カタログの載せ方
>ちょい複製のバラムツなら脂消失するから美味しくいただけるやん!?
(……天才か!? あ、でもそのためには1度ソトにバラムツを大量に食べてもらう必要が……?)
「カタログに自分の作ったものを載せる方法ですが、お父様にお願いすれば登録してもらえます。複製する場合も含めて載せてもらえますよ」
「なるほど……複製も頼めるんですか」
「ええ、その分利益は減りますが、お父様に作れないモノというのはほぼありませんし」
「さすが父様ですね、お姉様!」
「おじい様すっごーい!」
「そうね、ロクコちゃん、ソトちゃん」
というわけで、俺は夕食をハクさん・ロクコ・ソトと共にスイートルームで食事しつつその話を聞いていた。メニューはもちろんAランクディナー『欲張りセット』。金貨5枚で原価激安なのでこの一食でナリキン達のボーナス分が回収できたな。
しかし、レオナに盗聴されても困らない内容なんだからメールで返事してくれればよかったのだけど。普通に訪問してきたのはきっとロクコに会いたかったからだろう、間違いない。
「なので、レオナの作った魔法薬もDPで取り扱えるのですが……それにはダンジョンが必要です。確かにダンジョンを破壊する方針の聖王国でそれほど出回っているというのは、レオナの拠点がそこにあるか、あるいは隠されたダンジョンがある。このどちらかでしょう」
「一応、薬の出どころは部下に調べさせています。ダンジョンの調査についてはハクさんにお任せして手が空いてたので」
「手際が良くて大変よろしい。さすがケーマさんですね」
ニクがおかわりのメロンクリームソーダをそっと置くと、ハクさんは自然体でそれを手に取りストローを口にした。料金追加っと。
「相変わらず美味しいですね、クリームソーダもDPで購入できるようにすれば手っ取り早いのですが」
「……そういえば、俺のメニューとハクさんのメニューだと値段や内容がちがいますよね?」
「ええ。ケーマさんは異世界人。故に異世界の品が手に入るわけです」
「それらの品を登録、ってのはできるんですか?」
「できません。あくまでロクコちゃんやケーマさんが自作したもの、に限ります。ですからメロンソーダを登録するには、DPに頼らず材料を集め、調理したものを……10個ほどお父様に献上し、登録を乞う。そんな手順が必要でしょう」
ちなみに(この世界においての)開発者であることというのも重要らしい。お店で売ってる商品を10個買って登録すればDPで増やし放題、というわけにもいかないようだ。
そのあたりの審査は『父』、つまり闇神様の判断だ。
でも色々と地味に大変だけど……登録する際に渡すのは10個でいいのだろうか?
あ、これはあれかな。サンプルみたいな。
「登録には2通り。ひとつは登録者が自分で補充する方式です。この場合は数量限定販売となりますが、DPの価格は登録者が決められますし、売れた場合は8割のDPが登録者のものになります。もうひとつは、お父様に複製していただく方式です。この場合は、値段はお父様が決め、売れた際に登録者が得られるDPは価格の1割です。売り切れるということもありません」
なるほど。通販で言うところの流通・カタログ掲載の手数料として売り上げの2割をお父様に渡して好きに売るか、設計図をお父様に売って売り上げの1割を貰うか、って感じだな。ふーむ、便利そう。
「実際、あまり登録する者はいませんけどね」
「そうなんですか?」
「カタログに載っていないようなものを作れるなら、ダンジョン固有の餌にして冒険者を呼び寄せDPにしますよ。それこそ私の『ダンジョン学入門』のように特別に広めたいか、レオナのように特殊な事情があるとかでなければ利用しません」
仲間内でDPや物品を融通するなら集会なりで直接会った時に渡せば事足りるし、そもそも『父』にお願いするのもハードルがある。GPを使ったり、集会で直接話しかけに行く必要があるわけだ。
そんで結局買い手もダンジョンコアに限られる。それほど魅力的な市場ではないわけだ。
元々カタログが充実してるわけだし、
「それで、メロンクリームソーダを登録する気はあるかしら? なんなら材料を手配してもいいですよ。何が必要です? チェリー? メロン?」
「……クリームソーダをDPで購入できるようにしてしまうと、ここに来る口実が減りますよ?」
「おっと、そうですね。やめておきましょう」
と、ここで改めておかわりするハクさん。はい料金追加。うーん、お大尽。
「そういえば、姉様のカタログにはどんなのが載ってるのかしら?」
「私もロクコちゃんも人間型コアだから、基本は大きくは変わらないでしょう。むしろケーマさんの分だけロクコちゃんの方が充実してるんじゃないかしら? 私のカタログにはトランプなんてありませんでしたし」
そういえばハクさんのマスターはリオン・ラヴェリオ。ラヴェリオ帝国の初代皇帝となったこの世界の人間だっけ。こちらの世界の人間と人間型ダンジョンコア。カタログの追加分は少なかっただろう。
「ああ。そうだ。ドルチェ。あなたの報告は?」
「はっ、では念話失礼します」
うぉっと! 何もない所からするりとドルチェさんが現れた。マップに突然現れたのだけど、ハクさんが召喚したんだろうか。レイスだからってそういう出現の仕方はやめて欲しい、心臓に悪い。
そして無言の念話で、俺たちの目の前で一体何を報告しているのか分からないのがさらに心臓に悪い。……メールでも報告できない類の、レオナに聞かせる可能性を許さない報告ってなんだろうか。知ったら消される系かもしれないから聞かないけど。
「……」
「ふむ。そう」
「……」
「ええ、それでいいわ。やはりドルチェは適任ね……そろそろ一度帝都の方に顔を出してもらいたいから、ソトちゃんに送ってもらいなさい」
「はっ、かしこまりました」
あ、うん。ちなみに今回ハクさんが来るにあたってもソトの【収納】ダンジョンに入った上で、ロクコのダンジョン機能でソトごとこちらへ転移させ、改めてソトの【収納】から出るという形でお手軽1泊旅行となっている。
あくまで先の発言は以前から知られていたロクコのダンジョン機能による転移の話であり、ソトの【収納】チート便の話ではない。……一応、俺かロクコの【収納】を使えばできる話だったんだけど、ソトを紹介してからこの一泊旅行は結構頻繁に行われるようになっていたりもする。
ラヴェリオ帝国始祖であるハクさんが使用するにはただの【収納】では格が低い、入口がしっかりした扉とかにできるソトの【収納】ダンジョンでないと……みたいな話なんだろうか? あるいは、ソトが生まれたのをきっかけにハクさんが直接監視したくなったのかもしれない……
「ソトちゃん、ロクコちゃん。お願いできるかしら?」
「はい! おひとりさま靴下かタイツ1人分で承ります!」
「私も良いですよ」
「ええ、ありがとう。……でもなんで靴下なのかしら? まぁ、子供の遊びに付き合うのも大人の役目というものよね」
うん、ソトも趣味が充実しているようで何よりである。でも、我が娘ながらハクさんから輸送費に靴下徴収するのは冷や汗だよ。程々にね。
(コミカライズ5巻、本日発売!! あ、もう店頭に並んでます。
それと来月に書籍版15巻が出ます! 書き下ろし率はいつも通りな8割超えです! いつもの!
あとコミカライズの帯見たらシリーズ累計40万部いってたらしいので、だんぼるとは関係ない新作短編(全6話)を書きました。魔王軍幹部に潜む裏切り者を見つける話です。
https://ncode.syosetu.com/n7683gx/ )