修業開始
前回までのあらすじ。
1.時空神がソトで、歴史を変えるために干渉した。(済)
2.レオナがやってきてソトが一目惚れした。(時空神カリニソトの仕込み)
3.ケーマがロクコに見合う勇者になるため、レオナが修業してくれるらしい。
(半分ハクさんのいやがらせだと思われる)
というわけでなぜかレオナの修業を受けることになった。
……まて、冷静に考えたら、だからなんで俺はレオナの言うことを信じてるんだと。
いや、時空神カリニソトの方はまだ信じられるんだけど。
くそ、頭が混乱する!……レオナの幻覚じゃないよな?
とりあえず『神の目覚まし』を鳴らしてみた。何らかの精神汚染がされているならこれで解除されるはずだが、現状の認識が変わることは無かった。特に意識を弄られたわけではないようだ。ぐぬぬぬ。
「はぁ……レオナさん……」
そしてソトは恋焦がれた少女のように窓際でため息をついている。
明らかに『状態異常:恋』といった表情なのだが、同じく目覚ましの効果は無かった。
「……カリニソト・シシドー、いや獅子堂カリニソト?」
娘が自分の名前とレオナの苗字を合体させていた。思春期中学生のようだ。
「おいまてソト。嫁入りする気か? 俺は認めないぞ」
「はっ。ち、違うんですパパ! レオナ・マスダ・ラビリスハートもいいかなって!」
「レオナと親族になるのは遠慮したいんだが……いや、ニクもレオナの親族と言えば親族なんだけども……そうだ、ニクが泣くぞ?」
「ニクお姉ちゃんが……マスターを泣かせてしまうだなんて、ダメなダンジョンコアですね……はふぅ」
だめだ、娘が悪い女に惚れてしまった。
父親ってのはこういう時どうしたらいいんだろうか……!?
その答えは出ないまま、レオナによる最初の修業の時間がやってきてしまった。
闘技場エリアにて、二人きりである。一応、ダンジョン機能によるロクコの監視もあるので何かあれば即引き上げてもらえる状況だが。
「私を片手で捻られるほど強くなれば、解決するわよ」
「……何の話だレオナ?」
「いや、ソトちゃんの話よ。悪い気はしないのだけど、孫のパートナーに手を出すのは私的にちょっと気が引けるのよね」
レオナ、お前にそんな感性があったのか。と、正直に驚いた。
「家系図が大変なことになるじゃないの。混沌神としてはごちゃごちゃしてる方がいいかもしれないけど、今の私は『勇者レオナ』よ。勇者ケーマの先生だもの。……あ、最初は大岩を斬ってもらおうかしら? 勇者の定番でしょう」
「それ、弟子を庇って自爆してくれるのかな?」
「あー、最終的には裏切って敵になるタイプの師匠がいいわねぇ。師匠が敵に回る展開って嫌いじゃないわ」
言いながら、【超錬金】と唱えて闘技場に大岩を作り出すレオナ。
「じゃあこれ斬ってみて。【超錬金】【超錬金】。はい、この剣でどうぞ。ただの鉄の剣よ」
「……斬れんのかコレで? 岩を?」
渡されたのは言葉通り、何の変哲もなさそうな鉄の剣だ。変な魔力も感じない。
「【超変身】の特訓なんだから、岩を斬れる人物に変身すればいいでしょう?」
「ああ、そういえばそうか。斬れる人間に変身すればいいだけ、か」
「それも、その人のピークの時に変身できるでしょう? 知っていればだけど。ん、そういえば勇者は止めときなさいね。勇者スキルは【超変身】で模倣できないから再現しきれないわ」
となると、勇者ワタルではなく、ハクさん四天王、帝国騎士団長のサリーさんあたりだろうか。他にも魔国のダンジョンコア、アイディが思い浮かんだが、あれは自身の魔剣を使うのが前提だろうし。
俺は【超変身】でサリーさんに変身した。
「あら可愛い。ハクちゃんのところの子ね」
「まぁ、サリーさんあたりなら岩も斬れるんじゃないかなと」
「そうね。サリーちゃんなら斬れるわよ。やってみなさい」
俺は剣を構えて、岩に切りかかる――カキィーン! と弾かれて剣がすっぽぬけ、飛んでいった。手がビリビリしびれる。
「……斬れないんだけど?」
「そりゃ、技術がないんだもの。筋力とかの必要値は足りてるはずだから、ケーマさんの腕がひたすらに悪いだけよ。変身先が筋力でゴリ押せるほどの人ならそれでもいいけれど」
「それは、まぁそう。……そうか。そういうことなんだな」
単純な話だ。岩を斬るのに100点が必要だとして、サリーさんは筋力+技術で100点越え、俺は技術が足りてないから100点を越えられない。
逆に、筋力だけで100点を越えられる存在になれば、技術は必要ない。そして、そんな存在になったうえで技術まで使えれば、元の人物ですら圧倒できる。
「変身先の選択は適切に。技術の上乗せができるんだから、理論上は本当に最強になれるのよ、【超変身】の勇者は」
「普通にためになるなぁ」
「いや、私のことなんだと思ってるのよ。というか、スキルも使いなさい。サリーちゃんなら……【超鑑定】……うん、【スラッシュ】あたりで十分岩を斬れるはずよ」
おっと、スキルの存在を忘れていた。【超変身Lv7】では変身した相手のスキルも使えるんだった。
俺は鉄の剣を拾い、改めて岩に向かう。
「【スラッシュ】――うぉっ!」
スキルにより体が勝手に動く。振り下ろされた鉄剣が、岩をざっくりと斬っていた。
……武技スキル、すご。
「スキルは適切な動きをするから、体が十分ならこのくらいできるのよ。ま、ほぼ固定の動きだから隙が大きくて、達人同士では逆に使ったら負けるけど……大魔王相手とかハクちゃんとか相手ではね」
それはもちろん、レオナ相手にもということだ。
……武技スキルに頼らず岩を斬れるようにならなきゃ話にならないってことか。先が遠すぎる。
「じゃあ岩を100個出しておくから、全部斬っときなさい。半分はスキル使っても良いわ――【超錬金】【超錬金】……」
「……そのあいだ、お前は何をするんだ?」
「教会で本でも読んでるわ。終わったら呼んでね。【転移】」
レオナはしゅんっとダンジョンから出て行った。……さて、案外普通に修業をつけてくれるようで安心したような、そうでもないような。
『ケーマ、ソトも教会に向かってるわよ。止めた方が良いかしら』
「……おう、全力でどうにかしてくれロクコ! ニクに命令させてもいいんじゃないか!?」
ソトが堕ちるのが早いか、俺がレオナの修業を完遂するのが早いか……分の悪い賭け過ぎねぇかなオイ!!
(新作、書籍化が決定しました。
「あとはご自由にどうぞ。~神様が本気出してラスボス倒したので私はただスローライフする~」
https://kakuyomu.jp/works/16817330650606750225
タイトルは変わるかも知らん)