とりあえず。
ハクさんと情報交換をした。改めてナリキン達には調査の指示を出しておこう。
『というわけで、引き続いて魔法薬の出処について調べて欲しい。進捗はどうだ?』
「はい、マスター。薬なのですが、どうやらクロマクの町から輸送されています」
『クロマク……ねぇ、ふぅん』
以前にも聞いた町の名前だが、ナリキンの情報収集によるとこのクロマクとは『大きな黒布』とか『暗幕』、『陰で支えて活躍する者』という意味があるらしい。
……普通に、黒幕だよね?
いや、本当に『黒幕』ならこんなあからさまな名前は付けないと思うんだけど……
『トイ、クロマクの町についてレオナの関与とかはあるか?』
「さて。私はダイードで仕事をしていましたので分かりかねます……しかし、混沌製薬の魔法薬ともなればレオナ様が作っている可能性はあります」
『ダンジョンで生産されている可能性が高そうではあるけど、レオナ本人と会うのはまずいよなぁ……』
「そうですね、まだ勝てる見込みがありませんし」
あとトイを騙してるのがバレかねないし。
そんな風に考えていると、ナーナが「ああでも、」と口を開く
「旦那様の集めた情報によれば、供給期間が長く薄く、安定しているようです。レオナ様が作っているとしたならこれほどまでに安定して供給するということは考えにくいので、やはりケーマ様の推測通りダンジョンが関わっているのではないでしょうか?」
『言われてみればそうだな』
旅をしているし、気まぐれだし。安定供給するというのも考えにくい。
わざわざレオナが作った薬をカタログに登録している点も考慮すると、あくまでレオナの薬を買うダンジョンコアがこの聖王国にいると考えたほうが自然である。
……でもまぁ、それがレオナの張ったブラフという可能性もないわけではないが……その時はその時でいいか。
『ではナリキン。今後はクロマクに移動して情報を収集してくれ』
「かしこまりました」
それと、念のためトイについて釘を刺しておこう。
『ナリキン。そういえばなんだが、トイに大事なものを持たせたりするなよ? トイも、お前の身体はこっちの管理下にある事を忘れないように。ハクさんの部下も見張ってるからな』
「はっ、かしこまりました」
「おやおや、ケーマ様には信用されていませんか。……安心しました。旦那様方があまりにも無防備過ぎて、気にしてるのは私だけかと思っていたくらいです」
やれやれと肩をすくめるナーナ。
『……ナリキン。ロクファ。トイは一応仲間ではあるが、半分敵みたいなもんだ。警戒しとけよ?』
「はっ!」
「了解しました、マスター」
頭を下げて返事する2人の配下をしっかりと確認してから、俺は憑依を解いた。
「……あっ、起きたケーマ?」
そしていつものマスタールームのオフトンで目を覚ますと、ロクコがそっと添い寝していた。……むぎゅっと俺に抱き着いてきている。
「……おい、ロクコ?」
「何かしら?」
「昨日ハクさんも来て、牽制してったじゃないか?」
「昨日来たから、しばらくは来ないでしょ。そんなことより相談があるんだけど」
どうやら俺から離れる気はないらしい。こういうロクコは強情なところがあるのでそのまま相談とやらを聞くことにする。
「ハク姉さまからカタログの登録について聞いたじゃない? なにかこう、上手い事使えないかと思って」
「何か活用法でも思いついたのか?」
「いやー、それが全然なのよね。何か量産しようにも、私達がここで手に入れられる材料って基本的にダンジョン産じゃない? 条件のひとつ、ダンジョン産じゃない素材、っていうのがきついのよね」
確かに、俺達の近所で使われている鉄なんかはアイアンゴーレムから作ったもの。つまりダンジョン産だ。
「そう言われると、逆にダンジョン産じゃない素材のほうが貴重だな」
「そうなると使えるのはせいぜい木とか皮とか土じゃない。マッサージチェアはいけるかもだけど」
「確かにあれは作れなくはないな」
マッサージチェアは木と革、それとDPで出したオフトンを組み合わせて作っている。オフトンをダンジョン産でないもので代用すれば、作れなくもなさそうだ。
「……でも、その材料がよそのダンジョンで獲れたものでない、って保証もないのよね」
「あー。……自分たちのダンジョンで獲れたものじゃなかったらセーフ、とかは」
「ならイッテツ達に手伝ってもらえば解決だけど、父様がそういう裁定するかしら?」
「うん、ダメだろうなぁ」
そう考えると材料を慎重に選ばないといけない。
できれば自分で素材を採取したりする必要もあるだろう。
「ま、でもマッサージチェアはハクさんに『ウチのカタログにだけ載ってる』って言って売った代物だから駄目だけどね。今からカタログに載ったらウソがばれる」
「む、そうだったわね。……ほんと、ままならないわねー」
そう言いつつ、ロクコはむぎゅむぎゅと俺を抱き枕にしてくる。
「……相談ってそれだけ?」
「んー、もうちょっと」
そう言ってロクコはぐりぐりと身体をすりつけてくる。まるでニクのようだ。
「よし、じゃあ私は仕事に戻るわ。公園作りは順調よ!」
「お、おう」
しばらくして満足したのか、ロクコはオフトンを出て行った。
「……寝るか」
と思ってフトンをかぶったが、残されたロクコのぬくもりと匂いを何となく意識してしまい眠るのにすこし時間がかかった。
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