聖王国の謎施設
横道の黒いコアの置かれていた部屋よりも奥は、これまたシンプルな構造だった。
ダンジョン、というにはあまりにもシンプルで。通路の片側に、7つの部屋があるだけ。
まぁ俺がロクコに召喚された時の『ただの洞窟』よりはマシなのだが、これではまるでアパートか何かだ。扉は付いていないけど。
「とりあえず、手前から順に見ていくか」
一番手前の部屋を見ると、天井と床にまでつながっている大きなガラスの筒が1本ある。人が入りそうな大きさで、筒にはケーブルが繋がっていた。中身は空のようだ。黒いダンジョンコアにくっついていたような石板もある。
「……なにかの培養器か? 怪人でも作りそうだな」
『マスター、怪人とはなんですか?』
「人間サイズで、人型のバケモノ、かな。……改造人間という線もある」
『ではそのような敵が居ることも考慮しておきます』
『人間の大きさでバケモノですか。強敵ですね、ナリキン!』
「お前ら2人も人間サイズのモンスターだから似たようなもんだけどな?……まぁ、普通の人間よりは強いかもしれんが、そもそもこの世界の人間は俺の故郷から見たら全員怪人みたいなもんだ。魔法やスキルが使えるしな……」
とりあえず、そういうモンスターが潜伏してるかも、と考えるだけでいいか。
「ああ、聖王国らしく、人造勇者とか作ってたりして」
『おや。人造勇者……レオナ様ができなかったことを人ができるものでしょうか?』
と、ナーナが不満げにこちらのモニターを覗き込んで言う。
「ん、そうなのか?」
『ケーマ様は我々の出自をお忘れで? トイシリーズは、勇者を造ろうとして生まれたものですよ。ケーマ様の大好きな失敗作はもちろん、完成品である私も、レオナ様にとっては不満の残る出来でした』
マジかよ。そういえばニクやトイってそういう生まれだったのか。
実際とても強い。が、確かにワタルのような本物の勇者と比べるとどうしても見劣りする。
成長するぶん、将来的に現時点のワタルに勝てる存在になることは不可能ではないだろうが、そのころにはワタルはもっと強くなっているだろう。
『才能の基準は満たしているものの、勇者には勝てない。所詮玩具ね。と言われましたよ。で、ケーマ様。レオナ様にもできなかったそれを、レオナ様の足元にも及ばぬ人間共にできるとでも?』
改めて怒りを含む口調でそう言うトイ。珍しく本気の感情。地雷を踏んでしまっていたらしい。まぁほんの思い付きで口にしただけなのだが、確かにレオナがチートスキル込々の錬金術で失敗したなら、無理なのだろう。
「ふむ。ならトイの劣化で、ちょっとだけ強化された人間……あるいはレオナが関わった施設という可能性もあるな。それならどうだ?」
『おっと。それならばあり得ますね。であればそいつらは私たちの弟妹に当たります、楽しくなってきました』
ナーナは一転してうきうきとモニターを眺める。……うん、レオナに敵対するのは、今のトイの目的だったね。
……ナーナがこちらに良いように利用されてるとレオナにバレたら厄介なことになりそうだが、まぁ今回ダンジョンに潜ってるのはネズミだし問題ない、はずだ。トイの本体はゴレーヌ村で確保・監禁済みだし。
さて、引き続き調べていこう。
3つ目までは一番手前の部屋と同じ内装で見るところもなかったが、4つ目、真ん中の部屋では少し様相が違った。
他の部屋より倍は広く、部屋の中央に金属の半球が置いてある。半球からはいくつものパイプが伸び、天井と床を這って壁へと繋がっている。隣部屋のガラス管と繋がっていたのだろうか。覗き窓が付いており、薄く光が漏れている。
そして夜中にも拘らず白衣を着た研究者らしき男が4人、警備兵が2人ほどいる。
「……なんの魔道具かな」
『何かの研究施設か……ナーナよ、どう思う?』
『これは動力炉でしょう。……旦那様、覗き窓から炉の中身が見えるようですが、見れますか?』
『ハーメルン6を動かそう。…………これでどうだ?』
『うーん、微妙ですね。良く分かりません』
ナリキンが動かしたネズミの視界をこちらでも確認する。
……こ、こいつは……この神々しい光は……!
「まさか『神の寝具』か!?」
「確かに見覚えのある感じの光よね」
小さな覗き窓は、もっと近づかないと中身が分からないものの、この白い光はまさしく神の寝具に違いない。
……いや、ほかの神具とかである可能性もあるけど。武器とかの神具があるらしいし、そういうのかもしれない。
『しっかり中身を確認しておきたいところですが、人が邪魔ですね。……見つかるのを覚悟で、強引に確認してしまいますか?』
「いやまて。その必要はない」
俺は強引な調査を止める。ここまでしっかり目撃してしまえば――俺の【超変身】を用いて、その中身を調べることができる。そう。果樹園の大型魔道具を分解したときのように。
「中身についてはこちらで調べておく。残りの部屋を確認するとしよう。……まぁ、この中に入ってるのはなんかしらの神具だと思うが」
『ほほう。見ただけでそこまで分かるとはさすがマスターです』
『ふむ。つまりこれは神具から何らかの力を得る仕掛けということでしょうか? ナーナはどう思いますか』
『勇者は光神の力。同じく神の寝具も神の力。ますます人造勇者の線が濃くなってきましたね。抽出した神の力を、人に移植――うん、確かにそれなら人造勇者を作れない事もないかもしれません』
つまり闇神の力で勇者を作ろうとしている? なるほどそれは……ん? んん?
「なぁ、もしかしてそれ、ダンジョンコアができちゃったりするんじゃないか?」
「ダンジョンコアが? 父様の力を使って?……あ、確かに!」
俺の隣で驚くロクコ。
光神の力なら勇者になるが、闇神の力では? そう、ダンジョン。ダンジョンコアが思いつく。
となると、もしや入口すぐの部屋にあった黒いダンジョンコア。あれをここで作っているのではなかろうか。……まだ確証はとれないが。勇者を造ろうとしてうっかりダンジョンコアができちゃった。あり得る。
「繋がってきたな。これは一度ハクさんに報告すべきだ」
「そうね、結構な大事だわ。まさか父様の寝具で、ダンジョンコア作るだなんて!」
「まだ確定じゃないぞ?」
でも、一番最初の部屋の、妙なダンジョンコアがある以上はその可能性がある。
……ちなみに、残りの3部屋も手前3つの部屋と同じで、空のガラス筒が1部屋に1本ずつあるだけだった。今はこの施設では何も作られていないらしい。……折角なら稼働しているようなところがあれば見たかったが、まぁ仕方ないな。
(書籍化作業ってあるじゃないですか。
でも今回は逆に、書きおろし中の原稿から一部引っ張ってきてるので……これWeb化作業っていうんですかね?
尚、もちろん書籍版とは色々異なります。書籍版だんぼるもよろしくね!)