ダンジョンバトルの準備(3)
「ハァーッハッハッハー! 我が魔鎌の切れ味を見よ!!」
試し斬りでぶんぶんと大鎌を振り回す564番コア。用意してやった巻き藁も見事に輪切りになっている。
「素晴らしい! 素晴らしいぞケーマよ! これぞ我が理想の究極魔鎌、ウルトラデスサイズであーる!!」
「……気に入って貰えたようで何よりだよ」
「こんなの気に入らないわけがなかろう! お主のダンジョンカタログが羨ましいな、こういった変わり種の魔剣まであるのか。それにこの辺りなんて俺様のデザインそのままじゃないか」
「湾曲してる形の魔剣を流用して加工させたんだよ。よくできてるだろ?」
「そうか湾曲剣の魔剣か! しかしケーマよ、お主の治める地には優秀な鍛冶屋がおるのだなぁ。俺様の所の鍛冶屋は魔剣を壊してしまっていたわ」
ゴーレムサイズにどんな名前を付けても構わないんだが、それあと9本ある量産型だぞ。なんなら10本分ということで黒鋼製の1本にしてやっても良かったんだが、そうなると今度は加工して作りましたという言い訳がしにくくなるしな。
ウチの村の鍛冶屋は、鉄製品なら慣れたもの、という体裁なので。
「なるべく壊すんじゃないぞ? 一応壊れても交換してやれるけど、有料にするからな」
「うむ! 武器を壊さぬのも腕前というものよ。ハッハッハー!」
というわけで、564番への準備はこれで良し。ミカンの方にはDPを握手で受け渡しておく――のだが。
「んきゅあぁぁぁ……」
「あははは! もふもふー!」
「た、たすけてきゅよぉぉぉ……!」
今回俺についてきたソトがミカンをモフり散らかしていた。
うーん、ソトってば構い過ぎてペットに嫌われるタイプのモフり方してんなぁ。
「ソト、そろそろミカンを離してやりなさい」
「えー、折角だしもっとモフらせてください」
「ほ、他のウサギをっ、ツノウサギ三兄弟をモフっていいきゅからぁー!」
「ツノが痛いから却下です。そして、ミカンならパパに逆らえない――つまり、上司の娘である私に逆らうことができないので、存分にモフり放題ということ!」
ドヤ顔を決め、ソトは更にミカンのわき腹を揉むようにモフる。
絶対くすぐったい奴だ。
「ぎゃばー! し、白ウサギ! 休憩所で提供してる白ウサギ出すきゅからぁー!」
「私ウサギ語は疎くて。喋らないと嫌がってても良く分からないじゃないですか? そういう物言えぬ相手に無茶するのってあんまりよくないと思うんです」
だからといって、物言える相手が嫌がるのをモフるのがいいと? まったく捻くれた性格してるなぁ……誰に似たのやら。
「嫌がっててもやらせてくれる、ってのが最高なんじゃないですか!」
「うわーん! ケーマ、助けて欲しいきゅよぉー!」
ミカンから泣きが入ったのでそろそろ助けてやるか。
「DPの受け渡しはもう終わったんだろ? 離してやりなさいって」
「……もう少しです!」
「とっくに満額受け取ってるきゅよぉ!」
そう。今日のソトはDP受け渡し係だ。
ハクさんにミカン達も参戦させるにあたり、ミカン達のDPが経費になるかのお問い合わせメールを送った。回答は「そう言えばそんなのも居たわね」という返事と共にそれぞれ10万DPを経費として認めるとのことで。
なので、ソトのDP受け渡し練習も兼ねてハクさんから預かったDPをモフりつつ受け渡していたのだ。
あ、564番の方は魔剣代ということで10万DPはこちらの収入ね。……中抜きじゃないぞ? 鉄製とはいえ魔剣1本が1万DPってわりと破格で、564番も大喜びだし。
「ソト嬢、俺様をモフってもよいぞ? ほれ、胸毛のところとかフサフサであろう?」
「あ、564番さんは汗臭いんで近寄らないでください」
「のぅ!? お、俺様、そんなに臭いのか!?」
モフられたいのかお前。……バフォメット型だと見た目可愛くないし、ダンジョンバトルで色々と教育に良くない存在だと認識してるからコイツはソトに近寄らせたくないんだよなぁ。
「お前はソトに近づいたら去勢するから、緊急事態で体を張って守るようなケース以外では近寄らないようにな」
「去勢!? 貴様、俺様の扱いが酷くないか!?」
「いやなら打ち首にするけど。魔国的に」
「ソト嬢! 俺様は近寄らぬので、ソト嬢も俺様に近寄るでないぞ!」
そういうことになった。ちなみに、最終的にミカンは配下のワーラビット、イチゴの靴下と引き換えに解放された。
#Side レイ
「それにしても、一体何を準備したものか……」
ケーマ達がウサギダンジョンに遊びに――もとい、仕事に行っている時、レイはケーマから命じられたダンジョンバトルの準備に取り組んでいた。
可能であれば自身を強化し、前線に立つことを考えていたところだが……それについてはロクコから直接禁止されている。残念だ。
というわけで、レイはロクコが保存していた過去のダンジョンバトルの記録を見つつ、預かったDPで一体何を用意すべきかを考えていた。
ダンジョンバトルと言えば、ケーマは安く小さいモンスターを大量に揃えての人海戦術を使っている。あとは大量のゴーレムによる制圧――うん、これも人海戦術だ。
だがこれは言わばダンジョンバトルにおける基本戦術。
戦士がスキルも使わずただ武器を振るのと同じようなもの。他のダンジョンコアだってモンスターを並べて戦う。通常攻撃といっていい。
ケーマの場合それが『探索』に振り切られているだけ。戦士か斥候か、という違いなだけでしかないのだ。
「となると、人海戦術用のモンスターを今用意しても仕方ありませんね……」
1万DPもあれば当日でも余裕で揃えられる。そこもまたケーマの『通常攻撃』の特長である。わざわざ50万DPもかけて準備をしろということは、そこに別の意図があるに違いない。
というわけで、人海戦術ではない点に着目して考える。
相手の能力を逆手に取った罠、あらかじめゴーレムを送り込んでの奇襲、地形を利用した水攻めや鉄球のギミック、火攻め……
「防衛についてはさほど考える必要ないですね。今回のケースを考えるに、求められているのは『攻め』ですよね」
防衛戦ならダンジョン内のギミックを充実させて迎え撃つということができるが、特に今回は10番コアという単体の敵に他のコア達と協力して挑む、いわばレイドバトルなわけだし。
「……ん? 他のコア達も、参加する?」
ここでレイは実際に当日の事を考えてみる。
他のダンジョンコアだって、各々自前のモンスターを並べて突撃させていくだろう。それはつまり、基本戦術である人海戦術と大差ない。
……ここからさらに一工夫がなければ、功績にはならないのでは?
戦功をあげるには、目立たねばならない。
これより導かれる結論は、すなわち――
(だんぼる、ニコニコ静画のコミカライズの更新がありました。
ガルドコミックの方で最新話の更新は 3/18(金) ですね)