ゴレーヌ村立公園の防犯体制
夜中。ゴレーヌ村村長夫人、ロクコの作った公園に、忍び込む影があった。
「池や川を作るほどの水がこんこんと湧き続ける魔道具……これがあれば、我が国は救われる……!」
たまたま公園建築時のうわさを聞き付けたとある砂漠の国のエージェント達。
隣のドラーグ村にも同様の魔道具はある。が、こちらは生活に使われており、水の大切さが身に染みている彼らに、それを奪うのは躊躇われた。
しかし、こちらは公園の景観を作るために使われているものだ。
であれば、人命のために有効活用する方が良い。そう本国に提案し、『バレずにとってこれるのなら、及び、バレた時にけして国との関係を話さないのであれば』と許可を得ることができた。
魔道具の大きさはかなり大きく重いものだが、ドラーグ村のそれと同じ。
つまり本体は【収納】に入れられるレベルではあり、運搬が可能だ。
そして、いまだ正式オープン前。盗むタイミングは、今しかない。
「誰もいない……忍び込むなら今のうち……!」
自身のオオカミ耳をピコピコと動かし、警備も誰もいないことを確認する。
そう。『人』は、誰もいなかった。
ザザッ、と木の葉が揺れる音。……砂漠出身の彼らは、その音が不自然であることに気付くのが遅れた。――風がないのに、木が揺れたのだ。
「……!?」
気が付けば仲間が一人、消えていた。
何が起きた。見つかっていたのか。と、声を上げそうになったが堪える。すでに死ぬ覚悟は決めているのだ、こうなったら多少強行しても行かねばならぬと急ぐ。
ザザ、ザザッ。木の葉の音。今度はその正体を見ることができた。
「――!? 木が、動いて……ッ、と、トレント? なぜこんな所に……!」
公園に生えている木々。それが動いて、彼の仲間を拘束していた。
トレントの弱点は火。しかしトレントが燃えれば間違いなく目立ってしまう。ましてや水が豊富にあり、トレント達はいつでも水に飛び込んで消火もできる。
あまりにも都合がよすぎる!
そして気付く。これは、この公園の警備員なのだと。
ゴレーヌ村の村長はゴーレムを巧みに操り宿や畑で働かせている。同様に、トレントを飼いならし、公園の警備をさせるくらいはできておかしくはない。
あるいは、そういった人材を雇ったのかもしれない。帝国四天王を自身らの警備に派遣させるほどの人脈を持つ村長なら可能だろう。
そして、ハッとする。水の湧き出る魔道具。それは、この公園一番の巨木の下に設置されているのだ。まさか、こいつも、いや、まさかこのサイズの魔物まで従えて――
「警備は万全だった、ということか……」
――エージェント達は全滅した。
* * *
「さて、今日はいよいよワタルとネルネのデートね! ばっちり野次馬しましょう」
「そうだなー。……ところで昨晩公園に侵入者があったって。レイから報告があがってるぞ。5人ほど生け捕りにしたそうだ」
監視カメラ兼警備員のトレント。その統括であるメガトレント『伝説の大樹』。こいつらは何気にダンジョン管理妖精のエレカと共にレイの部下という扱いである。
あとさりげなく『伝説の大樹』はネームドとしての名前でもある。ロクコ命名。
「あら。なら侵入者は吊るされて今頃いい飾りになってるわね!」
「……斬新なオーナメントだな。デートの雰囲気には向かないぞ」
「じゃあ処分で。埋めてトレントの養分になってもらいましょ」
「うーん、公園に怨念が漂いそう。それもデートって空気じゃなくなるだろ、やめとけ」
むむむ、難しいわね。と頭を悩ませるロクコ。
ん? でもあれだな。ビルの夜景とか社畜の犠牲によって成り立つロマンチックな空気もあるんだし、侵入者の犠牲によって咲くトレントの花もある意味ロマンチックなのか……?
ってんなわけないか。ちょっと人外思考に寄り過ぎたわ。
「ねぇケーマさん、ロクコちゃん。その侵入者、私にくれないかしら?」
「うわ! レオナ、突然現れるなびっくりするだろ!」
音も気配もなく後ろに立つんじゃない! 寿命が縮むわ!
「まぁまぁ。今日は私たち野次馬仲間でしょ。気配は消して空気に徹するのがマナーよ。それができないならダンジョン機能で見ることね」
「……で、侵入者が欲しいのか? なんだ、錬金術の材料にでもするのか?」
ロクコを後ろに庇うように隠しつつ、レオナと話す。
唐突に手に入れた侵入者くらい、場合と対価によっては全然渡して構わない。
「砂漠の国の狼獣人らしいのよね。獣人なら私の眷属みたいなとこあるし、彼らを『水とうめき声を出し続ける生きた魔道具』にして国に返してあげようと思うのよ。ケーマさんは泥棒に罰を与えられて、彼らは悲願が叶って。これってWin-Winでしょ?」
「うーんこの邪悪」
それもしかして生きている間「……シテ……コロシテ……」と呟き続けたりする? そんな水かなり使いたくないぞ。
「『スキルスクロールを作るスキル』のスキルスクロールをくれるならいいぞ」
「それはお値段高すぎね。せいぜい魔法スキルをいくつか、帝級なら1つとかそのくらいでしょ」
「明らかに俺に悪評が付くだろ。迷惑料分の正当な要求だろう」
そういうとレオナは「む、仕方ないわね……じゃあそれでいいわ」と小石を拾い、スキルスクロールを作った。
「【超錬金】、【超錬金】、【クリエイトスクロール:*****】。はい、クリエイトスクロールのスキルスクロールよ」
「……言ってみるもんだな。どれどれ?」
魔力を流さず、中の魔法陣を読んで本物かどうか確認する。……作る、スキルスクロール……む? 下級魔法?
「下級魔法とか書いてあるんだけど」
「そりゃ全部自在に作れるようなスキルはあげられないわよ。だけど、作れるのは下級魔法だけでも間違いなくご要望の『スキルスクロールを作るスキル』でしょう?」
くっ、確かに! 俺はぐぬぬと口端をゆがめた。
「ちっ、約束は約束だ。侵入者共は持って行っていいぞ」
「ふふっありがとう。ワタルさんとネルネちゃんのデート前に片付けといてあげるわ」
そう言ってレオナは現れた時同様音もなく消えていった。
「やったぞロクコ。想像以上の成果だ」
「あれ、悔しそうにしてなかった?」
「んなもん演技だ演技。これはいろいろと研究しがいがある。捗りそうだな!」
あいにく魔法スキルではなさそうなので、改変は効かないだろうが……
……最低でもダンジョンドロップのスクロール代を節約することはできそうだな!
(すまない、デートは次回にさせてくれ……! (新作書籍化作業の締め切りのため))