姉妹の接触
(ちょっと寝て遅れました! てへぺろ!)
しっかりと代金を払い、犬獣人のナユタに接触することになった。
しばらく待つと、部屋にナユタがやってくる。
しっかりいい待遇を受けているのだろう、奴隷らしくないしっかりした服を着ている。首輪はつけているものの、金色の髪の毛にも尻尾にもロップイヤーな犬耳にも艶があり手入れが行き届いているようだ。急遽取り繕った感じでもない。
ナーナが事前に探った通り、冷遇されているわけではないのは明白だった。
……とはいえ、普通に1日2個魔道具作れというのは地味に結構大変なはずなのだが。
「初めまして。ナユタです。……それで、オーダーメイドと聞いたけれど?」
「うむ。まぁそれは建て前でな」
と、ここでちらりとナーナを見るナリキン。
「……旦那様、もしや聞きたいことが何だったのか忘れましたか?」
「いや、そうではなくてな。少し席を外すべきかと。……それと、一応確認しておこうか、何を聞くべきだったかね?」
はぁ、まったくこの旦那様は。と溜息を吐くナーナ。
折角の姉妹の出会いなのだから、と言いたいのだろう。
……いや、上手く事情を説明して情報を引き出せる自信がないだけかもしれない。あと本当に忘れてた可能性も捨てきれない。
「お気遣いは無用です。……はぁ、まぁ仕方ないですね。普通に話を持ち掛けても答えないでしょうし、私から話すのが得策でしょうか」
「? 何の話をしているのかしら」
首をかしげるナユタに、ナーナは恭しくお辞儀をしてみせた。
「初めまして、ナユタ様。……いいえ、こういった方が良いですね。――ご壮健でなによりです、レオナ様のお孫様」
ナーナがそう言うと、ナユタは警戒して腕を組み、目を細める。
「……あなた、何者?」
「あなたの姉妹、トイですよ。この身体は【憑依】で動かしていますが、本体は犬獣人です」
「トイ。……本当に?」
「ええ、本当です。……先日まではレオナ様の元に居ましたが、今は出奔し、レオナ様に反逆しているところです。それでこの国に痕跡と思われるものをみつけたので」
にこりと笑って見せるナーナを、じぃっと怪訝そうに眺めて真偽を見極めようとするナユタ。レオナ譲りの胡散臭い笑みがはたして信用に足るのかどうかは甚だ疑問だ。
「さて、それでなんで私に話を聞こうと思ったのかしら。見ての通り奴隷として働いてるところよ?」
「それが擬態ということは分かってるんですよ、お姉様。……この可愛い妹に、お姉様が何を探っているのか、何を掴んだのか――教えてくださいませ」
「……まぁ、妹にそう言われてしまったら、仕方ないわね」
組んでた腕を解き、目を閉じてふぅ、と小さく息を吐くナユタ。
態度を軟化させるナユタに、首をかしげるナリキンとロクファ。
「あの、今の言い回しに何か?」
素直に手を挙げて尋ねるロクファ。
「……ああ、えっと。獣人じゃないと分かりにくいか……上下関係の問題よ。兄と姉は弟と妹よりも偉いの。ただ、偉い分だけ下に尊敬されるよう、守るようにする義務もあるわけよ。そうでなければ、兄や姉は名乗れないの」
「つまり、姉を名乗らせてやるからそれらしい対価を寄越せ、という高度な交渉です」
「……そう言葉でぶっちゃけて言われるとなんか釈然としないわね」
「お姉様? 一度教えてくれると言ったのに前言を撤回するのですか?」
「少し意地悪したくなってくるわ」
「あーあ、お姉様もおらず、レオナ様に弄ばれる日々を思い出しますねぇ。お陰様で色々な事ができるようになりましたが」
にこりと笑うナーナに「やれやれ分かったわよ」と肩をすくめるナユタ。
「ちゃんと私の持ってる情報を教えてあげるわよ。まぁ、仕事で言えないことはあるけれど」
「言い回しを工夫して全部教えてくださいね、お姉様」
「はいはい。ちゃんと拾ってね」
「少なくとも、仕事で潜入しているということは分かりました」
「言わなくていいから」
そのやり取りは、今日初めて会ったとは思えないほどに姉妹のそれだ。
「……なぁナーナよ。いつの間に姉妹と認め合ったのだ? 身体も別人だというのに。信用するのが早すぎるような気がするのだが」
「姉妹ですから、分かるのですよ旦那様。なんなら、レオナ様由来でそういうスキルがあるとでも思ってくだされば」
「そうか」
そういうスキルならそういうものなのだろう、と納得するナリキン。
「……私としては、旦那様のそのあっさり納得してしまう所も中々不可解だと思うのですが。よく私の言葉をすんなり呑み込めますね」
「良い人、というべきなのかしら? いい雇い主ねトイ」
「これはお人好しというんですよ。元々レオナ様の件で敵対していたんですが……それとお姉様、今は身体に合わせてナーナと名乗っていますから、それで」
「分かったわナーナ」
かくして、トイの働きにより、無事ナユタから情報を貰えることになった。
「ところで、オーダーメイドの魔道具も作らないとね。ここで働いてる都合で代金は貰うけど、私から妹に贈らせてもらおうかしら」
「ふむ、そのくらい構わないぞ。ナーナには世話になってるしな、さて、どのようなデザインが似合うか。我はナーナの元の身体をよく知らんのだが、よろしく頼むぞ」
「旦那様、相変わらず激甘ですね……」
「ふふ、ホントにいい雇い主ね」
ナユタの生暖かい視線に、苦笑するナーナだった。
(そろそろ16巻の執筆のため2週1更新ペースになるかもしれません。
いつもながら書籍版で本気出す)