サンシターの町
ナリキン達に憑依する。
「ここが、サンシターの町か」
「姉様は穀物を調べろって言ってたけど、中々に壮観な麦畑ね」
そこはツィーアの北側同様に穀倉地といった趣の町だった。
ただ、ツィーアの広大な平原とは違い凸凹した小さな丘が多く、段々畑がそこかしこにある形。
……畑面積の計算が面倒そうなのはまさか諜報対策だったりするのだろうか。
ロクファが「おおー」と眉に手を添えてひさしを作り、麦畑を眺める。楽しそうで何よりだ。
さて、ここまで来たのは良いものの、実際に何をどう調べたらいいのだろう。
どうしたものかと小首を傾げたところで、ナーナがそっと進言してくる。
「旦那様。商業ギルドへ行ってはいかがでしょう? 聖王国小麦の仕入れを検討していると言えば話は聞いてもらえるのではないでしょうか」
「……ふむ、アリだな。実際に小麦を買って調べてみるのもいいかもしれない」
町の中に入り、ロクファと腕を組みつつ人の流れに乗って商業ギルドへ向かう。ギルドの場所はなぜかナーナがちゃっかり把握していた。
商業ギルドはやはりギリシャっぽい白い四角い建物。他の建物の2倍か3倍はでかい。
中に入れば、そこにはちょっと趣味が悪いんじゃないかと思う金色の壷やらマッチョの石膏像、大理石の交渉テーブル等々があった。……目がいたくなりそうだ、観葉植物の緑を眺めて目を休めよう。
「……相当儲けてるのねぇ」
「まぁ、商業ギルドなんだから儲けててくれないと困るだろ」
利用する商人的にも所属組織である商業ギルドにはしっかり儲けが出てる方が良い。いざと言うとき助けてくれる余裕のない所を拠り所にはしたくないもん。
で、受付カウンターに向かう俺――なんてことはしない。ナーナを使いに走らせる。
小さいことだが、こういうところでわざわざ交渉主である俺が受付に向かっては舐められるんだそうな。
その後、ギルドから役職つきの職員が俺に挨拶してきた。
「ようこそサンシター商業ギルドへ。係長のセンタクと申します。なんでも、我が町の小麦を仕入れたいとのことですが?」
「うむ」
できるだけ尊大な態度で応じる俺。
席を勧められ大理石テーブルを挟んで向かい合いソファーに座る。ナーナは後ろに立って控え、ロクファは隣だ。
ついでにトランとシーバはナーナの持つ鳥かごの中だ。
「話はさておき最大でどのくらい出せる?」
「最大ですか。ふむ……初回取引ですし、100袋ですかね。お値段は、1金貨で」
「ハッ。最初に吹っ掛けるのがこの国の作法か? 1金貨なら200袋が相場だと聞いたぞ」
「これはこれは、失礼いたしました旦那様」
と、ここまでが商人的には挨拶だ。聖王国貴族の場合はこの言い値を値切ることはせず購入するらしい。金を無駄遣いし、経済や文化に還元することこそが美徳なのだとか。
「旦那様はラヴェリオ帝国のお貴族様とお聞きしておりますが、聖王国へは商売で?」
「なに、妻との新婚旅行のついででな。安い小麦があると聞いて調べておこうと思ったのだよ」
と、ここでロクファの肩を抱き寄せる。初々しく「きゃっ」と声を上げ顔を赤くするロクファは、まさに新妻。どこからどう見ても新婚旅行である。
「無論、質も良いようであれば定期購入も検討している」
「それはそれは。……時に、新婚旅行、とは?」
「うむ。子を産み、育てるとなると気ままな旅は難しくなる。その前にせいぜい遊んでおこうというだけの話だよ。聖王国では婚姻事情が違うと聞くが」
「ええ、我が国では子供が生まれても旅ができますからな。各地に自由に子を預けることのできる保育所もございますれば。いっそお子様の事を考えるなら聖王国に移住しては?」
「ははは、今のところはその気はない。土地の縛りもあるからな。我が領地にはダンジョンもあるしな……余程魅力的なものがあれば別荘を建てるのもいいかもしれんが」
と、お互いにどうでもいいと思っている情報の交換を雑談で行い、相手を探る。
……おいロクファ、何赤くなって固まってんの。俺は相手に見えないように親指でとんとん肩を叩く。
「はっ。あ、えっと、ねぇあなた。私こんなところ詰まらないわ? 体を動かせる場所に行きたいのだけど」
「んん、すまんな。もう少し辛抱してくれ。……おいセンタク、とりあえずサンプルに2袋くれ。1銀貨でいいか?」
俺は【オサイフ】から銀貨を取り出し、大理石のテーブルにぱちっと置いた。
「ええ、承知いたしました。【収納】はお持ちで?」
「当たり前だ」
「ねーあなた。小麦ばっかりだと面白くないわ? もっと色々買いましょうよ。ね? ダンジョン攻略にも潤いは必要なのよ?」
「んん、そうだな。……なにかこの地でとれる食べ物をいくつか追加だ。いくつか珍しい物も入れてくれ。サンシターは色々なものがあると聞いた。銀貨5枚分適当に見繕え」
ロクファにおねだりされる形で更に銀貨を追加。合計7枚の銀貨を見てにこりと笑うセンタク。1枚はそっと自分の懐にしまう。
「承りました。奥様、ナリキン様。しばらくお待ちください」
「急いでね。時は有限、一歩でも深く進みたいでしょう?」
「ああ、早く頼む」
センタクは席を立ち他の職員を呼んで別室へ向かった。
……ちなみにちょいちょいロクコが挟む語録は、光神教のそれらしい。ナーナの仕込みだ。
曰く、設定としては光神教の女と誑し込まれた帝国貴族の男、という感じだとか。
しばらくして、小麦2袋、大豆1袋、トウモロコシ粉1袋、それといくつかの果物を袋にいれて持ってきた。
オレンジ、バナナ、リンゴに……え、メロン?……うーん、明らかに気候や季節が違くないか? 季節だけだったら奴隷に【収納】を覚えさせて倉庫代わりにしているという事も考えられなくもないけど。
「すごぉーい! こんなにたくさんの果物!」
「ふむ、サンシターには果樹園もあるのか」
「ええ、神の恵みです。あまり日持ちしないのもあるので、交易には向きませんが」
「……なるほど、光神様の恩恵か」
「すごいわ! やっぱりダンジョンはクソね、だって光神様こんなにすごいんだもの」
「おお、奥様は良く分かってらっしゃる! この地でしか食べられない果物もございます。ぜひ別荘の検討を」
相当雑なヨイショなのにそれでいいのか。
……ともあれ、こりゃ間違いなく何かあるな。ビニールハウスかダンジョンが。
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