情報とは、確認できるまでは未確認情報なのである。(ただの事実を名言っぽくいうテスト)
(書籍化作業に伴い隔週更新です)
トランに『憑依』してナリキン達の話を聞く。
「というわけで、ナユタから手に入れた情報がこちらです」
『おおう、隠しダンジョンの情報がバッチリあるじゃないか。へぇ、えーっと、この座標か……なるほどなるほど、魔道具工房から程々に近い所に』
「ナーナが見事やってくれました。褒めてやってくださいマスター」
『うん、よくやったな』
「いいえ、それほどでも」
なんとも、トイは自分の妹という価値を利用してナユタからすんなりと情報を引き出したらしい。使えるものは何でも使う、そういうスタンス嫌いじゃない。
『とりあえずハクさんへの報告もするとして、次はここにネズミでも送り込むか』
「いいですねマスター。私が用意しましょう」
ロクファがメニューを開きながら言う。
『ロクファ。とりあえずあとでな』
「む、すみません。私だけ手柄が無いようで急いてしまいました」
『安心しろ、この情報は3人の手柄だ』
そこまで言うと、はぁと溜息を吐くナーナ。
「ケーマ様。むしろ私を含めて良いのかとお尋ねしたいですね?」
『主にお前が手に入れた情報だから入れないわけにはいかんだろ』
「まぁそれはそうですが」
また溜息を吐くナーナ。あんまり溜息つくと幸せが逃げるぞ。
「ケーマ様は私のことを信用しすぎでは? この報告だって嘘をついているかもしれませんよ。私でなくとも、ナユタが嘘をついている可能性もあります」
『だからこの後ちゃんと調べるんだろ』
別に調査に失敗しても死ぬわけじゃないし、ハクさんにも未確認情報として報告するに決まってる。万一確定情報として罠だったら虚偽報告を理由に粛清されかねないしな。
「……そのつもりならばいいのですが」
『ああ、ロクファ。召喚したネズミには名前を付けておこうか、実際に俺が憑依して調べるかもしれないしな。そっちで名前を付けたやつにも憑依できるか試したいからつけておいてくれ』
「かしこまりました。なんという名前にしますか?」
『ハーメルン、としておこうか。ハーメルン1、2、3と数字を増やしてくれ』
「ではそのように」
「ケーマ様。折角ですし、私も1匹借りて同行しましょうか?」
にこりと笑顔で話に割り込むナーナ。
『……さすがにモニターからの情報共有に留めてくれ』
「安心しました、ここでもし貸し出してくれると言おうものならどうしたものかと」
さりげなく試そうとしてくるなよ、面倒だな。
*
さて、というわけでいよいよ隠しダンジョンと思しき場所の調査だ。
日の落ちた夜を見計らって、俺達はネズミたちを目立たないように目的地に向かって移動させる。
『欲望の洞窟』のマスタールームからネズミの視界をモニターに映すと、クロマクの夜の道を走るネズミたち6匹――モニター担当含めたら7匹――がそこにいた。
コードネーム、というか名前はそれぞれハーメルン1~7。
……100匹とかも用意できるが、あまり多すぎると今度は目立って調査には不向きだ。7匹くらいで丁度良い。福の神も侍も草も7ぐらいがちょうどいいってなもんだしな。
ちなみにモニターの通信費が大量にかかるわけだが、今回はハクさんがバックについていて経費として払ってくれる約束になっている。代わりにモニターで録画した映像をハクさんにも見せるようにということだ。
折角なので、盛大に通信機能を使う方向でいってみようと思う。
「それにしても、家にいながらにして外国の調査もできるってダンジョン機能はすごいよな」
「えへへ、それほどでもあるかしら」
得意げなロクコ。別にお前を褒めたわけじゃ、ってダンジョン本人だから褒めてたわ。
「私も自分がこれほどすごい遠くまで見れるとは思ってなかったわ。ケーマができるって言ってたからできるんだろうなぁって試したけど」
「無線で外国まで覗き見できるってとんでもないよな。有線とか中継なしでこれだもんよ。日本でもこんなのは無いだろ多分」
「ふへっ!?……そ、そこまで褒めるなんて、何を企んでるの? 今夜私を抱き枕にしたいとか? い、いいわよ!」
「ただ感想を言っただけだ、別にしなくていい」
顔の赤いロクコをさておき、地図の目的座標に到着した。クロマクの他の建物同様に黒い幕のかけられた小さな家だ。無駄にヒラヒラしている部分がありしかも固いので駆け上がるには足場には困らなさそう。
『マスター、聞こえていますか?』
宿の部屋にいるナリキンの声がする。声だけでなく、姿も見える。小鳥の映している視界と聴覚がそのままこちらの別モニターに反映されているのだ。
そして、こちらの姿と音声もダンジョンの監視モニター機能であちらに映っている。
「うむ。そっちはどうだ?」
『は、問題なく聞こえております……これは便利ですね』
「通信費でDPの消費は激しいけどな。今回は経費をハクさんが払ってくれるが、今後も定時連絡はいつも通りトランに『憑依』するほうがよさそうだ」
『む、そうなのですか』
双方向モニターシステムと呼ぶことに――……いや単純にTV電話だな。
ハーメルン1の視界モニターを中央に、左右に3つずつ他ネズミの視界を表示。こういうモニター操作が簡単にできるのもダンジョン機能の便利なところだ。ちなみに、双方向や複数のモニターを表示しても通信費は据え置きらしい。……ソトのように2か所を繋げる穴とかを開くのにDPを使ってるのだろうか。
「さて、ではこの建物にどうやって入ろうか」
『ケーマ様、クロマク建築では布のひだに隠れて換気口が設置されています。人では当然入れませんが、ネズミなら通れるでしょう。そこから侵入するのが良いのではないかと』
「そうか、そうなるとまずは……この黒布のどこに換気口があるんだ?」
『それは、手分けして探しましょう。機能的に考えて低い所だとは思いますが』
7匹のネズミで手分けしてひだを探ると、ロクファの操作していたネズミが換気口を見つける。トイの予想通り、低めのところだった。
『見つけましたマスター』
「でかした。ロクファ」
換気口は単に鉄の格子がある小窓で。ネズミなら余裕で中に入れるようだ……まぁなにか罠があっても死ぬのはただのネズミ7匹。しかもモニター越しに見てるだけ。痛くもかゆくもないというものよ。
「ではこれより調査を行う。ハーメルン1のみ操作権限を借りるぞ、あとはそちらに任せる――状況開始!」
『はっ!』
ネズミたちはクロマク建築の装飾を駆け上がり、換気口のスキマから中に忍び込んでいった。
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31話先行公開、30話無料公開です。
活動報告もしくは下のリンクからどうぞ。 )
(2021/07/06 通信費まわり、ちょいと修正しました)