ネルネとデート(3)
(コミカライズ9巻、25日に発売しました!! 特典情報とか出てたの昨日知った。
http://blog.over-lap.co.jp/gardo_20230818_03-6/
まじか。ゲーマーズ様有償特典でロクコのアクリルチャームとかあるのか。
こういうの作ってくれるって、伊達にシリーズ累計60万部とかいってないな?(これも帯に書かれてて知った))
ワタルとレオナの魔法勝負をベンチから遠巻きに見守っていた俺達の下に、レオナがやってきた。
「ふふふ、確かに強度では勝ったけど数では負けてたわね。試合に勝って勝負に負けたわ」
「ま、ネルネなら再現できない高度な魔法ひとつより、再現できる範囲の複数の魔法の方が好みだろう」
負けたとは言ったが満足気な顔しやがって。
と、ロクコが俺の腕にぎゅっとしがみ付くようにしつつレオナを睨んで言う。
「レオナ、あんまりケーマに近づかないでくれる?」
「あら、良いじゃないロクコちゃん。今日の私はデート監視仲間でしょ? お友達よお友達」
「それはそれ、これはこれよ。ケーマは私が守るの」
がるる、と噛みつきそうな勢いのロクコ。やだ好き。守られてしまう……!
「ねぇケーマさん、私ロクコちゃんに何かしたかしら? 凄く嫌われてるんだけど」
「俺もお前の事は嫌いだぞ? 前に頭弄られたりしたからな」
「……そんなことあったかしら? ごめんなさい覚えてないわ」
軽く謝るレオナ。本気で忘れていそうだ。
邪悪とは悪いと思わず悪事をなすやつとは言うが、まさに邪神だな。
「そもそもレオナはハク姉さまの敵でしょ。仲良くする理由がないわ」
「あら? それについてはこのあいだ言ったでしょ? それ演技だって」
「それはそれとして、私はレオナが嫌いなの」
「私はロクコちゃんのこと好きよ?……それに義父母とは仲良くしたいわ」
「ソトはあげないわよ!!」
ちょっとロクコ、腕痛い。少し力緩めて。
「おいレオナ。孫のパートナーに手を出すのはどうとか言ってなかったか?」
「手を出されてるのは私の方よ。……ケーマさん、ソトちゃんにどんな教育してるの?」
割と放任してるので、そこツッコまれると辛いところではある。
え? 俺とロクコの進展が遅いもんだから、反面教師でガッつくようになったんじゃないかって?
一理あるな。
* * *
レオナさんとの魔法勝負の後、僕とネルネさんは公園の芝生でピクニックシートを広げてお昼を食べることにした。
もしかしてネルネさんの手作り……と、ちょっと期待したのだが、キヌエさんが作ったサンドイッチだった。
「キヌエはほんと料理上手でー。ああいうのをお嫁さんにしたい女っていうんですねー」
「確かに。村でモテてそうですね」
「私たち3人の中では1番ですねー。次がレイでー、私が一番モテないですよー」
「僕は好きですよ? ネルネさんの事」
「……だからですがー?」
あ。そうか、そりゃ勇者が粉かけてる女性にわざわざ手を出す人もいないだろう。
いくらこのゴレーヌ村といえど――いや、勇者じゃなくても関係ないか。女性側が嫌がってるならともかく。
「……その、ご迷惑ですか?」
「べつにー。そもそも私は一番のひきこもりなのでー、魔法研究に集中もできますしー?」
聞きようによっては責めて拗ねているような話の流れと内容だが、ネルネさんのニヤニヤした表情からして軽口の冗談なようだ。
……でもこれももしかしたら本気でそう思ってるだけ、という可能性があるのがネルネさんの魅力的なところだよなぁ。
「あーそうだー。でも私も料理できなくもないんですよー? こう、パンを切って焼いたりー。焼き立てのパンにはチーズ乗せたりしても美味しいですよねー」
「トーストですか。オーブントースターがあれば僕にも作れるんですが……この世界だとよくてオーブンですからねぇ」
「……あー、そうー、ですー、ねー?」
あっ。これはなにか言っちゃいけないことをうっかり言っちゃった感じ。
「もしかして、オーブントースターとか……作ってます?」
「……な、なんのー、ことですかねー? お、オーブンでつくるんですよー、ホントホントですよー?」
「開発中の商品とかの情報ですかね? だとしたら企業秘密ってやつか……」
「そうそうー、そうなんですよー。ほらー、ここのダンジョンでは板コンロの魔道具がでるのでー、それを基にー? みたいなー? なきにしもあらずー?」
どうやら隠し事らしいが、これ以上深くは聞かないことにした。
「日本の道具とか魔道具で再現すれば結構いい売り物になりそうですよね。実際、帝都の『勇者工房』製品では結構そういうのもあって。僕もネルネさんやカンタラさんにアイディア出したら作って貰えたりしますかね?」
「あー、歓迎しますよー。個人用とかならー。制作費とかは貰いますがー」
ネルネさん自身の仕事もあるため、大々的に生産するには手が足りないらしい。
商品化して売るレベルで作るとなれば、カンタラさんに頼む方がいいのかもしれない。
「ネルネさんの手作りの魔道具か……欲しいな」
「手作り、ですかー……それってつまり、手作りじゃない魔道具、っていうのがあるってことですかー?」
「え?」
その質問に一瞬首を傾げそうになったが、言われてみればこの世界では工場製品で大量生産されたものとかはない。一つ一つの物が、手作りがデフォルトなのだ。
「……――と、僕の世界では手作りじゃない、工場製品というのがありましたね」
「ほほー。需要の高い製品を大量生産する仕組みですかぁー!」
まったくそういう気はない方向に、斜め上の食いつき方をするネルネさん。
その後僕はネルネさんにベルトコンベアとか工場制手工業とか分業制とか、思いつく限りで工場の説明をした。
「と言う感じで。機械――ゴーレムみたいなものが作るんですよ」
「なるほどー! 大変勉強になりますねぇー! そういうのもっとくださいー!」
あー好き。
眼鏡をかけたキラキラした瞳を見て、やっぱりそう思った。
「はー。すっごく参考になりましたー。じゃー、そろそろ行きますかー」
一通り話を聞き終えたところでネルネさんが、ぎゅっと僕の手を握った。
柔らかくて温かい手の感触にドキッとなる。
「え、どこにです? 池で釣り、とか? あ、そういやボートからケーマさん達がこっちを見てましたね」
「この池って魚いるんですかねー?……そうではなくてー、そろそろ『伝説の大樹』行こうかなーって思いましてー」
『伝説の大樹』。それはこのデートのゴール。
……確かに、そろそろ日が傾く頃合い。
デートの終わりの時間が、告白の時間が近づいていた。
(次回、告白)