レイドダンジョンバトル
対10番コア相手のダンジョンバトル当日。
日時を合わせての同時申請及び同時戦闘開始。これにより俺達のダンジョンは10番コアのダンジョンとゲートで接続されることになる。
俺達は『欲望の洞窟』ではなく、サブダンジョン『白の浜辺』からの参加だ。
このダンジョンバトル、最も重要な点はゲート接続直後だ。この最初の突撃で押し勝つかどうかで、展開が少し変わってくる。
10番コアの突撃を制することができた場合、10番コアのダンジョン側に前線基地を構築し、一方的に多数のコアで戦力を投入。全力で攻め入ることができる。
10番コアの突撃を止めることができなければ、先鋒のダンジョンコアが自分のダンジョンに敵を引き入れての防衛戦。他のダンジョンコアは先鋒のダンジョンコアの救援のために戦力を割き、並行して手薄になった10番コアダンジョンへ攻め入る。
どちらにせよこちらは多数という数の利を生かせるわけなのだが、先鋒が最も危険だ。
で、今回は相手が初期のコアの10番コアということもあり、間違いのないよう大将であるハクさん自らが先鋒を務めることになっていた。
俺達は、事前にハクさんに預けた連絡用モンスター経由で、その様子をマスタールームのモニターに映して見る。派閥の他コアのモンスターも一緒だった。
「なんか色々なモンスターがいるけど、これ全員派閥メンバーのモンスターか? 20体はいるぞ」
「これはダミーが入ってるらしいわ。派閥メンバーの総数は秘密なんだって」
「へぇ、プライバシー保護って感じだな」
こうして派閥メンバーから見ても誰がメンバーなのかを分かりにくくすることで、メンバー同士での裏切りや情報流出を防ぐ形になっているのだろう。考えられている。
さすがに長年参加してるコアからしたら多少は分かるのだろうけど。
『行きます』
ハクさんがそう言った直後、ハクさんのダンジョンと10番コアのダンジョンがゲートで繋がる。ゲートの向こう、10番コア側は大量のアンデッド、ゾンビに溢れており――
――直後。ハクさんのゲートから激流が溢れた。
大量の水により10番コアのモンスター、ゾンビの群れが一方的に押し流されていく。
そうして敵の陣形を崩したところを、今度はハクさんのミノタウロス軍団が蹂躙していった。
「これ、前にケーマがハク姉様と組んだダンジョンバトルでもやった戦術よね?」
「だな。アイディア使用料もらいたいね……って、水に触れたゾンビが煙と悲鳴を上げている所から見るに、これ全部聖水かよ? えげつないな」
さすがハクさん、相手がアンデッドを使うと知っててこの所業なわけか。
アンデッドに聖水ってのは常識的な弱点だが、この規模で聖水をぶっかけるというのは前代未聞、史上初に違いない。
葬式の時にアンデッドにならぬよう聖水をかけるという話もあるが、アンデッド達を聖水の奔流で葬る様はまさしく激流葬だった。
最序盤、ゲート接続直後の最初の突撃はハクさんの勝利で終了した。
前線基地を構築した後、ハクさん本人が俺達の代理であるモンスター達を連れてそこへ移動する。
ゲートで接続された向こう、10番ダンジョンの入口は、聖水まみれのアンデッド達の死骸に溢れていた。
『基地を構築できました。皆、接続なさい』
「よし合図が来た。10番コアにダンジョンバトル申請だロクコ」
「はーい」
先鋒から一拍遅れてゲートを繋げて万全のモンスター軍団を送り込む。予定通りの順調さ。であれば、あとは制圧戦というわけだ。ひゃっはー、勝馬に乗るぞー! と皆すごい勢いである。それなりに足並みは揃ってはいるが。
『ケーマ! ボクのリスが先行するきゅよ! 未踏領域一番乗りっきゅよ!』
「おう、マップ探索は任せるぞミカン」
『フアッハハハ! 俺様も敵を葬りまくって暴れまくるのである!』
「お前はあんまり突出しすぎるんじゃないぞ564番」
ミカンの操るリス達と564番本人が10番コアのダンジョンに突撃していく。特に、リス達は他のモンスター達の足元をすり抜けて戦うことなくダンジョンの奥へとひたすらに駆けてマップを調べていった。うん、これはマップ探索はミカンに任せても良いなぁ。
俺達も、そろそろ行かないとな。
「レイ、準備は良いか?」
「はい。Gテストール、いつでもいけます!」
Gテストール。それが今回レイと用意した秘密兵器の名前だ。
その姿は身長14m程の巨大ロボ。見た目はまさに、ジャイアント黒鋼ゴーレムそのままだ。這うようにしてゲートをくぐらせると、ハクさんが「あら……」と眉をひそめていた。
モニターを通じてハクさんが話しかけてくる。相互通信状態だ。
『ケーマさん? これは大きすぎないかしら』
「ええ、このままだと大きいですね」
ハクさんの疑問に答えろ、と俺はパチンと指を鳴らし合図する。
「Gテストール、合体解除!」
「「「了解!」」」
レイの部下、ダンジョン管理用妖精のエレカ達が答える。
Gテストールはその両腕、両足を本体から切り離した。通路を通るために胴体もいくつかに分割していく。
切り離した腕、脚はそれぞれ個別の個体。というか元々別個体なのだがそれを合体させているわけだ。そして、接続する言い訳のために中にはスライムが仕込まれている。このスライム達は、『暴食』ギミックの残飯や廃棄品を餌に増えたスライムなので元手も掛かっていない。
コンセプトは合体ロボ。ゴーレム作成技術を隠すため既存のダンジョン機能や鍛冶でできる範囲に留めており、合体ギミックについてはスライムが群体で1つに纏まるイメージに近い。あとは列車の連結機構かな。
『ほう、これはスライムですか。シェルスライムのように鎧を着せたわけですね』
「ええ、ご明察です」
鎧という表現はまさにその通り。巨大スライムに、ゴーレム由来の鎧を着せていると言ってもいい。俺が布の服ゴーレムを着る時のように、ゴーレムが実は本体にはなっているけれど。
尚、連結機構担当の関節ゴーレムがとても大きな働きをしているため、関節が弱点になってるのもある意味巨大ロボっぽい出来栄えだった。