ダンジョン:『光の楽園』(3)
あけまして(半月経過済み)
ダンジョン『光の楽園』内、日の差し込む明るい部屋。黄色い果実の生るその木の下で、お茶会をしている3人。
「え、なにしてんのロクコ……?」
「女子会だけど?」
しれっとそう言うロクコ。
「丁度今日の予定だったのよ。そしたら219番のダンジョンにケーマが入ってきたじゃない? みんなで鑑賞しつつお茶してたの」
「えぇ……」
俺が呆気に取られていると、男装の麗人――219番ダンジョンコアらしい、が話しかけてきた。
「第219番ダンジョンコアだ。初めまして、というわけでもないよね。ほら、この子を覚えてるかい?」
と、219番コアはマイコニドを出した。見覚えがある。
「……マイコニド先輩ですか」
「そうそう。ああ。ゴーレムについてた土、ツィーア山のだって分かったからさ。元々近所のダンジョンでゴーレムだ。心当たりがあったし、折角だしお茶に誘ったってワケさ。納得したかい?」
土の成分か何かを元に特定したのか。
なにそれストーカー?
「ロクコ。そういう誘いがあったんならこっちにも教えてくれ。今回は良かったけど罠だったらどうする」
「あら。だからレドラからイグニを借りたんじゃないの。私に何かあればイグニが火を噴くわよ」
ロクコがイグニの頭にぽんっと手を置くと、口から小さく「ぷーっ」と炎を吹いた。
「ハハッ、大丈夫。ツィーア山の112番とは顔なじみさ。何度か殺されかけたけど、それも三百年くらい前に和解してるしね」
あいつ昔は本当に燃えてたから、近づくだけでも命がけだったんだよ。と笑う219番コア。
今俺がイッテツと普通に肩組んだりできるのも、219番がいてくれたからなのかもしれない。
「それで、俺はこれどうしたらいいんだ?」
「どうもこうも……お茶飲んでく?」
「とりあえず一杯どうぞ。ロクコ姫のマスター君」
そう言って219番が木製のティーカップに紅茶を注いだ。
「これは僕の自信作でね。植物騎士の葉を摘み、刻んで発酵させた紅茶さ」
「植物騎士って。それ、普通に食べられるモンなの?」
「大丈夫、ニンゲンでも食べられる。植物暗殺者でもなきゃ毒はないよ」
というか、219番コアも植物系だと思っていたのだけど。
「植物系コアって、お茶は飲んで大丈夫なのか?」
「ん? 意味が分からないな。植物には動物のような好き嫌いはあまりないだろう? 全部を土にして食ってしまう、食物連鎖の頂点が植物なのだから」
「……俺の知ってる食物連鎖とちょっと違うなぁ」
「それは立場の違いというだけさ」
入れてもらった紅茶を一杯頂く。うん、鼻に抜ける香りが爽やかでいいな。
ほんのりリンゴや梨のような甘い匂いもする。
「……まぁ、今俺達はアンブロシアを求めてこのダンジョンに来たわけだけど。もらってってもいいか? 先輩」
「いいよ。そこにも生ってるけど20個くらい要るかい?」
と、219番コアは黄色い果実を山と積み重ねる。
うん、全然貴重に見えないな。ただの梨っぽい雰囲気すら出てきたわ。これならイチカにも1つくらいやっていいだろう。
「随分と協力的というか、なんというか」
「なに。ここまでの道中監視――げふん。楽しませてもらったからね。いいインスピレーションを得させてもらったささやかなお礼というものさ」
「219番って、劇の台本書いたりもしてるんですって」
ロクコがそう補足する。
「へぇ、劇の台本を……じゃあ今度ウチの教会においてある本でも見せてやるといいんじゃないか?」
「あ、それはいいわね。次のお茶会の時に貸してあげるわ」
「おやおや、それは帝国中の本を読み漁った僕を満足させてくれる本なのかい?」
「勇者の世界の農業の本もあるわよ。もちろん、物語も」
「素晴らしい。アンブロシアもう20個追加しようか」
もはや【収納】に入れないと持ち運べない量をどっさり置く219番コア。
「良かったわねケーマ。依頼は十二分に達成できそうじゃない」
「あ、ああ、うん。そうだな」
ニッコニコのロクコに、俺は頷く。
「……で、だから今日は帰ってくるのよね?」
「えっと。……2、3日かけて稼いでこようかなって?」
「ふぅん……ふーん。そう」
くい、と紅茶を飲むロクコ。
「というか、こんなダンジョン内でお茶会してたら冒険者に目撃されちまうだろ」
「あら、大丈夫よ。ねぇ219番?」
「ああ。姫の言う通りさ。このダンジョンのコアたる僕がここにいて、ついでにマスターも監視してくれているからね。備えは万全さ」
まぁダンジョン側でマップとかで監視できるのは知ってるけども。
マスターはコアルームにいるのだろうか。はたまた、ダンジョンの奥底か。
「ま、ツィーアは僕の領域だから、今後も会うコトがあるだろう。よろしく後輩君」
「ロクコは姫で、俺は後輩か」
「ああ。僕の主はハク様だからね!」
とりあえず敵ではなく、同じ派閥の仲間だということで握手を交わす。
「……そろそろ戻るわ。あんまり時間かけてるとウゾームゾー達が様子を見に来るかもしれんし」
「そうね。219番、そっちの様子はどう?」
「ん? ああ。大人しく待ってるよ。でも確かにそろそろ追いかけて様子を見に来てもおかしくないね」
さてさて。俺は風呂敷を取り出しアンブロシアを包む。半分は【収納】に入れておいて、と。
「ああ。ちなみにこのフロア、ボスはあっちの方に居るよ。良かったら戦っていってくれ、後輩君なら勝てるさ。アイヴィジャイアントより少し強いくらいだから」
「……どーも?」
一応、おススメされたし部屋を覗くくらいはしてみるかな……。
(以下お知らせ)
コミカライズの更新がありましたー。(通知遅れまくり)
カクヨムコン9向けに新作の宣伝しときますわ。
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いつかお嬢様になりたい系ダンジョン配信者が本物のお嬢様になるまで
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お嬢様志望のダンジョン配信モノです!
普通のダンジョン配信モノと違うのは……ダンジョンがゲーム形式で、
多分無双もしなくて、命の代わりに貯金額がかかってて、
あとVtuberモノでもあるってことかな……!