ダンジョン跡地の調査を終えて
(「調査」と書いて「デート」と読む)
元ダンジョンの観光を終えてナーナとも合流したところで俺は憑依を解いて『欲望の洞窟』マスタールームに戻ってきた。
オフトンに寝ていたので起きると、横では12階分の階段を上るのが嫌でさっさと帰ってきたロクコが添い寝していた。
「あ、おかえりケーマ」
「……ただいま。何してるの」
しかも先程のロクファのように俺の腕を抱きしめてるロクコ。
「その、あ、当たってるから離れて」
「さっきはそんな事言わなかったじゃないの」
「さっきのはナリキンとロクファだから……その、ロクコ本人にやられると色々困るというか、照れるというか」
ふぅん、と俺の顔をのぞき込むロクコ。ニコッと笑う。
「まぁいいわ。嫌だから離れてって言うわけじゃないみたいだから」
「嫌だからって理由だったら離れないつもりなのか?」
「その時も離れるだろうけど、私が不機嫌になったでしょうね」
つまり今はどうしてか上機嫌らしい。本当にどうしてか分からないが。
「ねー、あ・な・た?」
「……それはロクファの時だけにして欲しいかなぁ、一応」
「子供もできたのにいまさら何言ってるのよ? うりうり」
腕に身体を擦り付けてからかってくるロクコ。なんか猫っぽく感じたので、顎下をくすぐってやる。「ふにゃぁぁ」とまさに猫のような声を出してロクコの力が抜ける。
「ぁうふ……な、なによぅ、やるじゃないの」
「ふっ、俺もやられっぱなしではないのだよロクコ」
ロクコを引っぺがして布団から出る。ぐぐっと伸びをすると、結構身体が凝っていたのに気づいた。
「けど、疲れたけど疲れてないってのは中々に不思議な感覚だよなぁ」
しみじみとそう思う。先程までナリキンに憑依しててそれなりに疲れたというのに、この身体に戻ったらまぁ寝てたわけだから体力は万全だ。ストレッチしないと凝ってたけど。精神的には疲労が溜まっているからすぐに寝るけど。
「これ、運動不足になりそうだな……」
「いっそ憑依してる間だけケーマの身体をエレカに任せて、代わりに運動させるというのもアリなんじゃないかしら? ねぇ」
「はい? 私にですか?」
急に話を振られて、ダンジョン管理にいそしむ妖精エレカが首を傾げる。
「いつもマスタールームにいるんだから適任じゃないの」
「ん。確かに?」
寝ている間に筋トレを代わりにやってもらう……それは確かにできるのなら便利だけど、ダンジョンマスターの俺の身体を渡すってのはいくら配下のモンスターでも怖いな。
というか、
「……体動かすだけならゴーレムアシストでも十分じゃないか?」
「あ、それもそうね」
運動不足対策ならそれでも多少は効果が見込める、かもしれない。なんなら電気をいい具合に流して筋肉ピクピクさせるアレでも開発してしまおうかな、といったところか。
……デンキナマズのようなモンスターとかな? 銅線と磁石とかゴーレムにして発電機作って良いかもしれないけど。
しかしあれだ。
「一応魔力視でも見てみたが、まったく普通の穴だったな」
「うん、私の勘でもあそこはダンジョンじゃないわね。偽装でもないと思うわ」
一応、リビングアーマーであるナリキンには魔力視のスキルがある。意識して視界を切り替えて見ると、ネガポジに色反転した世界で揺らめく魔力を視ることができるのだ。
さすがに常に発動してると頭がくらくらしてくるのだが、ちょいちょい確認はしておいた。ダンジョンは魔力の流れが川のように流れつつも領域から出て行かず循環するから分かり易い。
そして、あの跡地にはその特徴的な流れは見ることができなかった。
「それじゃ明日は魔力視つかいつつ町を散策して怪しい所を探しましょ」
「ま、そうなるか。ダンジョン跡地については念のため虫でも送り込んで調べとくとして、まずは果樹園行ってみるのがよさそうだな」
そう、結局のところ色々と季節とかがおかしい果物があったので、穀物やら果物やらの食べ物方面が怪しいのは間違いないのである。
「パパ、それならあっちのモンスターに私がDP届けてこよっか!」
「うをっ!?」
急に俺のそばにしゅるんと【収納】が開いて、ソトが顔を出した。
「おいソト、ビックリするから急に出てくるんじゃない……っていうか話聞いてたのか」
「? 私のダンジョンはパパの【収納】なんだからそりゃいつでも傍にいるし聞こえますよね?」
「え、俺の話し声とか筒抜けなの?」
俺のプライベートはどこへ行った?
「……最低限、トイレや風呂は覗かないようにしてくれよ」
「はーい」
元気に手を挙げて答える娘。
「あら、ソトがナリキン達にDP届けてくれるっていうならあっちでもDP無理に節約する必要が無くなっていいわね?」
「ん、まぁそれはあるな」
「じゃあソトにDPの受け渡しについて教えなきゃね!」
「わーい!」
むふー、と得意げに鼻息を鳴らすロクコ。……まて。
「それじゃあソト、口を軽く開けて舌を――」
「待てロクコ。DPの受け渡しは別にキスじゃなくていいんだろ、最初から握手とかで渡す方法を練習させた方が良いんじゃないか?」
「え、でも私は姉様から順序だてて教えてもらったし。段階を踏んで覚えた方が良いでしょ?」
今更だけど、それはハクさんがロクコとイチャイチャしたいがために言ったことだと思うんだよなぁ。ロクコにネタ晴らししたらハクさんから刺されかねないけど。
「……確か、漏れ出るDPが勿体ないからなるべく繋がり易い口同士で、って話だったっけか。……それなら、俺の【収納】の中でやればいいんじゃないか? 漏れ出てもソトのダンジョン内だろ」
「あ、それもいいわね」
でもこの理論でいけるんならあのときのハクさんもDP受け渡しをダンジョン前広場じゃなくて『欲望の洞窟』(当時:『ただの洞窟』)ダンジョン内で行えばよかったという話になるけれども。
まぁそこはスルーしておこう。気付かなかったフリ。実際ダンジョン前広場もダンジョン領域だったわけだし、深く考えないでいいよね。
「じゃあケーマ。私をケーマの中に入れて?」
「言い方。……ソト、入れてやって」
「はーい!」
と、ソトが改めて開いた【収納】に、ロクコはソトと手を繋いで入っていった。
ふと、これあっちにつながるんならロクコを直接連れて行って渡してしまうのも手だなと思ったが、それはそれ。
なんにせよナリキン達のDPを補充できるようにはなりそうだ。
さーて、そうなるととれる戦略も増える。どういう手段を使おうかな?
(コミカライズが更新されました!
このまま下にスクロールしたところか活動報告に一応リンクあるのでどうぞどうぞ。
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