破壊活動をしよう!(4)
(今月25日に16巻&コミカライズ6巻が同時発売です! よろしくね!)
「待ちなさい、この破壊活動家!」
「待てと言われて待つバカがいるかっての!……このセリフを実際に言う時が来るとはなぁ」
俺は聖女の放った矢や魔法を躱しつつ、クロマクの町中を駆けていく。
幸いこの町の建物は布を固めたひらひらな装飾がついており、屋根に上るのも容易い。そして、建物に密接していると聖女が攻撃を戸惑うため逃げる隙がでかいのだ。最初は流れ弾が建物を破壊したり応援に駆け付けた兵士を吹っ飛ばしたりしていたが、今は攻撃自体を躊躇し、矢もへろへろで壁に刺さらない威力。
くくく、聖女め。ソロでダンジョン内で暴れる事に慣れてて、誰かと協力するという事が苦手とみえる。
「ああもう、ちょこまかとっ!」
「はっはー、捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
さて、実のところこうして迎撃されるのは予定通りだったりする。
こうして暴れることで、ハクさんちのスパイが色々探るための陽動を兼ねているのだ。
じゃなかったら通報されてからのんびり破壊活動なんてしていない。通報されてから破壊活動するのでも、破壊活動が終わってから通報されるのでもどっちでもよかった。兎角、俺達が騒いだらハクさんちのスパイが動く手筈だ。
どうしても調査したいことがあるから引き付けてくれというのもオーダーだ。できる事なら、なるべく時間をかけて暴れて戦力を郊外まで引っ張って欲しいとのこと。
相手が聖女っていうのは予想外だったが、むしろ上位戦力であろう聖女をこちらに引き付けて置けるのだから良い誤算と言えよう。普通の兵士も俺を追いかけてきているし問題ないだろう。
折角変えた顔だし、見せびらかしておくことにする。
ちなみに確保した研究員と神のナイトキャップについては、聖女の目を盗んでハクさんの手の者に引き渡し済み。受け渡した後に大通りへ向かって走る姿は、完全にテロリストに遭遇して命からがら逃げる一般人の様だった。
……うーん、ハクさんってば一体こういう人材を何人潜ませているのか……こういうのを考えると、ウチの村から四天王の監視が消えても一般冒険者にまぎれた監視の目が残ってるんじゃなかろうか? という疑惑が芽生えた。
ってかそもそも冒険者って冒険者ギルドの元締めであるハクさんの手駒みたいなもんだしな……『ゴレーヌ村村長の調査』みたいな依頼でも出されてたら誰でもスパイになり得る。村、しかも宿がある以上、冒険者を締め出すということもできないぞ。
「氷の槍よ、敵を貫け――【アイスジャベリン】!」
「おっと」
傘程ある巨大つららが地面に突き刺さった。あんまり考え事をしてると攻撃を喰らってしまうな、今は現状に集中しよう。
道を塞ぐように兵士が先回りしてきたので、また黒布の壁を駆け上がり逃げる。屋根の上にいるから聖女からの攻撃も弱くなる。
「ええい、ちょこまかと!」
「さっき聞いた。案外と語彙が少ないな聖女」
「口が減りませんね! あなたこそ、ダンジョンで鍛えてる私を疲れさせるなど大したものですよ!」
俺を追いかけて屋根に上り、肩で息をしながら叫ぶ聖女。
リビングアーマーであるナリキンの身体はあまり疲労を感じない。人化しているのは今は頭だけだし、息が上がるということもなかった。
ただし、リビングアーマーは魔法生物故に体力の代わりに魔力が減る。俺は【収納】から取り出したマナポーションを飲み干した。
「いったい何本のスタミナポーションを持っているのですか……」
「いや、マナポーションだが?」
「ッ、【身体強化】ですか……」
尚、このマナポーションはソト謹製だ。1時間分のマナポーションを箱単位で複製してもらっているので尽きる事もない。1時間毎に補充してくれるしな。……DPで交換してもいいんだけど、どうせ敵の手前【収納】から取り出して使うように見せなきゃならないし、浮いたDPの半分はソトへのお小遣いにすると言ったら喜んで協力してくれている。
飲みやすいように箱から出して置いといてくれるほどだ。
うん、子供をお駄賃で釣って手伝ってもらうとかすごく親子してる。仕事の内容は破壊活動なんだけど。
と、教会本部のある区画からは離れたし、そろそろ逃げるだけでなく別の嫌がらせをしておこう。……聖女は別に死んでも生き返るし、手加減する必要はないか。
「ジャッジメントレイ」
「くぅっ!?」
「おっと、外したか」
俺はそう言いながら【エレメンタルバースト】を聖女に放つ。見た目はよく似てるからオリジナル魔法を偽装するのには丁度いい。避けられた光は空へと消えていった。
「お、王級光魔法を詠唱破棄!? 何者ですかあなたは!」
「神からの使い、と言ったら信じるかね?」
「まさか、天使とでも……?」
おや、別に光神のとは言ってないんだけど……いや、俺ってば元々勇者だしあながち間違いじゃなかったわ。
兵士達が俺を囲む。様子を窺う聖女に、俺は意味深な笑みを浮かべる。
「聖女に問う。神が、あのようなもの許すとでも思ったか?」
「あのような……? とは、なんのことです」
「うん? 君が俺を見つけたあの施設だ。悪いが、色々と破壊させてもらったよ」
あそこに真っ先にやってきた聖女が何も知らない、と言う事はないはずだ。むしろ他の兵士を連れてこなかったのは、許可のない立ち入りが禁止されていることを理解していたからに他ならない。
つまり、逆に言ってしまえば『あの施設は人に知られると都合が悪い』ということだ。
それはなぜかって? 当然、決まっている。
「あそこはダンジョンだったじゃないか! この聖王国、クロマクの町中にどうしてダンジョンがある!? なぁおい! 光神様はダンジョンを破壊しろと仰らなかったか!!」
「……ッ!」
兵士だけじゃない。ここは住宅街だ。
夜の、恐らく住宅街。本来人気はない場所だが、それは家で寝ているだけでむしろ人は多くいる場所。この大立ち回りで寝ている所を起こしてしまって申し訳ないが、折角だし観客になってもらおうじゃないか。
「答えろ聖女アルカ! 何故、この町の地下にダンジョンがあった!?」
そんな中で、大声で光神様の信仰を問うような質問――さぁ、どう出てくるよ、聖女様?
(コミカライズ更新ありました。
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あ。別件で色々立て込んだままのため、まだ隔週更新は続く模様。
下手したら17巻作業(別名:完全書き下ろし)へと続くかもしらん。
(´・ω・`)すまんな。)