ハクさんの紹介
「なんかソトがキヌエに言ってたわよ、しばらくケーマの下着と一緒に洗わないでって」
「有言実行だなぁ。キヌエさんはなんだって?」
「仕事の手間が増えて喜んでたわ」
うーん、働き者。さすがキヌエさん、仕事中毒。
多少無理にでも休ませた方が良いんじゃないだろうか……
「キヌエは代わりが務まらないから、なかなか休ませられないのよね。今のシフトでもギリギリなのよ。食堂とか」
「普段休ませてるときはどうしてるんだ?」
「作り置きを【収納】に入れてもらってるわね」
なるほど、時間停止する【収納】だから作りたてのまま作り置きができるのか。
「それで、ソトはなんでそんなことになったのよ?」
「あー、まぁ【超変身】の練習をしてて、ふとソトを驚かせてやろうと思ってな」
「勇者スキルのアレね。……今レベルいくつ?」
「Lv7だ。変身後のスキルも使えるようになってる」
「それは凄いわね。ドラゴンブレスも撃てるってこと?」
「練習しないと無理だ。今度レドラに教わってみるよ」
ドラゴンブレス、必殺技になりそうだしな。
【エレメンタルバースト】の方が圧倒的に早いし楽だけど、ドラゴンに変身してのドラゴンブレスは見た目のインパクトが強い。魅せ技としての使い勝手が非常に良いのだ。
威力の調整もできるだろうし。
練習の時は龍王の姿でも借りさせてもらおう。
「というか、魂の汚染とかは大丈夫なの?」
「そうなんだよ。ちょっとそこが不安でね。……勇者スキルによる汚染を確かめるために使い潰してもいい勇者でも居たらなぁ」
「勇者スキルについてなら、姉様が研究してるんじゃないの?」
「……それもそうか?」
勇者のエキスパートは勇者、ではなく勇者を雇い管理する国の重鎮、ハクさんか。
客観的な観察をするには最も適した立場なんだけど……本来は勇者の敵であるはずのダンジョンコアだってのが皮肉というかなんというか。
「Lvが上がったのはこの間の10番コアとのダンジョンバトルででしょ? 姉様にアフターケアしてもらいましょ。メール送っておくわ」
「んん、そうだな。下手に自分で診断するよりいいか……」
素人の生兵法は大怪我の元だからね。うん。
「あっ。そうだキヌエをしっかり休ませるいい方法を思いついたわ。ケーマがキヌエに変身して代わりに働けばいいのよ。【料理人】スキルも使えるんでしょ?」
「キヌエさんには今後も頑張ってもらおう。うん」
そういうことになった。
* * *
「姉様から返事がきたわ。勇者スキルの専門家を送ってくれるって」
「勇者スキル専門家……? 居るんだそういうの」
勇者という非常に少ない存在、さらにそのスキルについての専門家。
そんな奴が居るとは驚きだ。
「丁度、パヴェーラの方に居るらしくて、すぐ来るらしいの」
「すぐ? ハクさんから連絡いれるとして……そんなすぐ連絡届くのか? 『憑依』をつかった連絡ができる相手ってことかな」
だとすればダンジョン関係者ということになる。
ただし四天王のレイス、ドルチェさんであれば勇者スキルの専門家という言い回しにはならないだろう。
「相手の名前はなんだって?」
「到着すればわかると言われてるけど、それだけね」
「んん? 俺達が分かる相手ってことか?」
ダンジョン関係者で、俺たちが分かる相手。名前を教えないのは驚かせたいってことか? となると、意外性のある相手ってことになるけど……
「……ワタルか? いや、ワタルはダンジョン関係とはいえないしなぁ」
「到着したら分かるんだし、予想する必要はないんじゃないかしら」
「予想が当たったら、なんか嬉しいだろ。そうだ、ロクコが当てたら何かいいものをプレゼントをしよう。なんかこう、ドレスとか」
「えっ本当?…………」
口元に手を当てて真剣に考え始めるロクコ。
見開かれた目が大きくて綺麗で、目が引き寄せられる。
「あっ」
何か閃いたのか、ポツリと声が漏れた。
「……」
「どうした?」
「いや、その。……消去法でね? 該当しそうなのが1人いたのだけど……」
「ふむ? 誰かいたか?」
歯切れが悪いロクコに、俺は答えを促す。
「……まず、パヴェーラに居る可能性がある、姉様と私達が知ってる人って時点で相当絞れるのよね。しかも勇者の事を知ってるとなると……その点だけで、その」
「その?」
「レオナくらいしか残らないのよ」
……いや、レオナて。
あれはハクさんと敵対してるわけだし、そんな馬鹿な。
「……イッテツとかレドラとかの可能性は無いか?」
「その二人はパヴェーラじゃなくてツィーア山ね。まぁ勇者の事は知ってるかもしれないけど、絶対姉様の方が詳しいから『専門家』とまでは言わないわ」
「あー」
ハクさんが『専門家』とまで言う相手。つまりそれはハクさんよりも勇者を知っているわけで、そうなると……確かに、レオナくらいしか思いつかない。
「……そうだ、聖王国の10番コアという可能性は?」
「いやそれもう殺したじゃない。しかもケーマがトドメ刺したじゃない」
「なんかこう、ほら。まだ生き延びてたとか!」
「いやー、ないでしょ……あったとしても姉様が専門家として紹介するとは思えないわよ」
一方でレオナであればメールで連絡する事だってできてしまう。もはやどう考えてもレオナが答えであるとしか思えない。
「逆にここまでフラグ建てたらレオナじゃないという可能性が出てこないか?」
「誰だってのよ。言ってみなさいよ」
「……お、お父様とか?」
「むしろ光神の方なら専門家として在り得るけど……たまたまパヴェーラにいるとかないでしょ」
ぐぬぅ。闇神や光神は現世に及ぼす影響が大きいので、気軽に降臨できないのだ。
会うなら『神の掛布団』とかを使って夢の世界で、みたいなことになるはず……
「まぁ、粛々と待つしかないわね。姉様の紹介っていうことは何かしら事情があるとかでしょうし、きっと悪さはしない、と思うわよ? そう怯えることは無いんじゃいかしら」
「お、おお、おう。いや、怯えてねーし。俺を怯えさせたら大したもんだし」
「そうねレオナは大したヤツよね」
だってしょうがないじゃん、あいつ俺の完全上位互換なんだよ!?
と、そこにニクがやってきた。
「ご主人様。勇者の専門家のお客様……? がおいで、です? 応接室へ、お越しください……?」
明らかに早い来訪。連絡を入れて、すぐ移動してもパヴェーラからここまでどれだけの距離があると思ってるんだ……【転移】が使えるならそんなもんか。
ニクの目は明らかに戸惑いを感じており、応接室へと案内をしておきながらも『なんであの人が客?』みたいな感情が見えていた。
「……えーっと、客か。その客って誰だ?」
「は、はい。えーっと、その……」
俺が覚悟を決めて尋ねると、ニクはその名前を言った。
「カリニソト様……です」
「え?」
「ん?」
俺とロクコは首を傾げた。
「ソトが?」
「いえ、お嬢様ではなく、カリニソト様です……? あれ?」
頬に手を当ててお目目がぐるぐると混乱している様子。どうなってるの。
俺はロクコを見る。首を横に振られた。
「ごめん、私も訳が分からないんだけど……とりあえず、応接室いってみる?」
「そう、だな? とりあえず、応接室行くか」
かくして俺とロクコは勇者の専門家、カリニソトに会うことになった。
……どういうことなの???
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