ワコーク観光
俺達はワコークはアルコーウェルの町へと繰り出した。
気分は某映画村とかそんな感じ。行ったことないけど。
電気などのインフラを考えるとこのくらいの時代感が『ファンタジーに日本を作る』のに丁度いいのかもしれない。
そんなことを考えつつ、履き慣れない下駄をはいたロクコに腕にしがみつかれつつ土むき出しの道を歩く。舞子さんが履くようなぽっくり下駄なのでバランスを取るのも難しそうだ。
「うぐぐぐ、ナニコレ歩きにくいわっ……!」
「そもそもそれ普段使いじゃなさそうだぞ。今からでも草履に履き替えたらどうだ?」
「むむむ……っ、で、でも私はこれを履きこなして見せるわ!」
と、ロクコは引き続き俺の腕にしがみつく。ちょっと痛い……
ちなみに俺とワタル、そしてネルネは最初から草履だ。サンダルのように楽なもので、案外履き心地も悪くない。
ネルネがポーチを手にワタルの隣を歩きつつ聞く。
「そういえばこの町って勇者の故郷であるニホンがモデルなんですよねー? ワタルさんってこんなところに住んでたんですねぇー」
「いや、この国を興したのは戦国時代とか江戸時代――まぁ僕らの住んでた時代より300年以上は昔の時代が好きだった方だそうですよ。僕らの住んでた場所はもっと洋風でしたよね、ケーマさん?」
「そうかそうか。だからそれに俺を巻き込んでも無駄だと何度言えばわかってくれるんだワタルよ」
戦国時代と江戸時代はだいぶ幅があるが、まぁそれはそれ。
「そういえばお米が無いってことは団子とか大福とかは売ってないんでしょうか。そこらへんどう思いますケーマさん?」
「さてな。米が材料ならワタルがもっと米を買って流してやればいいんじゃないか?」
団子も大福も米が使われている。和のスイーツとしては代表的なものだが、やはりお米がなければ成り立たない。主にもち米だし、まだあまり流通もさせてないんだよな。
和食と米は本当に密接に結びついている……
「……予算の都合がありまして。もっと安くなりませんかねぇ?」
「さて、米がどのくらいとれるかはダンジョン次第だからな。俺も村の予算確保のためにがんばって探索してるんだぞ?」
「いやはや、ケーマさんには本当に頭が下がりまして……」
尚、米を売る金は完全に俺達の収入になるわけだが、村の予算も俺達が貸してる金をダイン商店が転がして稼いだ金から出ている。
俺が貸している予算は多ければ多いほど増えるので、ワタルに米を売ったら一割分を追加で貸し出していたりするのだ。
「まぁワタルが米を買ってくれる分、ゴレーヌ村も豊かになる。そしてネルネの給料も払える。巡り巡ってネルネに貢いでいると思っていっぱい買ってくれ」
「もう直接ネルネさんにお金渡した方が効率いいですよねそれ」
「おやー? 私の住むゴレーヌ村はどうでも良いとでもー?」
「そうはいいませんけどね! 僕にとってもゴレーヌ村は大事な場所ですし……あ! お饅頭の屋台ですよ! お饅頭!」
そう言ってワタルは屋台で饅頭を4つ買う。銀貨を1枚渡し、お釣りと饅頭を手に帰ってきた。饅頭は餡子と小麦が材料なのであるそうな。
肉まんくらいある大きな饅頭だ。蒸したてでホクホク温かいそれをぱかっと割れば、中身は黒い粒餡がしっかり入っていた。
「ケーマ、食べさせて。私今立つので必死なの!」
「座って食べればいいだろ」
「いいから食べさせてよ」
「……しょうがないな。ほら」
割った饅頭をロクコの口元に運ぶと、ロクコはぱくっと饅頭に齧りついた。
「あら。甘いわね! 好きな感じよコレ」
「へぇ、メロンパン食べ慣れてるロクコが甘いって言うほどか。どれどれ?」
俺も食べる。……ホントだ、餡子がちゃんと甘いぞ。これ4つで銀貨1枚でお釣りでるのは結構お買い得なのでは? それとも砂糖が多く出回ってるのかな。
「この餡子ってやつ? メロンパンにはさんでも良いかもしれないわ」
「ついでにクリームも挟むとよさそうだな」
「何それ絶対食べたい! 餡子はお土産に買い込みましょうね!」
キヌエさんならきっと良い感じにスイーツを作ってくれるだろう。
「……ネルネさん、ネルネさんもお饅頭いかがです?」
「はいー? 美味しいですねぇー、頭がちゃんと働きそうな味がしますよー」
で、ネルネは普通に食べていた。
少しだけ残念そうなワタルに、にこっと笑うネルネ。
「……食べさせて欲しいんですかー?」
「あ、えっと。はい」
「正直でよろしいー。しかたないですねー、今度何か上級魔法のスクロールをお土産に持ってきてくださいねー? はいー、あーんー」
「は、はい。あーん……いやぁ、食べさせてもらうと格別ですねぇ!」
上級魔法のスクロール、DPで言うと10万DPとかだったりするんだが……ワタルはネルネにどれだけ貢ぐんだろうか。
やっぱり米すこし安くしてやろうかな……
そしてその後、しっかりしたつくりの木橋やら五重の塔みたいな木造建築の塔を観光して、最終的に宿にたどり着いた。
その辺すっかり忘れて観光してたが、ちゃんと予約してあったらしい。ワタル、有能。
「ここが今日の宿です。畳があるんですよ畳が! あとオフトンも!」
「オフトンは普通にウチの宿でも使ってるだろ。ここにもあるんだなぁ」
「言われてみれば確かに。ですが、この宿のオフトンは一味違います……なんと、高級羽毛布団なんですよ!!」
「ほほう。ワタルの評価が少し上がったぞ」
「温泉はあるのかしら? あるなら、ウチの宿の参考になるかもしれないわね」
「温泉ではないですが、大浴場はあります。あ、ちゃんと男女別ですよ?」
そして俺達はワコークはアルコーウェルの宿に一泊する。
晩御飯は中身無しの饅頭――ほぼパン――を主食とした和食っぽい食事だった。
煮物に焼き魚。なんとワカメと豆腐の味噌汁もあった。
……というかこれは……米が食べたくなる……! 米で食べたくなるなぁ……!!