クロマクの町
ナリキン達がクロマクに到着した。
俺は小鳥に『憑依』し、ナリキンの肩に乗って町を見る。……クロマクの町は、黒色の四角い建物に黒い布をかけたような装飾の建物が並んでいた。風が吹いても揺れないので彫刻か何かだろうが、随分とフリフリである。一方で道行く人の服は聖王国の普通、カーテンを身にまとったような奴で白が多い。
なんかこう、モノクロの世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えるな。
『クロマク……黒幕、うん、名前通りの町だなぁ』
「はい、黒い幕という意味らしいです。なんでも布の染料が特産品とか」
『なるほど。特産品のアピールってことか』
『ロクファ、アレ何かしら?』
「え、なんでしょう。……屋台、ですかね? ナーナ、分かりますか?」
ちなみにロクコも小鳥に『憑依』してロクファの肩に乗っている。【念話】も習得済み。なんかこう、結局ナリキン達本人に憑依するより鳥に『憑依』して肩に乗ってる方が楽な事に気付いてしまったのである……
で、その目線の先には占い小屋と言っても違和感の無い布がひらひらしたテントがあり、中は何かの店のようだ。
「ええ、あれはアクセサリーを売ってる雑貨屋のようですよ、奥様」
「へぇ! だそうですロクコ様」
『アクセサリー! 装飾品は文化、大事なところね。ロクファ、あとでケーマと行くから身体借してね』
「はい、かしこまりました」
ロクコの念話に頷くロクファ。
俺の予定も聞かずに憑依デートが決定したようである。俺にはオフトン教会で寝るという用事が……特になかったけど。ロクコ、俺の予定をバッチリ把握してるもんな。
「いかがしますかマスター。奥様への贈り物、今から見繕っておきますかな?」
『あとでデートに来た時で良いだろ。とりあえずは宿だ、宿』
「おっと、そうですな。妻に野宿はさせたくはないですし」
「まぁ、あなたったら。私は別にあなたとなら野宿でもいいのですけど?」
「道中ならともかく、人里だぞ? 宿があるのにとらぬなどあり得ぬわ。オフトン教徒たるもの、快適な寝床を求めるのは道理ぞ」
そう言って身を寄せ合うナリキンとロクファ。すっかり夫婦が板についたなぁ。
ロクファの顔がロクコに似てることもあり少し複雑な気分になるけど。
と、ロクコがぴょいっと飛んでナリキンの肩、俺の隣にやってきた。
『2人ともすっかり仲良しね。これは負けてられないわよケーマ?』
『何の勝負だよ』
言いながらシーバが俺にすりすりと身体をこすりつけてくる。羽毛でもふもふ柔らか可愛い。鳥なので色気は皆無であるが可愛い。おいロクコ、ロクファが微笑ましく、ナーナが呆れ顔で見てるぞ。
とりあえず宿を確保した。貴族等の裕福層向けの宿なら小動物くらいのペット持ち込みは黙認してくれる。ある程度大きいと馬小屋へ行くことになるが、小鳥なら当然問題ない。
『しかし、宿もこの黒い布を被せたようなデザインなんだなぁ』
「あ、マスター。これですが、実際に布を固めて作られているそうですよ」
『何、そうなのか?』
ナリキンの手に乗って嘴でつっついてみるとコンコンと硬く軽い音がした。接着剤を染み込ませて固めたらこのような感じになるのだろうか?
「特産品のひとつ、魔法に反応して硬化する染料だそうです。これをつかった布の鎧といった物もあるんだとか。軽くて丈夫だそうですよ」
『ほー』
「まぁ、その染料は原料の色が黒いので黒色だけらしいですが」
『そりゃ少し残念だな。黒だけでもすごいけど』
頑丈な布かぁ。ウチの布の服ゴーレムにも取り入れられるかもしれない。
……
この染料で黒ニーソや黒タイツを作れば、足の型が取れるのでは?
いや、脱ぐのが大変か。やめとこう。
*
というわけで、宿の部屋で体を交換してアクセサリー屋へやってきた。
「さ、売り物を見るわよケー……あなた!」
「うん、まぁ名前でヘマするよりはいいよね。……こっちは普段どう呼んでる?」
『最近は愛しの我が妻とか呼んでいますぞ』
「愛しの……」
肩の上の小鳥から呼び方を聞いて、コイツすげぇなと見直す。
「さ、さ、呼んで呼んで? あ・な・た?」
「……い、愛しの我が妻よ、では行こうか」
「うんっ」
と、腕を組むロクファ。色々と柔らかいのを感じつつ、アクセサリー屋のテントに入った。
「いらっしゃいませー」
テントの中は普通にアクセサリー売りの露店のようで、カウンターの簡易テーブルの上にいくつかの布張りの木箱があり、その中に指輪やネックレス、ピアス等のアクセサリーが並べて置かれていた。
銀色の金属のアクセサリーが並んでいる箱と、さらに宝石がついている箱に分けられている。……ふむふむ、宝石無しは一律銀貨1枚、宝石ありは銀貨5枚か。
「品を見せてもらうか。どれどれ……愛しの我が妻に合うものはあるかな?」
「なんかこう、夫婦らしいものがいいわねっ」
ロクファが商品を見始めると、男店主がこちらの様子を窺ってくる。
「旦那様。奥様へのプレゼントですか」
「ああ。何かオススメはあるかね?」
「そうですね、どれもオススメですが……他の奥様は何人おられますか?」
おおっと。そういえば聖王国は多夫多妻制だったな。
「今のところ他の妻は居ないな」
「そうですか。ではこちらでしょうか。……おっと、いずれ他の奥様ができたときに備えて、いくつか買っておいても良いと思いますよ」
「そういうものか?」
「ええ、そういうものです。女性は気にしないと言っても差を気にしてますから、あらかじめ買っておくと苦労が無いですよ。こちらなんてどうでしょう。魔石も良い色でしょう?」
魔石。どうやら宝石は魔石だったらしい。ということは魔道具なのだろうか?
「これは何か効果があるのか?」
「あー、失礼しました! 旦那様は旅行者でしたか。いや、服がお似合いでてっきり聖王国の方かと!」
今の会話で旅行者と確定されるような発言があったのか?
「……なぜ旅行者だと?」
「あはは、魔石付きで効果のないアクセサリーなどありませんから。ああ、魔石の交換はどこの町でもできますよ」
「なるほど。……何か効果が、ではなく何の効果が、と聞くべきだったか?」
「それに2人夫婦というのも珍しいですからねぇ、旅行者以外では。あ、この国では庶民でも4人以上の夫婦が多いのです」
そういうもんなのか。多夫多妻制だとは知ってたけど、それほどに多いのか。
「外国の方はたった2人でよく子供の面倒みれるものだな、と感心したものですよ。旅行者の方に言うと驚かれるんですが、ウチの村なんか、大人は全員夫婦ですし。ああ、もちろん特に仲の良い組み合わせとかは居ますけれど」
「そ、そうなのか。想像以上の規模だったな……」
そんな世間話をしつつ、その後俺はロクコの欲しがったアクセサリーを購入した。
……赤い火属性魔石付きのイヤリングで、投げつければ爆発する攻撃用魔道具でもあるらしい。使い捨てではあるが、いざというときに使いやすいのが人気だとか。
(今月25日、だんぼる15巻発売!
あ、そういえば先週言い忘れてましたがWebのコミカライズ版も更新してました。
活動報告にもリンク貼ってあります。どうぞ)