女子会Side
「まったく! せっかく姫のために用意した舞台が台無しじゃないか! 何を考えてるんだあの男は……本当に我が君に認められた男なのか!?」
「あっははは、これがウチのマスターなのよ219番」
折角用意したギガプラントを前に、ケーマ達がくるりと逃げ帰ったことで219番は大変不満だった。一方で、ロクコは「ケーマらしい」と上機嫌だ。
「なぁ、ロクコおばちゃん。おじちゃんはなんで帰ったんだ?」
「そりゃあれよ。面倒だからでしょ」
「あー。おじちゃんらしいな」
「面倒……あの男、そんな理由で……姫に良いところを見せようって気はないのか!?」
もちろんロクコは、ケーマが本気を出せばあのくらいのモンスター片手で捻ることもできると知っている。なにせ、あの混沌神に修行を付けられたわけだし。
……いや片手は言い過ぎたかもしれないけど。
だがその力はそうそう見せたりしないのだ。
能ある鷹は爪を隠す。寝たいダンジョンマスターも同様だ。
「下手に力を見せびらかしたら、色々と面倒になるって知ってるのよ。うちには勇者ワタルが良く来るし」
「……た、たしかにアタシもイタズラに畑燃やしたら大変なことになったっけな」
ぬぬう、とイグニは以前ゴレーヌ村の畑にちょっかい出したことを思い出した。
父親に叱られ、ケーマ達と一芝居打つことになり凄く面倒だった。
「英雄に憧れはないのか!?」
「ないわよケーマは。そもそもダンジョンマスターが表に出てどうすんのよって話じゃない?」
「むむ。その点は帝国より魔国の方が映える……」
「あと英雄っていえば前にドラゴン退治したもの。ね、イグニ?」
「おう? そういやアタシおじちゃんに倒されたってことになってたんだっけ?」
「龍殺しの英雄か。いいねいいね、そういうのもっと頂戴」
「アタシ殺されてないってば!!」
何やらノートを取り出し、羽ペンでガリガリと描き込む219番コア。
「っていうかね?……ケーマが本気を出すのは、私を守る時だけ、なのよ? だからこれでいいのよ。ふふふ」
「おっと。惚気かな? 素晴らしい。もっと聞かせて。あと本気を出したらどうなるかも教えて」
「戦いの手札は明かせないけど、惚気なら聞かせてあげるわ」
と、女子会らしい恋バナや惚気が始まる。
ロクコの惚気を聞いて、219番はどんどんノートに書き込みを進める。
「惚気ならウチのパパとかーちゃんも負けてないぞ!」
「おっと、112番とそのマスターは夫婦だったね。いいぞイグニ、お礼にこの果実をあげるからどんどん喋っておくれ」
「おうっ! あれはそう、お風呂上りのことなんだけどな――」
アンブロシア食べ放題を報酬に、ロクコに続いてイグニがイッテツとレドラのいちゃらぶっぷりを話す。
その濃厚なイチャイチャに、219番は「おやおや、おやおやおや!」とガリガリ羽ペンを走らせ、ロクコも思わず赤面する。
「――ってこともあったなぁ」
「……ねえ219番、それを私とケーマで書いたりとかはできるかしら?」
「ハッハッハ、書くのは良いが、僕のは劇台本だからねぇ……よし、ちょっと植物騎士に演じさせるか。声は僕があてよう」
「上手くできたら買い取るわ!」
そう言って219番は植物モンスターを出し、操る。
「おお、髪にマグマついてるぞ。ほら、取ってやるから動くな……ん。ああこら、どさくさに紛れてキスするんじゃない、子供が見てるだろ――」
2体の植物騎士がイチャイチャと絡み、それに声色をかえて219番がセリフをつける。
イグニは「そうそうこんな感じ」と頷きつつ、ロクコは「わぁわぁそんな」と興味深そうに見入った。
「……次は劇場でも作ろうかしら」
「おっ、文化の花開く音。いいねぇ、劇場建てたことのある大工を紹介するよ?」
「……ん? でもツィーアにもう劇場があるのかしら?」
「劇場はいくつあってもいいさ。ああ、パヴェーラにもあるよ劇場」
ゴレーヌ村を挟んだ2つの町にあるなら、別にいらない気がしてきたロクコ。
「それだったらケーマと一緒に馬車で行くデート、というのもいいわね」
「馬車デートか。向かう道中で二人きり……うんうん、良いアイディアが出てきたぞ」
「あ。そういえば前に魔国に行くときに馬車でね……」
「ほほう、膝枕……!」
「ロクコおばちゃんやるぅ!」
惚気話を中心としたとりとめのない雑談。ご近所同士の親睦を深めるという女子会の目的は、無事達成されていた。
「ところでイグニ。姫をおばちゃん呼ばわりはどうかと思うのだけど。しかもイグニの方が年上だろう?」
「え? パパのお友達のおじちゃんのツガイで、しかもソトちゃんのお母さんだからおばちゃんだろ? ってかソトちゃん最近マジでつよくなったよなー、どんな修行したんだろ?」
「何よイグニ、ソトと戦ったりしてるの?」
「火ぃ噴いてもどっか飛ばされるんだよね。あれどこに消えてるの?」
どうやらソトの【収納】ダンジョンにはイグニのドラゴンブレスが『保存』されてるらしい、それも恐らく複数。と、ロクコは思い至った。
……多分隔離してるだろうけど、うっかりケーマが保存している部屋を開けて燃えないよう、しっかり管理しておくように言っておこう。
と、そんな風に女子会をしているうちに、いつのまにかケーマ達がギガプラントと戦わずに逃げ帰ったのは219番もどうでもよくなっていた。
「ねぇケーマ。ちなみにギガプラントと戦うとしたらどうやって倒してたの?」
「え、魔法でフツーに焼き殺すまで燃やすか……奥の手アリなら【超変身】でイグニにでも変身して巨大怪獣決戦かなぁ? ま、ウゾームゾーの前じゃやらないけど」
(※書籍版7巻では、全く異なる状況かつ別の方法で戦っています。219番は泣いていい)