聖王国到着
ナリキン達が聖王国にある港へ到着した。
だいぶ距離は離れたものの、無事に聖王国へ入国できたし『憑依』も問題なくできるようだ。……ちなみに、トイはトイで日に一度くらいこっちに戻って体をほぐしたりしているらしい。地下牢だけど。
「ロクファ、聖王国だぞ」
「んむ、来たわねナリキン!」
元気溌剌なロクファ、中身はロクコだ。
聖王国の街並みだが、とりあえず港町は漆喰らしき白い壁の四角い建物――パヴェーラとほとんど変わらない感じだったが、一点だけ。神殿っぽい、縦筋の装飾が入った柱が多く見える。
そして、建物以外では人の服装や顔ぶれが大きく違っていた。
「……ギリシャか? ここは」
「何言ってるの。聖王国でしょ」
古代ギリシャを彷彿とさせる、ひだひだの、カーテンを巻き付けたかのような服装が聖王国では一般的なようで。大通りを歩く人の大半がそういう格好だった。
ちなみにナリキン達も船を降りる前に着替えたため、しっかりカーテンを体に巻き付けたような服装になっている。ナーナ(トイ)の手配で、俺達はしっかりとこの風景に紛れていた。
「いつもの服だと間違いなく目立ってたな……あー、スースーするなぁ股間が」
「普段はズボンだものね……いや、ナリキンだと鎧かしら?」
まるでスカートをはいている気分だ。あ、下着は履いてるぞ? さすがに。
そして、ナーナ(トイ)についてはパヴェーラの時と変わらないメイド服。使用人の服はそのままであるようだ。
「聖王国という国は偉い人ほど布がひらひらしてるんですよ、旦那様、奥様」
「あら。なら私たちはだいぶ偉そうな感じじゃないかしら?」
「勿論です奥様。肩の小鳥と合わせまして、かなりのふんぞり返りっぷりです」
という事らしい。
とはいえ、そんな布の多い服装も『人間』に限ったものである。
俺達と似たような恰好をしている人間の後ろにちらほら見える『獣人』ともなれば、膝上までのズボンのみ。男は上半身裸で、女は胸を隠す布を巻いている感じで、『エルフ』はまぁ男女共にそこそこ粗末な服装。『ドワーフ』は……いないな。魔国に居そうな人っぽい魔物も居ない。
そして、そんな『人間以外』は一様に奴隷の首輪を装着していた。
なるほど、これが『人間至上主義』ってやつか。
「この国では、エルフとかはまだ召使いになれていい方ですが、獣人は奴隷しかいませんからね。……『奴隷でない獣人は大通りを歩くと罪。犯罪奴隷落ち』という法律もありますよ旦那様」
「マジかよ、俺達も知らないうちに犯罪者にされたりしないか?」
「『人間』にはそこそこ優しい国ですから大丈夫かと。問題ありそうだったら言いますよ」
ナーナ(トイ)は俺達以上に自然体で俺達を先導していく。慣れているのか、物怖じしないだけなのかはわからないが、見知らぬ土地では頼もしい。
とりあえず、この国では獣人にまともな服着せてると嫌そうな目で見られたりするらしい。さらにはヒラヒラしたフリルなんてもっての外。ケダモノに人よりいい服着せてるんじゃねぇって面と向かって言われるレベルとのこと。
獣人は良くて愛玩動物、悪くて肉壁や魔物の餌。犬獣人もトカゲ獣人も関係なし。鳥人(手が羽になっているタイプの獣人)は光神の使者『天使』を侮辱している存在ということで特に扱いが酷い、と。
……相当極端に排斥されてるんだなぁ獣人って。そら死んだ目にもなるわ。
「ああ、ちなみに旦那様方は貴族の旅行者、二級市民相当の身分になっています。この身体の主は割とそういう手配を担当していたみたいで顔が利きました。準二級でなくよかったですね?」
「……二級と準二級でどう違ってくるんだ?」
「二級市民なら一級市民を訴える事ができるので、色々融通利かせやすいんですよ」
準二級は何かされても訴える事すらできないのか。平民と貴族、みたいな格差があるようなもんなんだな、なるほど。
「『人間』なら滅多に横暴されませんから大丈夫です。仮に何かされたら『あー、もういい、ダンジョン壊してぇ』と本心っぽく呟いてください。それで大体和解できます」
そんなナーナ(トイ)の冗談とも本気ともつかない発言に、俺とロクファ(ロクコ)は顔を見合わせつつ、ガイドされるがままに付いていった。
さて、ナーナ(トイ)の案内で今日泊まる宿までやってきた。部屋に案内されると、内装はパヴェーラの宿とさして変わらない部屋がそこにあった。
「で、これからどうするんだ?」
「……いや旦那様。それは旦那様が決める事でしょう? そもそもどうして聖王国に来たんですか」
……どうしてだっけ? あ、いやいや。勿論覚えてるとも。
「観光よね?」
「違う……とも言い切れないんだよなぁ。視察だけど、確固たる目的があるわけでもないし」
「であれば、露骨に怪しい存在を調べてみるのはいかがでしょう?」
露骨に怪しい存在?
「実は、ダンジョンぶっ殺国家の聖王国に、あるらしいんですよ、妙なダンジョンが」
「……ふむ? それは、攻略中とかそういう感じ――じゃなくてか?」
「はい。通常の攻略中ダンジョンと違って、『正しく管理されたダンジョン』というものだそうです」
そりゃなんとも、胡散臭い。いや、正しくとか自分から言っちゃう時点で怪しさを感じるのは俺が捻くれているからなのだろうか?
「……行けるのか? そのダンジョン」
「聞き出した情報では一般開放はされていないようです。場所は分かりませんが、見つけたら小鳥たちを連れて潜り込みましょうか。この身体なら行けるでしょう」
そうか、別にナリキンとロクファで行く必要もないんだよな。
小鳥なら死んでも復活も容易いし、ナーナが消えたら改めてトイが次の身体で出向けばいいだけ。少しの間ガイドが居なくなって面倒にはなるが、完全な痛手でもない。
「とりあえず、当面の目的は『正しく管理されたダンジョン』を探す、かな」
「ん、賛成よナリキン。二人もそれでいいわね?」
ピピッ、と2羽の小鳥も了解の返事を返した。
で、肝心のダンジョンの探し方だが――その為には、情報収集が必要で。そうなると、人の多い所に行く必要があって。つまりは観光である。
一応ハクさんを通じてナリキンとロクファは冒険者にもしてあるから、この国にもある冒険者ギルド的な場所(提携はしているので冒険者のランクが同程度に適用される)で仕事をしたりしてもいいかもしれない。……が、横道でケガをするわけにもいかないので、軽いものをこなす感じになるだろうな。やっぱり観光だな?
まぁ、折角来たんだ。のんびりと聖王国を楽しむとしよう。





































