ちょい。
定時連絡をチョイッと数分で済ませて戻ってくると、ロクコとソトは当然まだ俺の部屋にいた。
ロクコに抱っこされて甘えているソト。
名前? うん、もうソトで良いよ。本人が気に入って手放さない気満々だし……
「あ。イチカに『ソト』が変な意味の名前じゃないか確認しとかないと」
「それなら大丈夫よ。ケーマが寝てる間に私がしておいたわ」
定時連絡中にイチカが丁度部屋に来たので確認してくれたらしい。特に変な名前ではなかったとのこと。よかった。ニクの悲劇はこりごりだ。
と、未だに開きっぱなしの【収納】が目に入る。なんか閉じないのだけど……ソトのダンジョン化した影響か?
「閉じときますか、パパ?」
「あ、うん」
ソトがすっと手を動かすと【収納】が閉じた。
検証しとかないと厄介そうな気がするぞこれ。俺の【収納】なのに俺のじゃないみたいだ。
「一応、パパにも開閉の権限は返しときますね!」
「あ、そういうのできるんだ? まぁ、元々俺の【収納】だしな――って。そういえば……ソト。俺の【収納】の中身ってどこ行ったんだ?」
ソトはにこっと笑った。
「……中身どこやった?」
「てへっ!」
てへっじゃない。
「ごちそうさまでした!」
「……うん、食事も入ってたけど」
「おいしかったです!」
「オリハルコンの剣とか爆弾とか」
「堪能しました! 刺激的なエネルギーでした……ふへへ」
「堪能しちゃったかー。そっかー」
……悪食にもほどがある!
いや、ダンジョンコアだから何でも食べられるのは当然といえば当然だけど。神の寝具シリーズが食べられなかっただけ良かったってことにしとくべきか……
オリハルコンも時間はかかるが生産体制が整っているので致命的な痛手ではない。出産費用だと思って諦めるか……
と、その時。バンッと扉が勢いよく開いた。
「ご主人様、ご出産おめでとうございます」
ニクが興奮した面持ちで――いや、無表情だけど尻尾ぱたぱたさせて――言った。
ニクはロクコに抱っこされているソトを見つけると、近づいて頭を下げた。
「ソト様、ですね。ご主人様の奴隷筆頭、ニク・クロイヌです。おみしりおきを」
「わぁ、かわいい! 靴下ちょうだい!」
「? はい」
そしてソトの言葉を理解すると、躊躇うことなくメイド服のニーソをするりと脱ぐニク。褐色の足を晒しつつ、左右一対、脱ぎたての靴下を両手に載せ、ソトに献上する。
「どうぞ、お嬢様」
「ふへへ、ありがとー……もぐもぐ」
そしてソトはニーソのつま先部分をぱくりと咥え、食べた。もぐっと。
「おい!? ぺっしなさい、ぺっ!」
「おいしー! 靴下最高! パパの中で食べた思い出の味!」
「なるほどケーマに似たのね。よく噛んで食べるのよ?」
「ご主人様の血がしっかりと受け継がれているようでなによりです」
ロクコが平然と替えのニーソを出してニクに渡す。ソトはニーソの右足分を食べきって左足分を食べ始めた。今度はフトモモ側から。
いや、俺こんなことしたことないからね!? 靴下を物理的に食べたりしないし!
「大丈夫ですパパ。私はダンジョンコアなので、靴下を食べてもお腹は壊しません」
「そういう問題じゃ……」
「食べるの認めてくれなきゃ……パパの中にあった『コレクション』のこと……ママに教えちゃおうかなー?」
「こ、こいつ……!?」
「『コレクション』? って、なによケーマ?」
「い、いや、何でもないぞ!」
ソトめ、俺を脅すというのか、生後1日目のくせに! 恐るべしダンジョンコア!
コレクションを引き合いに出されたら黙認せざるを得ないじゃないか! 畜生!
「だ、だが証拠のコレクションはもう無いからな……」
「大丈夫ですよー、食べたものは再現できます! これこのとーり!」
じゃんっ、とソトがいつの間にか今食べたニクのニーソを履いていた。汚れ具合を見るに間違いなく先程ソトが食べたニーソと断言できる。
「……食べるフリして、どこかに仕舞ってたのか?」
「ちっちっち。パパから受け継いだ勇者の力――【ちょい複製】です!」
ドヤァ、といつぞやのロクコを思い出す笑みを浮かべるソト。
……勇者の力? 『超』じゃなくて『ちょい』ってなんだ? 念のため俺の【超変身】に異常が無いか脳内を確認――あっ、Lvが4になってる感じ。吸われてた? そういうアレか。
「自分が食べたことがあるものを1時間に1度複製できます。複製品は1時間で消えます」
「それは便利だな……けどなんで食べたもの限定なんだ」
「わかりません! パパが知らないのに私が知ってるわけないでしょ」
まぁ、それもそうか。ちなみにニーソが両足揃ってることから、俺の【超変身】と違ってセットで出せるなら複数パーツに分かれていてもいいみたいだ。
「ただ一つ言えるのは――パパの『コレクション』を私は食べ放題! 勝った!」
……つまり、オリハルコンブレードやグラヴィティボムも出せる、ということ。1時間で消えるので素材にしたりは難しいけれど、代わりに『使い捨て放題』だ。
「……わかった。ソトが靴下を食べても、俺は黙認するとしよう。ただし今後は『コレクション』を盾にするのは禁止だ」
「わーい!」
ソトは両手を挙げて喜んだ。
まったく、末恐ろしいというか、先が思いやられるというか。少なくとも、間違いなく俺とロクコの娘だな。
*
「ところで、ニクは何でソトの名前を知ってたんだ? まだ教えてなかっただろ」
「イチカが教えてくれましたが」
ああ、そういう。それでニクも挨拶に来たって事か。
「しっかし、ソトのことは村人にはなんて説明するかな……俺の隠し子?」
「ニクの妹って感じになりそうねそれ」
「……わたしの、妹ですか?」
ああ、なんかニクって俺の娘扱いされてるところあるもんなぁ。黒髪繋がりで。
「……お姉ちゃん! 今度タイツ履いてね」
「タイツですか。わかりました、明日はそうしますね」
「やったぁ! 白ね、白タイツがいい! お姉ちゃん可愛くて大好き!」
そう言ってソトはニクにむぎゅっと抱き着いた。……白いのが好きって、まさか爆弾から黒狼スライムの影響を受けてたりするんだろうか。
「……まぁ、村の方はそれでいいとして……あとソトを紹介しないといけない難関が残ってるな」
「あ、ハク姉さまならもうメール送ったわよ」
「……!?」
「いや、娘ができたなんて一大事、黙ってたら後で怒られるでしょ。……ドルチェに隠し通せる? その次の子は?」
「……無理だな」
であれば、さっさと報告してしまった方がまだマシというものか。
……誠実に対応することで、少しでも被害を軽減できれば……生き残ること、それが俺の勝利条件だ。そう設定しよう。
「ちなみに、その。ハクさんからの返事は?」
「まだないわね……あ、丁度来たわ」
ひぃ! 怖い、中身を知るのが怖い!!
「……ハクさん、なんだって?」
「ふふん、ほら見なさいケーマ。お姉様も私達のことを祝福してくれてるわよ」
そのメールの文面は、確かにロクコとソトを祝福するような内容で書かれていた。
……うん、その祝福、俺は除外されてるんじゃないかな?
「顔が見たいから明日『白の砂浜』で会いましょうって」
「うう、逃げたい」
「駄目よ? ソトのパパなんでしょケーマは。ハク姉様への紹介は避けて通れない大事なところだから、しゃんとしなさいね」
「くっ……分かったよ」
ということになった。
そして、さすがの俺も、いきなり娘が出来てハクさんの呼び出し予約を受けるという急展開と命の危機に、その日は8時間しか眠れなかった。
(来月、11月25日……14巻とコミカライズ版4巻、同時発売だぞ! 忘れないでね!)





































