ナリキンの報告
休暇とボーナスを与えておいたナリキン達は、ボーナスを軍資金に休暇返上で情報収集をしていた。俺はその報告を連絡用小鳥トランに憑依して鳥籠の中から聞いていた。
『……仕事熱心だなー』
「お褒めに与り恐悦至極」
【念話】スキルが使えるようになったため、俺がトランに『憑依』した状態で十分報告ができるようになっている。【念話】超便利。
しっかし、レイもそうだが、なぜ俺の部下はこんなにも仕事熱心なんだろうか。主である俺はこんなにもぐーたらして寝ていたい人だというのに。
「というわけで賭場で情報収集に勤しんだところ、様々な情報が手に入りましてな。ここらの噂話については大抵集まったかと。集めた情報についてはその書面の通りです」
『ふむふむ。よくもまぁこれだけ雑多な情報を集められたもんだ』
「ロクファとナーナのおかげです。自分は金をばら撒いていただけですからな」
「いえいえ、ナリキンとナーナのおかげです。私はルーレットの出目を予測していただけですから」
「……では私の手柄ということでどうでしょうか、ケーマ様。お二方をそそのかしたのは私ですので」
『ああうん、3人ともお疲れ』
とりあえず情報の書類については【収納】経由でソトに頼んで持ってきてもらおう。
と、後で精査しようと思ったがその前に一つだけ気になる情報が書いてあった。
『……とある女冒険者が、より力を得るために魔法薬で男に性転換した。が、男の恋人ができたので女に戻って子供を産み、その後また男に戻った……?』
なんとも性別を反復横跳びした話である。
「ええ。ダンジョンを踏破したこともある有名なAランク冒険者らしいですな」
『これって、もしかして混沌製薬の魔法薬じゃないのか?』
混沌製薬の魔法薬。それは混沌神レオナの生み出す魔法薬。
俺達の居るラヴェリオ帝国では、性別を入れ替えたり、姿を大きく変えたりする薬は規制されている。理由としては、主に犯罪目的に使われることが多いためだ。
一応、許可があれば使用することはできるらしい、詳しくは知らん。
「混沌製薬……かどうかは分かりませんが、聖王国ではこの手の薬を一切規制していないという話はありましたね。ああ、こちらです」
『ワンナイト性転祭り。一晩限りの狂騒と享楽をあなたへ……参加費銀貨20枚。(※魔法薬は一晩効果のものをご用意しています)――ほー、色街のイベント情報まで収集するとは恐れ入ったよ。やるじゃないか』
「はっ! ありがとう存じます。……ちなみにこちらのイベントですが、初回は翌朝に阿鼻叫喚の嵐だったそうですぞ。はっはっは」
今は対策されているんだとかなんとか。
……まぁ、そんなイベントが気軽に開かれてしまうくらいには規制されていないし、結構な頻度で手に入るようだ。
もっとも、効果が永続な物とかは金貨数千枚クラスのお値段が付くが。
『……ダンジョンから出土とかするのかな、コレ』
「さて、もしそうであれば聖王国なら禁忌の薬とされそうなものですな」
『ってなると、人の手で作ってる? いや、そもそもDPカタログで入手できるのかを調べる方が先か。ちょっとまってろ調べてくる』
「はっ、お待ちしております」
片膝をついて見送るナリキンとロクファを置いて、一旦『欲望の洞窟』の本体に戻る。
早速DPカタログに混沌製薬の魔法薬が載っているかを調べてみた。
「……うわっ、載ってるし」
カタログには混沌製薬の魔法薬がばっちり載っていた。
効果永続のもので1000万DP、限定品とか書かれている。……限定品? これレオナが納品でもしてるのか?
効果1年くらいのものであれば10万DP程度。……こちらには限定品とか書かれていない。何の違いがあるんだろうか。
値段については前にワタル達と帝都に行ったときに見つけたコーキーにある魔法薬店、そこで聞いた仕入れ値の金貨1枚=1万DPと換算したらぴったりだな。
「……ん? 待てよ? そもそもどうやって自分の作ったものをカタログに載せたんだ? まさか勝手にカタログに採用されたなんてことはないだろうし――いやその可能性もあるけど……」
あ。そういえばハクさんの作った『ダンジョン学入門』の本が載っていた事例もある。もしかしてDPカタログには自分が作ったものを売る機能もついているんだろうか?
これについてはあとでハクさんにメールして聞いてみるのがよさそうだな。
さて、こうなると、レオナが作って聖王国にバラ撒いているというより、聖王国にあるダンジョンで魔法薬を生み出している可能性が出てきた――
と、すっかりナリキンを待たせてしまった。俺は再び聖王国の小鳥に憑依する。
『待たせたな』
「はっ」
俺を見送った時の片膝をついた姿勢のままのナリキンとロクファ。
『……まさかずっとその姿勢で待ってたのか? 楽にしてくれてて良かったんだぞ、そこのメイドみたいに』
と、椅子に座ってお茶を飲んでるナーナを見る。
ティーカップを持ち上げ、「どうですか一杯」とにこりと笑う余裕さえある。何様だこのメイド。まぁいいけどね。
「自分は元々リビングアーマーなので、動かない方が楽なのです」
『そうか? ならいいけど……って、ロクファは違うだろう』
「ええと、天使もこの姿勢で動かない方が楽なのですよ」
『さすがにそれは無理が無いか?』
とりあえずは俺がいないときは休んでも良いことを伝えておく。そして、
『次に調べてもらうのは、この性転換の魔法薬の出処だな。物が物だけに、追加の資金も送っておこう』
「はっ! かしこまりました」
『しかし、ちゃんと休むときは休めよ? 折角休暇を与えたのに仕事してたらオフトン教の名が廃るってなもんだ』
「ええ、休暇なので賭場に遊びに行きました。中々に有意義でしたぞ」
「ついでに情報が勝手に集まっただけなのです、マスター」
ちらりとその言い訳を仕込んだであろうメイドを見る。
「……私が言わなかったら、本当に仕事しかしませんよこの2人」
『お、おう。なんていうか苦労を掛けてるな……?』
「まったくです。しかしこれもレオナ様打倒のためですから、甘んじて受け入れましょうとも」
【収納】からブドウを取り出し、一粒ぱくりと食べるナーナ。
開き直り、むしろ自分はよくやったと言い切るあたりさすがである。
『では引き続き調査を頼むぞ。あと、休暇はちゃんと休むように!』
「……かしこまりました」
少し間をおいての返事に、「あ、これまた何か抜け穴を探して働く気だな」と思ったけど、そこまで行くならもはや止めまい。……でも体には気を付けてよね。
(来週は書籍化作業のためオヤスミです。そして再来週はコミカライズ版の5巻が発売ですよ!)