レイドダンジョンバトル(11)
「……な、なんだこの無茶苦茶なモンスターは!?」
それに気づいたのは、一つ目のアンデッドダンジョンが潰された時だった。
そもそもここまで攻め入られるまで気付かなかったのは迂闊だった。
マントを着こんだ全身鎧のモンスター。リビングアーマーだろうか。そいつが手を前に突き出すと、光の奔流があふれ出て前方のゾンビウルフを軽々と貫いた。
恐らく【ジャッジメントレイ】。光属性王級魔法で、長い詠唱と相応の魔力消費があるはずのそれを、ゾンビウルフ一匹のために使っていた。
いや、そうではない。たかがゾンビウルフ一匹に使える程に魔力に余裕があるのだろう。さもなくば無詠唱、連発などしないし、できるはずはない。
逆算すると、とんでもない魔力の持ち主ということになる。これは、いったいどれほどの研鑽を積ませたモンスターなのか……
「魔法神と呼ばれる余でも、【ジャッジメントレイ】の無詠唱は骨が折れるぞ……? 上級、特級よりさらに上、王級光魔法だ。少なくとも、100年や200年では足りるまい。これは間違いなく、89番の秘蔵していた戦力に相違あるまい」
切り札を切って来たな、と10番コアは敵を見定める。……む? と、10番コアはある事に気が付いた。侵入されているダンジョンのマップを見ると、そいつは既にタグが付いていたのだ。
つまり、以前に邂逅したことがある敵。そしてタグを見れば、そいつの正体が分かった。
10番コアが聖王国を逃げざるを得なかった元凶、人工ダンジョン製造区画をこれでもかと破壊し尽くした相手。聖都クロマクで聖女や愚民共に余計なことを吹き込み、己の数百年をたった一晩で台無しにしてくれた存在。
コイツは人ではないが、そんなものは潜入していた際に【人化】させていただけのことだろう。背丈も合っているようだし、なによりタグが付いている。間違いない。
「くっ、ククク、クカカカカッ!! こいつが! こいつか!! ああ! 殺す! 絶対に殺してやる!!」
殺意に身体を震わせ、精神を昂らせる10番コア。戦意は十分。思わず魔力が迸り溢れる。
あの破落戸が89番の手のものだという事はこのダンジョンバトルを仕掛けられる前から分かっていた。むしろここで投入してきたか、と納得すらあった。
アンデッドコアに命令を飛ばしモンスターをけしかける。ここの元はウルフ系ダンジョン、各種ウルフ、ワーウルフが出せるモンスターだ。
が、話にならない。先程もだが、明らかに過剰な光魔法で薙ぎ払っている。複数方向から攻めても、複数方向に連射して。
「奴の魔力は無尽蔵ということか? ……いやまて。あのマント、もしや神の装備?」
明らかに多すぎるであろう魔力消費に違和感を覚えた10番コアは、その装備に注目する。神のアイテム。創造の神たる闇神の作りし装備。マントということは、姿隠し……ではない。姿隠しであれば、何も言わずにダンジョンコアまで行けばよい。
「……となれば、さては防御・回復あたりが効能か」
リビングアーマーは全身鎧、その防御力は素でも高い。であれば、並みの攻撃ではそもそもダメージを与えられないだろう。魔法攻撃ではどうだろうか――と、ここまで考えて他への対応が疎かになっていることを思い出した。
敵はこのモンスターだけではない。未だ89番の派閥コアによる10番コアダンジョンへの侵攻は続いている。本来はこれほどまでに695番のダンジョンに手古摺る予定ではなかった。
「余はこのリビングアーマーに集中したい。であれば致し方あるまい、切り札を2つ切るか――まず89番ども。こちらは聖女アンデッドを出すとしよう」
聖女アンデッド。
ボス部屋の霊安所にある引き出しには、歴代聖女の死体を加工したアンデッド達が入っている。本来聖属性が弱点であるアンデッドだが、その弱点が無い完全無欠のアンデッドだ。
戦闘力も、生前と遜色ない優秀さだ。【継承】して次の聖女へ渡したスキル能力こそは使えないが、その肝である【復活】はダンジョンの力により再現している。
10番コアは聖女アンデッドを起動させ、ボス部屋の防衛と逆侵攻に割り振った。
「695番にはダンジョンイーターを出すか。ダンジョンイーターであればダンジョンの影響を受けず食い荒らせる。ギミックを崩壊させたら再度侵攻だ」
ダンジョンイーター。
人工ダンジョンコア――アンデッドコアの研究中に生まれた副産物。最初は数センチ程度しかない小さな黒い芋虫だが、ダンジョンを食べながら1キロメートルを超える巨大な身体にまで成長するモンスターだ。
その素材はアンデッドコア同様ダンジョンコアの欠片であり、ダンジョンコアに似た性質を備えている。
なんでも食うことができるのだ。
罠やモンスターを食い散らし、ダンジョンの壁や床まで食うことができる。
生きたダンジョンに恨みがあるかのようにダンジョンを食い荒らす、ダンジョンのゾンビのような存在だ。
さしあたり、5匹を敵のゲートに放り込んでおく。真っ暗なダークゾーンな敵ダンジョンだったが、ダンジョンイーターには闇は関係ない。ゾンビたちと違い、入った瞬間に反応消失と言う事も無かった。体の小ささゆえに敵の必殺の罠を潜り抜けることに成功したのだろう。
無事敵ダンジョンを齧り始めたのをメニューで確認したところで、10番コアは仇であるリビングアーマーの元へと【転移】した。
(メシマズ無双のコミカライズが更新されてました!
https://www.123hon.com/polca/web-comic/msmz/
多分ニコニコ静画の方も日曜中に更新のはず。
https://seiga.nicovideo.jp/comic/54622
https://seiga.nicovideo.jp/comic/40236
だんぼるのコミカライズも併せてコメント付きで見るのがすこなんだワ )