聖女、テロリストに問われる。
(16巻&コミカライズ6巻、出ます)
「答えろ聖女アルカ! 何故、この町の地下にダンジョンがあった!?」
聖女というよりも周囲に聞かせるように再度言う。
しっかし今は逃げていないにもかかわらず誰も俺を捕らえようとしないとは……やれやれ、テロリストの言葉に耳を傾ける時点で色々と失格だね。
「あ、あのダンジョンは……良いのです!」
「ダンジョンに良い悪いがあるのか? 聖王国はいつからラヴェリオ帝国の属国になったんだ!?」
「違います! あのダンジョンは、教皇様主導で人の手により造り上げた、人工のダンジョンなのです!!」
人工の、ダンジョン?
「錬金術の賜物、人の業です。故に、たとえ光神様に見られてもなんら問題ありません」
「ほう。それを、光神様に確認を取ったというのか?」
「取りましたとも。教皇様は、光神様と話せるのです」
うーん、怪しいなぁ。詐欺してない?
と思わなくもないが、俺も闇神――お父様とお話しできるし、あながち嘘とも言えないんだよな。天使経由という可能性もあるし。
ちょっと詳しく聞いてみるか。
「ほう。勇者ですら、光神様と自由に話をすることはできないわけだが?」
「教皇様は、特別なのです」
「教皇が本当に光神様と言葉を交わした証拠はどこにある? 天然も人工もない、ダンジョンを許すなど、光神様が本当にそう言ったとでも?」
「……あなたこそ、まるで光神様を直接知っているかのようですね?」
そりゃ、俺一応勇者だしね。ある意味顔見知りだよ。顔どころか全身光っててよく見えなかったけど。
……勇者ってことをちらつかせて揺さぶるか。光神教において、勇者ってのは多分中々の存在だろうし。知らんけど。
「ああ。俺は、光神様に直接仕事を頼まれた。ダンジョンを破壊せよ、とな。……そして、人工のダンジョンは見逃せなどとは一言も言われていないからな」
「なん……ですって?」
まぁ頼まれただけで請け負ってはいないんだけどね。
あ、でもナンバリング無しのダンジョンコアを壊したことはあるし最低限の仕事はしたと言えるのかもしれない? 最低限は。勇者スキル【超変身】も覚えてるし。
「……勇者――あなたは、勇者様なのですか?」
「その答えを聞く前に、教皇について答えろよ」
俺の事をじろじろと見る聖女。髪色はこの世界で一般的、顔つきも同様。
「教皇がダンジョンを作らせた、と言ったな――そいつは、人間なのか? 人外が化けているんじゃないか?」
「……ッ、た、確かに、教皇様は……怪しい所が、多いです……」
え、本当に怪しいの?
「教皇様は……教皇位は、少なくとも現在から遡って5代、同一人物が務めています」
「5代も、か。確定だな」
教皇がどういう制度か分からないし、1代あたり4年とかいう話ならまぁ分からなくもない。けどとりあえず自信満々に頷いてみせる。
聖女の秘密を絞り出すような言い方からして、一度就任したら加齢で引退するまで十数年くらい務めてそうだし。
と、ここでふとあることを思いつく。黒いダンジョンコア――錬金術の賜物。ということは、某混沌神、レオナが関わっている可能性が非常に高い。
「教皇――もしくはその側近やメイドに、黒い髪の、赤い眼の女がいたりしないか?」
「教皇様は老年男性ですし、心当たりはありませんね……黒い髪の、赤い眼の女性。そのような人物が居たら話題になるでしょうし」
まさかレオナが関わってるかな、とも思ったが関わってたとしてもそう簡単に尻尾を掴ませてくれるわけがないか……いや、まて。
「なぜ話題になる? 指名手配でもされているのか?」
「いえ、初代聖女様の色ですから」
「……初代聖女様?」
「ええ。初代聖女様は、闇夜のように黒い髪を持ち、鮮血のように赤い瞳をもっており、不死鳥を使役していたと言います」
不死鳥はともかく、黒髪はこの世界に少ない。赤目と組み合わせれば猶更だ。初代聖女はずっと昔の人間だろうが……レオナ不老不死だしなぁ。
狼になるスライムが不死鳥にならないとも限らないし……。
「……まあいい。黒髪赤目の邪神女がいないとなれば、教皇こそ光神教に巣食う悪。引きずり下ろし、鉄槌を下すべき相手のようだ」
「悪……ですか」
「そうだ。ダンジョンを潰すと言っておきながら、ダンジョンを造っているんだろ? 馬鹿を言うな、人工だろうがダンジョンはダンジョンだ! 違うか!? お前らはダンジョンを潰せと教えられなかったのか!?」
俺は、気を取り直して演説を始める。
とりあえず教皇への疑いを持たせる方針で煽ろう。両腕を広げて聖女以外にも向けて叫ぶ。
「聖女よ。教皇がダンジョンを造らせたといったな。教皇はなんと言ってダンジョンを造らせた!? ダンジョンが無い国は、ダンジョンのある国に生産力が劣ってしまう、か!? 無限に湧き出る資源のために、多少の悪は目をつぶれ、か!?」
「そ、それは……ダンジョンは、我々の手で管理すべきだと――」
「おやおや! それでは教皇様はダンジョンが有用な存在であると理解しておられるようだ! 教皇ともあろう者が、これはとんだ裏切りだなぁ!!」
聖女の解答を遮り、言い切る。
何と答えようとも、ダンジョンがあった事実は事実。聖女はそれを肯定しているし、何を言おうと教皇が「ダンジョンを有用だと思っている」に繋がるからな。聖王国としては背信行為――潰せるダンジョンを潰さない、に当たるわけだ。
「今度、神様に言っておくよ。光神教は堕落したってな!」
フッ、と鼻で笑い、そう言い放つ。
まぁ神様と言っても、報告先は白の女神様ことハクさんだけども。
さて、野次馬も増えてきた。
時間をだいぶ稼いだと思うけど、折角教皇が怪しいみたいだし……あとひとつくらいイタズラを仕込んでやろう。
「聖女よ! 教皇はダンジョンを守る悪の権化だ。それでも守護しようというのか!?」
「そ、それは……それは……くっ、あ、あなたは一体何者だというのですかっ!」
「そんなことはどうでもいい! 光神様の教えと教皇、守るはどちらだと聞いている!」
「……光神様の教え、です!」
無茶苦茶に極端な2択を並べて、選ばせる。そりゃ光神様の方が上って言わなきゃならんよな。そして、選んだ以上聖女はもう片方を斬り捨てるしかない。
「では、お前の為すべきことは何だ!」
「教皇様を……その座から、降ろす……?」
「生温い!!」
俺はダンッ! と足を踏む。演出として、無詠唱で小さく爆発を起こし空気を震わせた。
予想外の大きな音に、聖女はびくっと身体を震わせる。
「教皇討伐! 聖女よ、それこそ光神様の教えに沿う事だ!!」
「は、はいッ!」
「口に出して言え! 教皇討伐!」
「きょ、教皇、討伐……」
「声が小さい! 教皇討伐!!」
「きょう、教皇、討伐っ」
「教皇討伐!」
「教皇討伐……教皇、討伐!」
教皇討伐。それを口に出し言わせることで、頭に刻み付ける。
何度も言わせるとなお良しだ。
「教皇討伐! 教皇討伐!」
「教皇討伐! 教皇討伐!」
以上、ごく簡単な洗脳である。ブラック企業でもよくある手法だ。
聖女はテロリストの俺の言葉を疑う事も忘れ、人前で「教皇討伐」を連呼する。
あーあ。どうなっても知らんぞ?
……これで十分に時間は稼いだよな?
「使命を忘れるなよ、聖女。教皇討伐!」
「はいっ! 教皇討伐!」
いや、まぁ、ドン引きするほどよく効いてる。
異世界ではこういう技術に耐性がないんだろうか、こんな簡単に口車に乗せられるだなんて……まぁ、宗教で聖女やってるくらいだし、思い込みは激しそうだよなぁ。
こうして俺は、聖女が見守る中堂々と背中を向け、歩いて逃げた。
(メシマズ無双のコミカライズ更新がありました。pixivコミックもあるってよ!
誰だこのメシマズモンスターを生み出した奴。
そして!
『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで』16巻!
&、コミカライズ6巻!
今月25日に発売!!
表紙をこのページの下に画像リンクで貼ってます。
……既に店頭に並んでるところもあるそうな。
特典情報は活動報告にて。
ゲーマーズの有償特典B2タペストリーはロクコがえっち可愛いです。)