめた。
「わかりました、これ以上は詮索しません」
でもさすがにご主人様には言っておくべきだと思ったので帰ってきたら隠れ家のことは報告しようと決めた。
だってニクは誇りある奴隷なので。命令系統で一番優先されるべきはご主人様だから。
「(ふぅ、恋人ぶっ愛しゾーンはバレずに済みましたね……!)」
「(詮索はしないとはいいましたが、報告しないとはいってないです)」
(以下お知らせ)
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