クロマク調査開始
そういえば魔国で魔力の矢を作る矢筒の魔道具があったが、あれを石を作る魔道具で石の矢にして作れないだろうか、と思ったのだけど、矢の形状にすると消費魔力量が跳ね上がるらしい。
ネルネ曰く「作れない事は無いですよー?」らしいが、こうなるともう完全に【ストーンボルト】で攻撃した方が消費も少ないし手っ取り早いし強いそうな。
「というわけで、イチカからの報告でこれを作ってる人間が『ナユタシシドウ』であることが分かったんだが……この名前に聞き覚えはないか?」
「ナユタ? ああ、もしかして前にウチの宿でバイトしてた子?」
「その可能性が高いと思う。獅子堂だし。魔道具だし」
言われてよく見たら、確かに小さく刻印がされていた。獅子堂の苗字はレオナの孫という事らしいし、知る人が見れば分かるといったところか。
ナユタには確か、魔道具を作ってて売りつけてこられた記憶もある。自作の銃もどきの魔道具を突き付けられたこともあったような。随分と前の事だからもう記憶が薄くなっているなぁ。姉のセツナはバトルジャンキーでニクとよく模擬戦してたっけ。
ただ、ナユタは犬耳の獣人であったはず。ワコークの調査員だけども、聖王国では獣人というだけで肩身が狭い存在だ。
トイだってナーナというヒトの暗殺者に憑依してメイドをしているが、獣人のままだったら奴隷の首輪をつけておく必要もあっただろうな。そのくらい獣人の立場は低い。
「ナユタは捕まって奴隷になってる可能性もあるな……で、それはどうでもいいんだけど、タグづけしてなかったっけ?」
「タグ? あ、そうか。接触して情報収集するのね」
「話が早いな、その通りだ」
捕まっているなら内情が分かるだろうし、そうでないにしても接触できれば情報を買えるかもしれない。
むしろ奴隷になってる方が都合が良い。助けた恩と引き換えにたっぷりと情報を貰えたりしそうだし、なんなら奴隷のままで買い取ってしまえば情報も引き出し放題だしついでにワコークの情報まで手に入れられる。
「で、ロクコや。ナユタの事はタグ付けしてたっけ?」
「多分してあるわよ、最近はともかく、前はこの村に来た人に適当にタグ付けしまくってたから。特にレオナ関係とかだと絶対してるわ」
「お、そうか。やるじゃないかロクコ」
「えへへ」
頭を撫でられ喜ぶロクコ。
というわけで、今度はこのナユタシシドウをとっかかりに調査してもらうことにした。
*
クロマクの町。ナリキンは宿でダンジョンメニューを開きマップを確認する。
町の地図が表示された。マスターから聞いた話によれば、この町にはナユタシシドウという獣人の娘がいるらしい。そして、その人物にはタグがついているだろうからすぐわかるはずだ、と。
……しかし、どうやらタグがついた人物が何人かこの町には居るようだ。
「む? マスターから聞いていた話と少し違うな。ひのふの……5人いるぞ?」
「特に名前の記載もないですし、どれが目的の人物か分かりませんね……どういうことでしょうか」
一緒に地図を見ていたロクファは、ちらりとナーナを見る。
「……私にはそもそもその『マップ』とやらが見えませんので想像になりますが、単純に考えればゴレーヌ村に来たことのあるスパイか、立ち寄ったことのある冒険者や商人、というところでしょう。少なくともケーマ様と接触があったか村に来たことがあるということは間違いないかと」
「なるほど。ナユタシシドウとやらのみが村に来たわけではないしな」
「……シシドウ、ああ、ナユタが名前ですよね?」
「む? ああ、そうらしいな」
「ナユタ、ナユタ……うん、思い出しました。その人物は私の姉妹です。たしか犬獣人でしたね?」
そういえば、ナーナはヒトだが、元々は犬獣人だったなとナリキンは思い出す。もっともそちらの姿をナリキンは見たことないので知らないが。
「ほう、ナーナの……いや、トイの姉妹か。そういえば姉も一緒にいるかもしれない、という話だったが、そちらは心当たりあるか?」
「姉となると、別のトイが……? それとも別のでしょうか」
「セツナとかいう名前だそうだ」
「ああ、なるほどそっち。そういえばそんなのも居るらしいですね」
ナーナはセツナとナユタという姉妹を思い出す。以前に共有した時点の情報では、確かレオナに呪いをかけられ遊ばれているとかいう話だったか。羨ましいと思ったものだ。
レオナからの指示で積極的に協力するよう言われているので、こういうところも包み隠さずナリキンに話しておく。
「というわけですね。恐らく私の知っている情報は古いですが、恐らく会えば判別はつく、でしょう」
「ほう。顔が分かるということか?」
「……顔は分かりませんが、近づけばニオイで分かるでしょう。嗅覚的な物ではなく、魂の感覚なのでこの身体でも問題なく」
どちらにせよ混沌神の系譜だ。
「とりあえず、場所を教えてくれれば確認してきましょうか? なんて――」
「うむ。顔が分かるなら話が早い。頼めるか?」
「……良いですが、まさか私に監視を付けずに一人で行かせるなどということはしませんよね?」
「おお、忘れるところだった。ではトランを連れて行くと良い、トランが見ていればマスターにもあとで確認していただけるはずだしな」
「……前にも言いましたが、小鳥では私の枷にはなりませんよ?」
「別にナーナは逃げないであろう?」
「まぁ逃げませんけど」
「なら良いじゃないか。なぁロクファ」
「そうですね。頼みますよナーナ」
「はぁ……」
……まったく、相変わらずのお人よしというか、油断が過ぎるな、この夫婦は。とナーナは思う。マスターとコアに似たに違いない。
いや、いくらでも協力するからいいのだけど。
「ではマップを見せるから確認してきてくれ……候補は5人だな」
「お任せあれ。ついでに他の者についても少し調べてきましょうか」
「ナーナは頼もしいですね! 私も見習いたいです」
「……一応私、外部の人間なんですけどね。というか地図まで見せちゃってまぁ……ダンジョン機能ってこういう感じなんですね、へーぇ」
ナリキンが表示設定にしたマップで候補箇所を確認する。候補は5人だが、2人セットになってる場所が1つあるので姉妹が一緒にいるならおそらくここであろう。
「町の地図で逃走経路も確認させた上で私を好きに行動させるとか、大物ですね」
「そうか? マスターに少しでも近づけるというのなら嬉しいがな」
「褒めてません」
やれやれ、と溜息をついて、ナーナは宿の部屋から情報収集のために外出した。
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