(一時帰還)
船旅で数日経った。
海上では特にすることが無い。一応陸地が見える範囲を航行してるのだが、基本的には何もない。釣りも魚がかからなきゃボーッとしてるだけだ。
陸地が見える距離なのは、船の特性的に近海に強いのと、海洋モンスターの分布的に安全なのでということだ。
……つまりモンスターの襲撃もない! 勇者が乗ってるってのに平和な船旅だぁ。
というわけで、船旅の間は割と暇になるわけだが、俺とロクコ、ワタルとネルネで2部屋に分けている。
ワタルは最初男女で分けようと言ってきたけど、ワタルと同室でずっと詮索されるのは御免だからな。
男女で一緒の部屋に分けて、何かあったらどうするのかって?
責任をとらせるだけだな。まぁ、ワタルなら喜んで責任取るだろ。
取らなきゃ監禁してネルネの研究材料&DP生産装置にしてやるわ。
で、この部屋割りの理由はもう一つある。
「んじゃ、そろそろ一度帰るかぁ」
「そうねー、海も最初は楽しかったけど、何もなくて暇だし」
と俺は【収納】を開いた。
「あ。パパ、ママ。おかえりー」
そこはもう【収納】ダンジョンのエントランスで、さらにそこから一歩出ればゴレーヌ村なのである。
尚、船側の【収納】は石――正確には【収納】を覚えさせた石ゴーレム――を転移マーカーとして置いてあるので、ソトの協力があればいつでも戻ることができる。
出入りするところを見られないために、部屋を分けて、いざという時の足止め用にネルネをワタルの傍に置いているわけだな。
「船旅はどうですか?」
「ただいまソト。海は案外退屈よ。なんやかんやずっと揺れててフラフラするし」
ああ、動かない足場っていいわね。と、ロクコは【収納】ダンジョンのエントランスに椅子を出して座った。
「心なしかあの船、前にロクファ達に乗らせてた船より揺れてるんじゃない?」
「そこは船の特性だろう。で、ソト。村の方はどんなだ?」
「まぁまぁ平和ですよ。私が次期村長として君臨してますしね!」
「……ん?」
あれ? 俺、ソトにそんな仕事を頼んだっけか?
「まだ俺達が村を出発して数日だろ? なんでソトが次期村長とか言ってるんだ。何かあったのか?」
「まぁ聞いてくださいパパ。これも成り行きなんです」
「……いやそもそもレイからの定時報告では問題なしって聞いてたんだけど?」
「私が止めてました!!」
おいレイ、いくら村の事だからって、マスターへの報告を誤魔化すのはよくないんじゃないか?
「あ、私は聞いてたわよ」
「おいロクコ? 言えよ。そこはちゃんと把握させてくれよ」
「可愛い娘に『ばっちり働いてパパをびっくりさせたい』って言われたら止められないじゃない? 可愛らしいお手伝いよね」
実際、大した問題はなかったそうだが……ともかく、話を聞くことにした。
* * *
ミーシャはアメリアのいる村長執務室にやってきていた。
今日は休日とのことで、副村長のウォズマは不在だ。
「暇にゃー。あー、なんかしてぇ……」
「いや、余計なことはしないでくださいよミーシャ。せっかくギルドに仕事を無茶ぶりしたんでしょう?」
「でも! 私は! そもそも有能さを見込まれてここに送り込まれたはずにゃあ!! よくよく考えたら何かちゃんと仕事しねーとハク様に叱られるんじゃにゃいかって……」
ケーマには仕事をサボって寝るみたいなことを言っていたが、よくよく考えれば命令系統はハクの方が上。そのハクからは『働いてこい』と言われているのだ。
「それほど気にしないでいいと思いますけどね。手足をうまく使うのがケーマさんが推奨している働き方でしょう?」
「それがハク様に通じればいいんだがにゃ?」
仕事をサボったと言われてオシオキをされるところを想像し、ミーシャはぶるっと震えた。
「一方私の方は……大変なんですよね。冒険者ギルドから色々と苦情が入ってまして……」
「は? あいつらアメリアに迷惑かけてるにゃ?」
「……村長って、冒険者ギルドの相談役というか、それが常識というか……こちらからも村の冒険者に指示して色々と仕事を割り振ることになりまして……」
「お、おう」
「なので、これ以上何もしないでいただけるとありがたいといいますか」
「な、なんかすまんニャ……」
同僚の苦情に思わず謝るミーシャ。
と、そこにレイが入ってきた。
「すみません、アメリア様。ミサの時間ですが準備の方は――」
「……ッ……! くっ、ケーマさんの嘘つき……っ! なにが大した仕事はない、ですかっ!」
ダンッ! と執務机をたたくアメリア。まだオフトン教の作法を覚えきれていないのだ。適当でいいとか言っていたが、そんなもの白神教の重鎮たるアメリアに許されるわけがない。
「というか! この村、色々と問題が多くないですか!? 色々手広くやってて既に村の規模じゃないんですよ、ゴレーヌ町ですよ!」
「それこそ副村長のウォズマってヤツに押し付けたらいいんじゃねーのかにゃ?」
「『村長に判断を委ねたい前例のない事』がどんどこ来るんですよ!? 過去の事例を思い出すのが大変です……」
それは、色々と新しい事に手を出しまくって規模を広げていったゴレーヌ村ならではの問題だった。
特に最近、新たに増えた『勇者ワタル告白記念公園』まわりの話が山ほど来る。
ウォズマもそこのあたりはなるべく処理しているのだが、最終決定はどうしても村長が決めなければならない、ということになっているのだ。
どこが飾りだ。完全に村長じゃないか。とアメリアは毒づいた。
「……まぁ、その、アメリア様。オフトン教のミサは本当に適当で大丈夫なので!」
「うぐぐ……しかし白神教の者として、きちんとしないと……」
と、レイが宥めすかしているところに、一人の救世主がやってきた。
「――私が来たッッ!!」
「「「そ、ソト様!?」」」
どーん、とレイの後ろから堂々と現れたのはソトだった。
ソトは村長夫妻の実娘――ハクの妹であるロクコの娘で、つまりはハクの可愛い姪である。レイ達『欲望の洞窟』勢だけでなく、四天王達にとっても尊重しなければならない相手だ。
「私が! 次期村長として、アメリアさんを助けてあげましょう!!」
「……や、その。えーっと……」
アメリアは余計に仕事が増えるのでは、と思い言葉を濁した。
「さしあたり冒険者ギルドにはニクお姉ちゃんを送り込みました。教会のミサだって生粋のオフトン教徒である私にはチョチョイのチョイですよ!」
「……!!」
「あとドルチェさんの部下のレイスさん達には宿の仕事キャンセルして冒険者ギルドの手伝いを命じときました。宿の食堂業務や清掃はうちのシルキー達の仕事ですが、同時に趣味みたいなところあるので……奪うと軋轢が生じるんですよねぇ。ドルチェさんも良かれと思ったみたいですが、それで別の問題に発展したりもしてたようで」
そして、失念していた。この娘は、あのケーマの娘であると。
「……さぁて、そんなわけで次期村長としてアメリアさんに命じます。私の補佐に付きなさい! あ、ミーシャも私の下についてね! 適宜指示して上手く使ってあげるから」
「は、はいっ!」
「え? わ、わかりましたにゃ」
ケーマからは【ちょい複製】の能力に関する仕事しか割り振られておらず、普段は子供らしく気ままに遊んでいるソト。
実は「時空神カリニソト」の知識を伝授されており、その能力は『次期村長』として十分なものである。
……しかし、その性質を考えると、自分からわざわざ「仕事をしたい」と言い出すのには違和感があった。
ソトはどちらかといえば必要がなければ最小限の仕事しかしようとしない性格なのだ。自らの行いによる影響を最小に収めたい、という感じで。
……一体なにを企んでいるのか? レイはソトに訝し気な目を向ける。
「あっ、私の仕事報酬はアメリアさんの蛇足の抜け殻でお願いしますね!!」
レイは納得した。
(以下お知らせ)
ニコニコ静画のだんぼる、ギリギリ復活…!!
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