獅子堂レオナの逃走
助けを乞うレオナ。追いつめてるのは俺の娘、ソト。
……あれ、お父さんとして娘のこと心配してたけど、娘の方がたくましくて頼りになる?
「あー、その、なんだ。レオナ、一体どうした?」
「あの子はサキュバスよりサキュバスよ……私を狂わせる小悪魔……ッ!」
「まさかレオナさん、ソトちゃんに手を出して……!? だめですよあんな子供に!」
「してない! まだしてないからっ! さっき大きくなったら云々は約束させられたけどっ!!」
それ、ソトは番外とはいえダンジョンコアだから、成長するとしたらDPを使って……一瞬なのでは?
ロクコだってDP消費するしないで大人・ロリを切り替えられるんだぞ。ハクさんもだ。
見たことはないが、ソトにだって大人形態があって可笑しくない。
「おいレオナ。それ騙されてるぞ」
「え? やーねケーマさん。この私が子供に騙されるわけないじゃない」
「その子供に半泣きにさせられてるんだろうが。今まさに」
ネルネにも出し抜かれたくせに。
あれ? もしかしてレオナ、戦闘以外ではわりと攻略可能なのでは?
「……このままだと今夜布団の中にいるぞ」
「そんな。さすがに一晩で大きくなったりしないでしょう? ソトちゃんは自分で口にしたことは絶対に守る子よ? 約束を破ったりなんかしないわ!」
レオナからのソトへの信頼が強い。これもう堕とされてねぇかな?
「うんうん、つまり大きくなったら逆に約束を守らせるわけだな。ところでソトの出自について……レオナは知らなかったか?」
「え? あー、んー、知ってるけど……あっ」
ワタルの前だからボカして言ったが、レオナはちゃんと気付いたようだ。
「え? ソトちゃんってケーマさんとロクコさんの娘ですよね、何かあるんですか?」
「ハクさんが何年生きてるか知ってるか? そんなハクさんの妹の娘がソトだぞ」
「僕の常識が通じない存在ということは分かりました」
ついでにネルネも実年齢ひと桁みたいなとこある。言わないでおくけど。
「……ケーマさん! 今日、最終試験を行うわ! ワタルさんも手伝っていいから私に勝ちなさい!! それを見届けて旅立つからっ!!」
「え? 僕も手伝っちゃっていいんですか?」
「ネルネちゃんと結婚するならケーマさんの配下ってことで協力していいわ」
「そう言われたらやらざるを得ませんね」
得意げに頷くワタル。でもお前、デートのときレオナの結界破れなかっただろうが。
「よし。ぶん殴るから目いっぱい手加減しろ」
「まかせて。私は一歩も動かないし攻撃しない。結界を突破できたらケーマさんの勝ちでいいわ」
ここに俺とレオナの利害がなんか一致した。
それもこれもソトって愛娘の仕業なんだ……! 時空神カリニソトの方も含む!
「ええっ? お二人とも、最終試験ってつまり修行の成果ですよね? いいんですかそれって」
「いいんだよ気にすんな。……はー、めんどくさ。じゃぁやるかぁ」
「そうよ。私はソトちゃんと距離を取りたい、ケーマさんは私と距離を取りたい。利害は一致してるわ」
レオナの発言にワタルが首をかしげる。
「……あの、レオナさんはソトちゃんの事が嫌いなんですか? 話を聞いてる限りそうは見えないですが」
「好きすぎて怖いくらいよ!!」
「両想いなんですね。将来はケーマさんの義娘ですか」
おいやめろワタル。こんな義娘ゾッとするわ。
「それで年齢はともかく、他に何か問題が?」
「1歩近づいたら100歩踏み込んでくるの!! そしてあの子にグズグズに溺愛されたら10年くらい何もできなくされるわ。いえ、10年で済めばまだいい方かもね……」
なにそのダメ人間製造機。ウチの娘そんなだったの?
「私はもっとこの世界で楽しみたいのよ。今はまだ溶かされるわけにはいかないの」
「なるほど、僕もワコークとか行ってみたいですし、そんな感じですか」
とりあえずワタルは納得したようだ。
「……【エレメンタルショット】」
「いたっ」
ぺちん、と指先から出た光線がレオナの肩を弾いた。
うん、これ「いたっ」で済むような威力ではないはずなんだが。どんな魔法防御力だ。
「……あの、ケーマさん? 何を?」
「え? もう始まってるなら不意を撃たれる方が悪いよな?」
「! その通り、合格よケーマさん!」
おっ、やったぜ。今ので突破判定になったらしい。
「あの。僕と協力という点についてはどうなったんです?」
「レオナの気を引いてくれて助かったぜワタル! 俺たちの友情の勝利だ!」
「ええ、見事なコンビネーションだったわ! それじゃあ私は今をもって旅に出るから、達者でねお二人とも!」
そう言うや否や、レオナはささっと【収納】から取り出したマントに身を包み、窓を開けて飛び出していった。
よほどソトから距離を取りたかったと見える。
「……あれっ、え? 本当にこれでお別れなんですか?」
「なに、運が悪けりゃそのうちまた会えるさ」
俺は椅子の背もたれに体重を預け、深く座った。
……次来たらソトをけしかけてやろう。
ソトの心配? もう手遅れだからお父さん諦めたよ。
そもそもソトが本気だしたら俺には止められないことが良く分かったわ。
いつの間にレオナに迫ったりしてたのか全く把握してないもん俺。
……と、ワタルがふと呟く。
「レオナさんが出てったことで、ソトちゃんが大変なことになりませんかね?」
「言うなワタル、考えないようにしてたんだから」
一難去ってまた一難。とはいえ、多少はマシな一難になってくれたはず。
「……マシ、だよな?」
「いや、僕には分かりませんけど」
「ワタルが手伝ってくれた旨、ソトにはよく言っておこう」
「わぁ、大変そう。……僕もそろそろ村を出ますかね、勇者のお仕事ありますから!」
ネルネと正式に付き合い始めて、随分と村に長居してたもんな今回。
「そんなワタルさんに重大プレゼントーーー!」
「うぉっ!? ソト!? いつから聞いてた!?」
執務机の下からにょきっとソトが飛び出てきた。
「レオナさんが駆け込んできたところからですが?」
「最初からか」
……その割には随分と大人しい。レオナが村を出ていったというのに。
「ソトちゃん、僕にプレゼントってなんですか?」
「あ、そうでした。こちら、ネルネの声を記録したアイテムです。ダンジョン産の最新アイテムですよ!」
と、巻貝をワタルに渡すソト。
ぱっと見、パヴェーラからの客が持ちこんだ貝を、録音ゴーレム化したものだと思われる。
……俺自身は作った覚えないけど、録音ゴーレムを作る【クリエイトゴーレム】の呪文を録音してネルネに渡していた。
ダンジョン産アイテムとして紹介したということは、ネルネが習得して生産できるようになったということだ。これは褒賞を出さなきゃな。
「ここを軽く叩くと声が出ます」
とソトが巻貝の先端部分をツンツン叩くと、貝から『ワタルさんー。ちゃんとー、仕事してくださいねー? ご褒美ーあげますからねー』というネルネの声が再生された。
いいのかそれで。と思ったけど、ワタルは満足気だった。
「声を記録するアイテムですか、すばらしいプレゼントですね!」
「魔力が切れたら声が消えちゃうので、切れる前に補充してあげてくださいね。記録して上書きしないように録音方法も教えておきます。もう一個あるので、こちらにワタルさんからネルネへの愛のメッセージを入れてください」
「……え、ここでですか?」
「はい! どうぞ!」
「え!? あ、ね、ネルネさんっ、あ、あ、愛してますよっ! いっぱい稼いできますね!」
「あ。ごめんなさいちゃんと録れてませんでした。もう一回」
「ええー!? 愛してますよ、ネルネさんっ!」
無茶ぶりにちゃんと応えるあたり、さすが勇者ワタル。やりおるなぁ。
……
ワタルを見送って尚、ソトはニコニコと上機嫌にしている。
レオナが出て行ったのにどうしてだ?
そう疑問に思っていると、ソトがぽつりと言う。
「ちなみにですが。この録音ゴーレムには【収納】を習得させています」
「……何だと?」
ゴーレムが【収納】を。方法としては、【憑依】して『収納のスクロール』を使うだけ。時空神カリニソトに教えてもらったらしい。
ただし、ゴーレム本体には魔法を使う機能がないため、自ら魔法を発動することはできない。故に、まったくの無意味……
――だが、これはソトにだけは事情が異なる。
ソトは、このダンジョンの関係者の【収納】に勝手にアクセスできるのだ。
そして【憑依】してる時点で、録音ゴーレムはダンジョンの配下扱い……つまり、
「……ならソトは、いつでもその録音ゴーレムがある場所に行けるってことか?」
「いぐざくとりー。そしてこれと同じものを今朝レオナさんにもプレゼントしました! 私と思って大事にしてくれているはずです!」
なるほど。レオナが居なくなったのに、ソトが上機嫌なままの理由が分かったよ。
「私、大魔王でも名乗っちゃいましょうか?」
「やめとけ。魔国にちゃんとした大魔王様いるから」
……レオナ。大変不本意ながら、お前を義娘と呼ぶ日は近そうだ。
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