情報交換
そうしてしばらくした後、ハクさんは【収納】から戻ってきた。
「昔のロクコちゃんを彷彿とさせる造りだったけど、奥に部屋があったわね。でも少なくともただの【収納】のサイズではないわ」
「……そうなんですか?」
「知らなかったの? ちゃんと調べておきなさい、ソトちゃんの命に係わる所でしょう」
「いやまぁ、人間が入ったら止まるみたいなんで。明かりも使えないし」
「……なら仕方ないかしら」
ハクさんはふぅと溜息をついた。
……ハクさんのことだから俺の命は無視して調べとけとか言うと思ったのだが。少し拍子抜けしたようなそうでもないような。
「そういえばケーマさん。混沌の犬と聖王国の調査をしているんですって?」
「え、ああ。はい」
と、ここで唐突にハクさんが話題を変えた。ドルチェさんから報告が行っていたのだろう。
「それで、何か分かりましたか? 私の方で知っている情報と交換しましょう」
「……まぁ、そうですね。多夫多妻制とか色々衝撃的な文化でしたが」
「ああ。効率は良いわよね。個人の感情の面を無視すれば……」
その点を宗教で押さえつけられるのが聖王国の強みだろう。
「あとは、聖王国に怪しいダンジョンがあるらしい、ということですかね」
「……聖王国にダンジョン、ですか。タイマーン地方でしょうか?」
「いや、サンシターですね」
タイマーン、そういうところもあるのか。
「……ふむ、そこも確かに物資の流れが不自然なところがあります。ダンジョンがあるというのであれば納得ですね」
「そこも、ということは、複数そういう箇所があると」
「タイマーン、クロマクあたりもですね。聖都ヴァルライも怪しさはあります」
聖都、というのは聖王国の首都らしい。
「聖都以外の3か所は、言われてみれば、という程度にですが生産力に違和感が。そして聖都は逆に入っていくものが多く、出るものが少なすぎるのです。首都だから消費が多いと言えばそれまでですが、首都だからこそ何かあるかという見方もできます」
なるほど、それは俺みたいな個人がちまちま集めていたら分からない情報だ。
どうやら帝国の情報網はばっちり聖王国にも入り込んでいるらしい。
「サンシターでは穀物の生産拠点を調べると良いかと思いますよ」
「穀物ですか?」
「ええ。畑の面積から想定される生産量と比べて消費・輸出量が多い。ダンジョンがあるなら、間違いなく穀物を産出しています。エール等に加工したりもしますね」
ハクさんは左目を手で押さえつつそう言った。
……余程優秀な諜報を送り込んでいるのだろうが、データがきっちり頭に入っているハクさんも凄いな。
俺はさらにハクさんと情報共有を行う。
「『正しく管理されたダンジョン』ですか。あの国は光神を信仰し、ダンジョンを忌避して勇者や聖女を使って積極的に破壊していたと記憶していますが……」
「ダンジョンがあるとないじゃ、生産力が違いますからね」
「聖王国に存在するダンジョンが殺されないために協力しているのか……それとも、聖王国のニンゲンがマスターになったか……」
ふーむ、と顎に手を当てて考えるハクさん。
「いずれにせよ、何か分かったら随時教えてください。ドルチェに話せば私まで伝わりますから」
「はい。……ところで、ハクさんの情報網で把握できてないものが、俺の調査で分かりますかね?」
「外国の事は分からないことが多いですから。ケーマさんの視点には期待していますよ、魔国の時のように」
言われてみれば魔国の文化についてはハクさんは色々勘違いしていたらしいし、俺の視点で調べるというのも大事なのだろう。
と、そんな感じで有意義に情報交換を行って――俺は無事にゴレーヌ村村長邸に戻ってくることができた。
「……生きてる! 生きてるぞ俺!!」
「やったねパパ!」
「ああ。ありがとうソト。ロクコもありがとう……すべての命に感謝を!」
「何言ってるのよケーマったら大げさねぇ」
仮にロクコに人間として手を出していたら今頃は『土の中に居る!』ってことになってただろうけどな! 埋葬的な意味で。
「そういえばソト。ハクさんがダンジョンに入ってるとき、『時間を止めたままなのに』とか言ってなかったか? もしかして、中の時間を好きに動かせる?」
「そうだよー、といっても、現実より速くするのはできなかったけど」
ほほう。
「ってことは、それなら普通に俺でも中を調べられるじゃないか。あとなんでハクさんにはそのこと言わなかったんだ?」
「え? だって、パパ……ハクおば様に情報伏せるようにしてるでしょ? 私の情報も伏せた方が良いかなって! 【ちょい複製】も黙ってたし!」
俺の事良く分かってるじゃないか。……俺の要素とやらを抜いた時にそこら辺の事情もなんやかんや伝わったのだろうか。俺に教えなかったのも、下手に知らない方が余計なことも言わないからだろう。
「まぁいいか。それならソトのダンジョンを調べさせてもらいたいところだがいいか? 俺の【収納】でもあるわけだし、どうなってるか把握しときたい」
「いいよー。あ、パパの持ち物なら部屋作って取っておくね。DPちょーだい」
しかも元の【収納】より広いらしい。……うん、ハクさんも広いって言ってたけど、普通に増築できるのか。どうなってんのホント。
「まさか他の人の【収納】につながってたりとかはしないよな?」
「え? だめなの?」
「えっ」
にっこりと笑うソト。ちょっと待て、もしそうだとしたらヤバイだろ、色々ヤバすぎるだろ。
「あはは、冗談だよー。せいぜい接続できるのはパパと魂的なつながりがあるママやダンジョンモンスター、それとマスターのニクお姉ちゃんくらいだよ!」
「そっかー、他人の【収納】にはさすがに――おいそれは十分にヤバいって話だろ」
うーん、まぁ。見知らぬ商人の【収納】を勝手に抜き取るとかが不可能で良かった……
「……って、今ニクがマスターとか言ってなかった?」
「ああ、昨日マスターになってもらいました! こういうのは早い方が良いので!」
「まじかよ……」
俺は頭を抱えた。なんという事でしょう、ニクがダンジョンマスターになりました。
ニクがマスターになったからといって、特にデメリットもないが……
……ソトのマスターに変な奴がならないって確定したってのがメリットかな。
ウチの娘は下手な奴にくれてやらん、的な意味で。
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作風を変えて悪ふざけ気味に作ってます。毎日投稿中!)
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