ネルネとデート 告白
(ちょっと間に合ってない気がしたけど気のせいでした!!(断言))
ワタル達は工場の話で盛り上がっていた。
「まったく色気のない話題だなぁ……」
俺達はそれを公園の池でボートに乗って堂々と盗み見している。
……普通に堂々と監視してる、と言っていいかもしれない。声についてもダンジョン機能で盗み聞きしているし。
「工場かぁ。今後そういうの作ったとして、ネルネがワタルから聞いた、でいいのはいいな」
「作るの?」
「ゴーレムがあるから、作ろうと思えば作れるんだよな」
それにしても池でボート。これはいいな、レオナの邪魔も入らないしのんびりできる。
「ねぇケーマ、サンドイッチ食べる?」
「お。食べる食べる」
【収納】から取り出したサンドイッチをボートの上に置く。バスケットの中にはキレイにカットされた三角のサンドイッチがあった。
お、玉子。これ好き。
「……ん? いつものと味が違うな」
「あ。わかった? 実は私の手作りなの!」
「へぇ、美味いじゃないか。今度宿で出してみるか? 数量限定で」
「もう。私が作るのはケーマにだけよ?」
褒められてまんざらでもなさそうなロクコ。
「にしても楽しいわね、人のデートを見るのは!」
「あまりいい趣味ではない気もするけどな」
「何言ってるのよ。ダンジョンだもの、人の営みを見守るのはむしろ生態というべきよ。ケーマが足フェチで昼寝好きなのと同じね」
「俺は昼だけじゃなくて朝も夜も寝たいが? あといい趣味じゃないのも否定してないぞ」
……それにしてもいつまで工場の話してるんだ。ワタル達。
「あっち、良く飽きないわねぇ」
「そうだなー……昼寝していい?」
「膝枕使う? ていうか使いなさい。私もそのくらいの役得があっていいと思うの」
ぽんぽん、とフトモモをたたくロクコ。
え、正面から使う感じで?
……じゃあ遠慮なく。足しびれても知らんよ? と、俺は船の上で横になった。
というわけで、軽く寝て起きたらまだ話していた。
俺の頭は降ろされて、折りたたんで重ねたハンカチに置かれて、ロクコがフトモモで頭を挟み込むということになっていた。
ハクさんに殺されそう……あ、いや、許されてたんだっけ?
「あら、おきた?」
「ああ。……んー、この空の感じからするともうそろそろ日没か? この公園、灯り用意してたっけ?」
「一応、日没から少しの間だけ主要な道は光るわよ。蓄光石、っての? そういうのがあるってカンタラが言ってて採用したの」
へーそんなのが。道端に刺さってた柱がそうなのか。
「まぁ完全に暗くなる前には告白するだろう」
「ええ。動くみたいね。私たちも見に行くわよ!」
というわけで、移動し始めたワタル達を追って俺達も移動する。
……レオナもどこかで見てるだろう。
さぁて、ネルネはワタルをどうするんだろうかな?
* * *
『伝説の大樹』。
この公園の一番の目玉で、公園の外からも堂々と見える巨大な樹。
この大樹の下で告白すると恋が叶うだか幸せになるだとか、そういう伝説がある――
……ということにするらしい、と、ワタルは公園を作った事情を聞いていた。
そんなわけでネルネに告白するべくワタルはカチコチに緊張しながら樹の前に立っていた。その正面には、夕焼けに照らされる愛しい人、ネルネ。
「立ち位置的にはー、横がいいですかねー?」
「え、ポジション的なものもあるんですか?」
「見栄えはー、今回の件で最も大事なところかとー? まぁー、受けるか断るかがかかわってきますしー。この立ち位置だからいいとか悪いとかー?」
そう。告白すること自体、ネルネは聞いている。
そして、告白の答えがどちらかになるかはネルネの気持ち次第。
改めて状況を確認すると、本来であれば、ワタルの告白にOKを出すくらい、ネルネは別に構わないと考えていた。
なので、勝ち確な告白になるはずだったのだ。
そこに、勇者レオナの横槍が入った。
告白を断った場合には勇者レオナからの「私の知ってる魔法を何でも一つ教えてあげる」という約束。
これにより、魔法好きのネルネに対して、魔法の誘惑を上回らなければOKがもらえないというハードルが生まれた。
……今もケーマとロクコ、そしてレオナが二人を見守っている。
さすがに露骨に見張っているわけではなく、雰囲気を守るためにコッソリとだが。
「……」
「ではどうぞー?」
満足のいく立ち位置に立ったのか、ネルネがにっこりとワタルに話しかける。
読めない笑顔。それがまたワタルには愛おしくて堪らないのだが。
「……ネルネさん」
「はいー?」
「僕は、ネルネさんが好きです。これからも一緒にいたい。そのために、実はこの村に家も確保しています」
「なんとー。いつのまにー?」
「実は結構前に。ゴゾーさんが気を利かせてくれまして……まぁチームバッカスのパーティーハウスで、僕の部屋がちゃんとあると言う感じですが」
とはいえネルネと少しでも近くにいたいという理由で大体宿で寝泊まりするので、実質はゴゾー・ロップの家になってしまっているが。
ワタルの稼ぎならその気になれば別途家を作れるだろうし、まぁそれはいい。
「それで……その。ぼ、僕と、一緒に暮らしませんか!?」
そう言って、ワタルは膝をつき、手を差し出した。
覚悟を決めた、告白――
「えー、それはいやですねー」
「……だめですか?」
「ダメですねー」
――そしてネルネはあっさりと断った。
……ダメだったか、と肩を落とすワタル。
「寮から出たらー、仕事に不便ですよー? 一緒に暮らすのは無しですねー」
「うう、ダメでしたか……」
「そりゃー、ダメですよー。……んー? どうしましたー? 早く告白してくださいー」
「えっ、あ、えっと」
首をかしげるワタル。
「……すみません、今のプロポーズのつもりだったんですが」
「あれー??? そうだったんですかー、じゃあー、お断りですねー」
この世界の一般的に、家を用意して「一緒に暮らそう」というのはかなり強いプロポーズである……と、副村長ウォズマから聞いたのだが。
ネルネはそれを認識していなかったようだ。
それならばそれを踏まえてもう一度……と、ワタルが姿勢を正そうとしたその時。
「ワタルさんー、ひとつよろしいですかー?」
「は、はい? なんでしょうか?」
「私とー、お付き合いしませんかー? まぁいわゆる恋人ということでー」
「えっ? します。……え?」
ネルネがワタルにむかって手を差し出し、ワタルはそれを握った。
「え? あれ?」
「では今後ともよろしくー。じゃー、そういうことなんでー。よろしーですかー?」
くるっとネルネは横を振り向いて言う。
そこにはレオナが立っていた。
「……確かに、ワタルさんの告白を断ったらとは言ったわね」
「はいー。そして私からの告白についてはー、何も言及されていませんでしたよねー?」
「ふふ、確かにそうね。ネルネちゃんから告白しちゃダメとも言ってなかったわ……」
確かにそれなら、ワタルからの告白を断ったうえで、しかしロクコの注文である告白成功の実績を積み上げることができる。
「というかワタルさん。……恋人じゃなかったのにいきなりプロポーズしたの?」
「え、あー、言われてみれば、そう、ですね……」
「そりゃ普通に考えて断られるでしょうよ。ああもう、してやられたわ」
やれやれ、と肩をすくめるレオナ。
ネルネの完全勝利であった。