報酬と真実
(終わるんか!? と感想いただきましたが、惰眠貪ったら一旦完結にはするかもだけど、当然のように続くと思います)
「ケーマさん。ロクコちゃんがこう言ってるし、結婚してあげなさい」
ハクさんがそう言った。聞き間違いだろう。だってハクさんがそんなこと言うはずがない。そうだ、結婚じゃなくて決闘だったかな。いやぁ魔国魔国。
「ケーマ、というわけで結婚するわよ? いいわね?」
「えっと、闘技場で決闘な、うん」
「決闘じゃないわよ。どこをどう聞き間違えたら結婚が決闘になるのよ」
……あ、異世界語ではその2つ全く別なのね。じゃあ別の単語と間違えたのかな。
「とりあえずは婚約ですね。婚約式はどこでします? 帝都の白神教会でしてもいいですけど。爵位を考えるに、結婚はそこから1年後かしら」
「……私、すぐに結婚したいんですけど?」
「こういうのは形式も大事なのよロクコちゃん。一応、帝国の貴族なんですから」
「むむむ。まぁいいわ。婚約者、ってのも中々いい響きよね! ま、そもそももう一緒に暮らしてるし、娘もいるし、実質夫婦だし。1年くらいどうってことないわね」
ポンポンと転がる話に、俺は現実味を感じずただその声を聴いていた。
「と。ケーマさん。そろそろ解呪の方、してもらえますか?」
「あ、はい」
ハクさんに促されて『神の目覚まし』を鳴らす。ピピピ、ピピピ、ピピピ、と電子音が鳴ると、ハクさんの太ももについた白い宝石がブルッと震えて、パリンと砕けた。
黒い煙がぶわっと吹き出し、ヒト型になった。より正確に言うなら10番コアのシルエット。
「……んぐっ!……っ!」
『あ、あ、お、おの、おのれぇええええ!!! ぬあああああああああ!!』
10番コアの声で悲鳴を上げる黒い煙。しかしまだ『神の目覚まし』は鳴っていて、音に削られるように黒い煙も消えていく。頭を抱えるように悶える黒い煙。
「10番……っ!?」
『クソ、89番め、闇神め、ああ、ああああ、ああああああ……! 消え、消えるっ……あっ……』
黒い煙が10番コアの断末魔と共に消える。同時に、ハクさんの太ももに残っていたアクセサリーも黒い煙となって消滅した。
「ふぅ……。やはり10番コアの呪い……いえ、呪化、というやつかしら。多分あれは本人だったわね。放置してたら力をつけて何かしでかすタイプの呪いになってたみたい……」
「姉様、大丈夫?」
「ええ、もう大丈夫よ。さ、ロクコちゃん。改めて抱擁を」
「はい、お疲れ様です姉様!」
両手を広げて迎え入れるハクさんに、むぎゅっと抱き着くロクコ。
人化ならぬ呪化。そういうのもあるのか。……というかあの煙、本人だったのか。
「さて、それでは報酬の話をしましょうか」
「えっ、あの」
「? どうかしましたか、ケーマさん?」
結婚云々の話はどうなったのだろうか。ああ、いやこれからするのかな。
「いや、その。……なんでもないです」
「そう。では報酬だけど、補填分とは別に1500万DP、あと先に提示していた『神の下着』でどうかしら。ああ、ミカンには564番の報酬と合わせて別途550万DPを渡しますね。……かなり活躍していただきましたし」
『神の下着』。実質、俺たちが手に入れていない最後の神の寝具。残りの『神の枕』と『神の敷布団』はツィーアにいるマイオドールとシキナが持っていて借りることができる。
……まって。ロクコとの結婚の他にも報酬がもらえるのか?? どういうことだ。やはり何か裏が……?
「……ケーマさん? なんか心ここにあらず、といった感じですね。……気持ちはわかりますよ、ロクコちゃんと結婚して良い、と言われたら当然そうもなりますか」
「え、あ、はい。そうですね?」
俺がそう生返事すると、ロクコが少し不満そうにふんと鼻を鳴らした。
「……ハク姉様。ケーマのこれ、私と結婚できるのがうれしい、じゃなくて、姉様が許可を出すなんて、って方だと思うんだけど」
「あらあら。まったく仕方ないですね。ロクコちゃん。こんな腑抜けとの結婚はやっぱり辞めた方がいいんじゃないかしら?」
「いやよ! それとも、ケーマ以上に私に相応しい人が居るとでも? 姉様がケーマに意地悪しすぎてこうなってるんだからっ!」
「まぁ、恣意的に追い込んだのは認めますが」
ニィ、と口端を引いて何か企んでるように笑うハクさん。ロクコは「はぁ」とため息をついた。
「そういうとこよ姉様。……いいことケーマ。姉様はね、ケーマが最初にダンジョンバトルで姉様に勝った時から、ケーマのことを認めてるのよ?」
「……ええっと。え、そうなんですか?」
「ええ。そうじゃなかったら、ロクコちゃんの隣に居させるわけないでしょう? そこの鈍さと頑固さは、実に私好みでしたよ」
手で口を隠しつつ、クスッと笑うハクさん。
「ケーマさん。ロクコちゃんをこれほど成長させ、確固たる安全性と定期収入を確保する甲斐性があり、私にダンジョンバトルで勝利できる男――自分以外にそんな優良物件が居ますか? かつ、ロクコちゃん自身が惚れているんですよ?……そんな人を排除したら、私がロクコちゃんに嫌われます」
だから排除するような行動は一切せず、牽制のいやがらせだけをしていたという。
「……それで、もし俺が逃げてたらどうする気だったんですか?」
「あら。逃がしませんよ? だってロクコちゃんのお気に入りなんですから。どんな手を使ってでも、逃がすわけがないじゃないですか。……逃げなかったし、問題ありませんよね?」
俺がロクコに気に入られた時点で、逆にもうロクコから離す気は無かったらしい。それこそ死んでもアンデッドにして生き返らせる勢いで。
国相手に個人が勝てるケースは、そうそうないのだ。……そもそも勝てるんならロクコを諦めて逃げる必要もないわけだし。
で、そのうえで俺がロクコに手は付けないようにと嫌がらせをしていた、と。なんという人でなし……あ、ダンジョンコアだったわ。
「ご納得いただけましたか?」
「……はぁ、まぁ、一応。ということは、俺は本当にロクコと……結婚してもいい、と」
「ええ。けれど可愛い妹をかっさらう男を、私が好む好まないでいうとどちらであるかは、分かりますよね?」
「姉様! そうやってケーマをいじめないでくれるかしら!?」
「ふふ、冗談よ、冗談」
目が笑っていなかったので、8割くらい本気なんじゃないかな。
でもロクコが本気で嫌がることはしない、つまり少なくともハクさんが俺を殺したり何かしら再起不能にするという心配はない、ということである。
……なんだろう、今までの疲労がどっと出てきた。
「そうそうケーマさん、下着の効果を使うのはまだ百年早いから、亜神化するためだけに使いなさいね」
「? 姉様、下着はどういう効果なんですか?」
「……あー、ええっと……そうね、魅力的になるような、そんな感じかしら。ロクコちゃんは知らなくても差し支えない効果よ」
目を泳がせて言葉を濁すハクさん……絶対教育に悪いタイプの効果なのだろう。
……『神の下着』もほかの寝具同様、お父様の闇神が創造神のために作ったんだよね? 口はばかるような効果持たせてどうする気だったんだ。
というか、百年早いって……慣用句なのか言葉通りの意味なのか分からないな。神様になったら百年でも生きるんだろうし。
「と、とにかく! 今渡してしまうわ。……しっかり管理しなさい、ロクコちゃんの手に触れないように」
俺は、ハクさんから『神の下着』を受け取った。……もちろん、目の前で脱いだりとかではなく普通に箱に入ってる状態だったよ。
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