レイドダンジョンバトル(7)
吸血鬼先輩が物理魔法防御向上、犬先輩が攻撃力向上のバフをかけてくれたところで、俺は前線に投入している方のアバターでキノコ先輩達に話しかける。
「それにしても10番コア、思っていたよりダンジョンバトルが弱いんじゃないか?」
10番を煽る気持ちもあるが、やはり順調すぎて不安にならざるを得ない。
『……確かに、ゴーレム後輩が活躍してるとはいえ順調すぎるね。これで隠してる切り札が無い、なんてことになったら相当な弱さだ』
『そうね。10番コアともなれば、初手で出鼻をくじかれてもどうとでもできると思うのだけど。本当に弱いならハク様が可哀そうだわ』
『最初の聖水で主要戦力がまとめて大体片付いたのはあるけども……あまりにも弱すぎる。まさか上位10コア相手に弱い者いじめすることになるとは……』
先輩方、めっちゃ10番を煽る。これ絶対ボス部屋の中の10番聞いてるよね。
『――【メガグラヴィティ】!』
ボス部屋の扉が開き、ボス部屋の中から魔法が飛んでくる。
『ぐ、闇魔法かっッ』
『きゃあ!?』
『ぐふっ!?』
重力に押しつけられ、行動不能になるモンスター達。
バフをかけていなかったら全滅していたかもしれない。うちのスライムも気持ち平たくなっている。……ゴーレムも、こっそりオリハルコン混ぜてなかったら危なかったかも。
『ボス部屋からは出られずとも、ボス部屋の外に攻撃することはできるぞ? よくもまぁ余の前で舐めた口をきいてくれたものよのう』
コツ、コツと足音を立てて、10番コアは扉の近くまで寄ってくる。
『――【ファイアボール】!』
『効かぬわ、雑魚が』
吸血鬼先輩のモンスターが地に伏しながら放った火の玉は、10番コアの手に持っている錫杖でパシンと軽く払われた。
『さて、貴様ら。このダンジョンは余の領域ぞ。であるのに、迂闊な事を話していたなぁ?』
ニヤリ、と老人の顔で嫌らしく笑みを浮かべる。
『な、何よっ!』
『貴様は、吸血鬼型――余の記憶に吸血鬼に似ているコアは3体該当する。その中で、貴様が話していた一晩しか咲かぬ花、ゲッカビジン。これは高温多湿の環境で育つ花よ。3体のうち2体はこの環境に合致しない。つまり貴様は――398番コアだ。ダンジョンバトルを申し込むぞ』
『は、はぁ!? 違いますけど!? 超絶美人の第398番コアちゃんに失礼になるから今すぐやめるべきでしょう!』
『あぁ、言われてみれば……』
『犬! 余計な事言わないの! この犬!』
あからさまに動揺する吸血鬼先輩。
それはもはや、正解であると態度で示してしまったようなものだ。
『犬ッコロ。貴様もだぞ?』
『むっ……!?』
『400番。獣王派閥に所属しているとばかり思っていたがのぉ……いや、掛け持ちか? やれやれ、8番が知ったら何と言うことか』
『え、犬って400番台だったの? 年下じゃない!』
『……』
まさかちょっとした発言から個人の特定をしてくるとは……おそるべし。
伊達に最古参コアではないということか。色んな情報を持っているようだ。
『ハハハ! 甘いぞ? 情報を制する者は世界を制するのだ!』
『おやおや、そこまで断言して間違っていたらどうするんだい第10番?』
『ククク、違っていたらその時は潰して素材にするだけのことよ……貴様もキノコではあるが、植物系。多少は誤魔化そうとしているようだが……219番だな?』
『……さて、どうだろうね』
とぼけるキノコ先輩。クックック、と笑う10番コア。
この反応、実際に219番コアなのだろうか? まぁ、分かったところで裏切者派閥って事以外に関わりがないんだけど。
『貴様らだけではない。攻め込んできているコアの9割は特定完了した。余が手を抜いてやった甲斐があるというものよ、浮かれてホイホイと情報を漏らしおったわ』
まさか、ここまで簡単に攻め入れたのはそういうことだったのか。
『余は、これより順次ダンジョンバトルによる各個撃破を行う』
『多数のダンジョンに攻め入られている真っ最中に、か?』
『侮りすぎだ犬っころ。貴様らがあの白豚の駒であるように、余も駒を持っているのだ』
「10番の派閥か……」
『派閥? そんな不確かな集団ではない。余の忠実な下僕たちよ!』
何が面白いのか、かーっかっかっか! と高笑いする10番コア。
『さぁて、そこのゴーレムよ。貴様が一番鼻につく。故に、最初の贄は貴様で決まりだ』
そう言って、俺のアバターが指差された。
えっ、俺? 本気で?
「お、おいおい、俺のことも分かったっていうのか?」
『もちろんだ695番。男のフリをしても無駄だぞ? 新入りのクセに活躍しているなど、あの白豚の仕込みに決まっている! なれば、該当するコアは695番しか居らんだろうが!』
半分以上決めつけじゃねぇか! 合ってるけど!
というか、俺、先輩たちに自分がコアでなくマスターだって言ってたと思うんだけど、それは聞いてなかったのか? このジジイ!
……実は他の特定も割といい加減なのではないかと思えてきたぞ?
「おい! 違うぞ、俺は695番コアじゃない、真偽鑑定を受けてもいい! 間違えてるぞ!」
『なに、間違えていたとしても695番を屠れば雌豚に精神的ダメージを与えられる。何も問題はない』
確かに。とか思ってしまったけど、俺達にとっては問題大有りだ。
これは間違いなくこちらに10番コアからの直接攻撃が送られてくる前振りなのだから。
『せいぜい震えて冥福を祈るが良い! 【コマンドAA:D695】!』
10番が高らかにそう宣言した直後、俺達『欲望の洞窟』に対してダンジョンバトルの宣戦布告が殺到した。
(「個人特定って恐ろしい」「10番ってストーカーか何か?」「もうちょっとしっかり特定して」と思った方は↓で★★★★★を入れていってくださいね!(最近日間ランキングでよく見るおねだり構文)
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書籍版の感想をファンレターなりで送ってくれると編集部が色々考えてくれるかもしれない。是非。
あ、だんぼるのコミカライズ版もこっそり先行公開分が更新されてますかね?)