魔剣ケーマ
「……ご主人様ですか?」
『ああ。ちょっと魔剣になってみた』
まさか最強の剣が勇者自身のことだったとは……!
というわけで、剣に変身した俺をニクに持ってもらってみた。
『念話のスクロール』で覚えた【念話】で、剣に変身しても意思疎通ができる寸法だ。
……好きなスキルスクロールをDPで入手し放題のダンジョンマスターって、こういうところ反則的だよなぁ。なんかこう、DPを加速度的に増やす方法でもあればいいんだが。
『どうだろう、使えると思うか?』
「……どうでしょう?」
いつもの無表情で首をかしげるニクだが、そのしっぽは楽しみといった感じでふりふりと揺れていた。
そんなわけで、試し斬りをすべくダンジョンの闘技場エリアまでやってきた。
試し斬りの巻き藁代わりに何体かアイアンゴーレムを用意して。
「ご主人様、ちょっと素振りをするので、的に魔法で攻撃してもらってもいいでしょうか?」
『おう、いいぞ――』
と、返事した直後、ぐるんと視界が動く。
視界に収めていた的がどこかへと飛んでいく。
『――うぉおおお!? ストップ、ストーーーップ!!』
「はい」
『だめだこれ!』
狙おうにも狙えない。だって剣だもの。どうやって見てるかは分からないけど、身体が動けば視界が動くのは当然であるんだもの!
『合図で、俺にとって一定の方向に攻撃するってのはどうだろう』
「では、合図は魔力を流してみますか?」
『おっ、いいな! 魔剣らしい! ちょっと流してみてくれ』
「はい」
と、ニクが俺の柄を握って切先をゴーレムに向ける。
……そして、魔力を流し――
『あははははは!! ちょ、まって、くすぐった、くす、あはははは!!』
「す、すみません」
『さすがに集中できないくすぐったさだ……ふう』
「すみません。どう流すのが良いんでしょうか?」
『……合図用の魔道具に流して、それを俺が見て打つとかのがいいかもしれないけど、まぁそれは今度だな。合図を変えよう、握る力を変えるとかどうだ?』
「弱めたらすっぽ抜けますし、強く握ってもその身体で分かりますか?」
『あー、スイッチ作るか。どこなら握ったまま押せる?』
「では、このあたりで」
親指のあたりだな。よし分かった。
俺は【クリエイトゴーレム】を使ってオリハルコンでできた体を操作する。
自分で自分に魔力を流す分にはくすぐったくないな、自分でわき腹をくすぐるようなもんかもしれない。……って、全部オリハルコンだと固すぎてスイッチが動かないな。
【ストーンパイル】を改変し、鉄の素材を作る。そいつを【クリエイトゴーレム】でスプリングにし、ボタンのパーツも作り、身体に穴をあけて組み込んだ。
『よしできた。押してみてくれ』
「はい。……いい感じです」
『こっちも良い感じだ。これなら視界をスイッチに集中すればいける!』
というわけで、剣の切先を改めてゴーレムに向けるニク。
スイッチを押されるのを検知し、ファイアボールを飛ばす。ぼむんっと的に火の玉が命中した。
「では、次はより実践に近い形で」
『おう、いいぞ! ゴーレム達、かかってこい!』
俺の宣言(念話だけど)でかかってくるゴーレム。俺は目をつぶる感覚でスイッチに集中した。
……
……
……
……
あ、切ったかな? オリハルコンだと切れ味が良すぎて良く分からねぇや。
……
……
お、押されたな。ファイアボール!
……
……
……
お、押されたな。ファイアボール!
……
お、押されたな。ファイアボール!
……
……
……
……
……
……
………………これめっちゃ暇じゃね?
いや、スイッチ以外を見てたら視界がぐわんぐわんして何が何だか分からなくなるからスイッチを見てるしかないんだけどさ。
スイッチが押し込まれるのを今か今かと待ちわびて、押されたらファイアボール撃つだけである。うーん。暇だ。
「ご主人様」
『ん、どうしたニク?』
「終わりました」
終わったか。……視ると、バラバラに解体されたアイアンゴーレム達が転がっていた。
『どうだった?』
「……タイミングが合わないですね」
押されたのと同時か、あるいは押されてから完全に一定のタイミングで撃たないと戦闘中に振るう剣と合わないらしい。音の無い音ゲー並みにシビアだ。
『そうなると、撃つときは止めてもらう必要があると』
「それだと、ご主人様が剣である必要ってありますか? 聖印や兜、鎧の方がいいのでは?」
『…………確かにそうだな』
なんとなく元々剣だったからってのとアイディとかのイメージで剣になってたけど、オリハルコンの強度と軽さを生かすなら防具の方が強い。あまり視界も動かないだろうし。
「それならご主人様の判断で魔法も使い分けられますし」
『ちょっと待って、形を変える』
【クリエイトゴーレム】でうねうねと形を変えて胸当てに変身する。体に固定するベルトは……腕時計のバンドみたく組み合わせればいいか。長さの微調整も【クリエイトゴーレム】で思いのままだ。
『【ストーンパイル】!』
胸当ての正面から石の円錐が生える。
防具から突然トゲが飛び出し攻撃する、というのも敵をびっくりさせるには良いだろう。
「……随分尖ったおっぱいですね?」
『そういう意図ならもっと短いのを2個生やしてたわ』
「そうでしたか」
オリハルコンの表面からポロリと石の円錐がとれた。
「……ところで思ったんですが」
『ん? なんだ、アイディアがあるなら言ってくれ』
「ええと、ぐねぐね動くご主人様を見てて思ったのですが……普通の? オリハルコンゴーレムではだめなのですか? 自分で動けますし」
『…………確かにそうだな』
というわけで、オリハルコンの剣の体積でつくれるゴーレム――だと、6分の1フィギュアの如く小さかったので、先程のアイアンゴーレムを取り込んで水増し。
見た目は完全にオリハルコンゴーレムになった。……うん、動けるね。
『どうだ?』
「強そうです」
『まぁオリハルコンだからな』
試しに闘技場の中を走り回ったり、ジャンプしてみたり。
……うん、生身の元の身体よりずいぶんと力強いし疲れないし速いし。
ふと思いついて手を剣にしてみたり。
……さすがに変形前にパシンと手を叩いたりはしなかったぞ。
(オリハルコンの錬金術師)