クロマク調査
ナーナがクロマクの探索を行うと、あっさり色々と判明した。
というかナリキンよ、トイの本体はこちらで抑えてるとはいえ、ナーナを自由にさせ過ぎじゃないかな?……まぁいいけどね。しかしマップまで見せちゃってまぁ……
もっとも、ダンジョンメニューのマップ機能で表示されるのは所詮このあたりで『普通に使われてる地図』だから別にいいんだけど。小鳥でも使って航空撮影すればいつでも詳細な地図が手に入るようなもんだし、正直あまり価値ないし。
あ、でもソトの【収納】輸送については口外しないよう改めて釘を刺しておかねば。
「で、ここの点がナユタ及びセツナですね。他のはこちらが商人、こちらはスパイと冒険者です」
「むむ! つまりゴレーヌ村にスパイがきていたのか。マスター、ゆゆしき事態です!」
『いやいや、想定済みだぞナリキン。というかナユタとセツナもワコークのスパイだし。むしろいない方がおかしい位に無防備だったしな』
「ええ、今は白の女神の眷属が守っているからマシなようですが、意図的に見逃してるスパイもいるでしょうし」
完全にシャットアウトするとそれはそれでとんでもない機密を持っているのではと疑われ余計面倒なことになるらしい。ほどほど、適度にどうでもいい情報を流してやるのが良いそうだ。
「ちなみに割といい待遇でしたから、恐らく技術者奴隷ですね。1日2個の魔道具作成ノルマがあるようです。通常であれば結構なペースですね」
『捕まってたのか?』
「どちらかと言えば潜入中のようです。接触はしてきませんでしたが、姉には顔を見られたかもしれません。アレは勘が良い」
姉、セツナはニクと対等に渡り合う腕前の持ち主だ。ロップイヤーの犬とウサギが混じった獣人で、見た目はどこか天然っぽくはある。
ウサギが入ってる分、警戒する能力が高いのかもしれない。
『潜入、って何を調べようとしてるんだ?』
「聞き耳を立ててましたが、混沌製薬の魔法薬の出どころのようでした。レオナ様の関与を疑っている感じでしょう」
『都合が良いな、既に情報を持ってるなら協力すれば一気に調査が進むぞ』
ですね、と頷くナーナ。ふむ、とナリキンが顎に手を当てる。
「いかがしますか、マスター? 接触はする方向でよろしいですかな」
『ああ。じゃ、作品が気に入ったのでオーダーメイドしたいって感じに接触しよう。職人に直接言わねば分からんとダダをこねるなり、最初はナユタ自身を買い取ろうとするなりしてくれ』
「そのあたりはナーナが得意ですな。任せるぞ」
「……はい旦那様。……あのケーマ様? 私が言うのもなんですが、この旦那様私の事信用しすぎでは?」
『……使用人として有用なのは事実だけど、一応警戒するようにな、ナリキン』
「無論ですマスター、警戒していますとも」
警戒してこれかよ。
「ケーマ様も『一応』とか言ってる時点でドッコイドッコイというものでは?」
聞かなかったことにした。
*
早速ナリキン達はナーナに案内されてナユタ達のいる場所――魔道具工房に向かった。ナユタ達はここで働かされている。
工房にて話がしたいと(いくらか握らせて)言うと、応接室に通される。
「――というわけで、奥様がこちらの作品をいたく気に入りまして。製作者に会わせてほしいとのことでございます」
「大変光栄です。私めがこの魔道具の製作者です」
そう言って対応したのは太り気味の色黒な男だった。
当然この男がナユタなはずはない。まず獣人でもない。それに気づいて奥様――ロクファは「はて?」と首を傾げた。
このような迂闊な反応はナーナも予測済みだ。優秀な彼女はすぐフォローに入る。
「ああ、気付かれましたか奥様。ええ、ちがいます。この方ではありませんね」
「む? し、しかしその魔道具は私めらの工房のもの。つまり工房長である私めの作品ですとも」
「奥様が評価しているのは実際の職人です。魔道具の回路がとてもきれいで感心した、と、そうですよね、奥様?」
「あ、はい、ええ、そうなの。この魔道具は実に出来が良くて!」
ナーナのフォローにこくりと頷くロクファ。
「うむ、だから直接職人に注文をしたくてな」
「なるほど、そういうことですか。では注文を伝えておきましょう」
「職人には会わせられないと? 我が妻が会いたいと言っているのだ、工房長ならなんとかできるだろう? 部下なのだから呼べばいいだけだ」
「ウチの職人は、とてもシャイでして。とても人前にお出しできる者ではないのです」
「そうか」
そう言って銀貨を1枚をパチンとテーブルに置くナリキン。
「困りますな」
と言いながらも銀貨から目を離さない工房長の男。
「……会わせられない理由でもあるのか? 例えばそう、奴隷が作っているとか?」
「旦那様、きっとそれです。獣人奴隷が作っているのですよ! 奥様、いかがしますか、獣人奴隷の作品だとしたら! ああ汚らわしい!」
「ちょ、ちょっと何をおっしゃっているのやら。人聞きが悪いですぞ」
「そうだぞナーナ。別に奴隷に物を作らせるのは当たり前だろう?」
「しかし、それが獣人奴隷となると話は別でしょう? ねぇ奥様」
実際に作っているのが獣人奴隷なので、ナーナの言いがかりに汗をかくしかない工房長。
この国で獣人奴隷に作らせたものを売るということはわりと賛否両論ある問題なのである。気にしない人間も多いが、嫌う人間はとことん忌避する。光神教の教えにある『人族こそが最も優れている』という説に基づく考えだ。
「まぁ、そうですか? 私は特に気にしませんが……この魔道具はとても素晴らしいもの。なら職人に会ってみたいけれど?」
「奥様といえど、それは――」
「ま、ナーナはこの国の人間だものな。だが使用人がそれ以上妻の要望に口を挟むのは感心しないな」
「む……申し訳ありません、差し出がましい真似をしました」
「……さて工房長。我々は旅行者だし、特に獣人に忌避感はない。その職人が獣人奴隷でもかまわん。呼べ」
ナリキンはさらに銀貨を1枚重ねる。
途中からすっかりアクセサリーの魔道具を作った職人が獣人奴隷という前提になっていたのだが、事実であるため工房長は気付かなかった。
テーブルに置かれた銀貨をそっとつまみあげ、懐にしまった。
「……仕方ありませんな、お客さんは旅行者のようですし、他言無用ということで頼みますよ。少し身なりを整えさせるのでお時間をください」
「よかろう」
こうして、ナリキン達は無事ナユタとの接触に成功した。
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