ナリキン移動中。
「バラムツ……? ってのが美味しいけど毒らしいわよ?」
「やめとけ。そいつは腹を下す奴だ」
※バラムツ。脂ののったとっても美味しいおさかな。
ただしこの脂は煮ても焼いても人類に消化できないワックスな代物。
食事中の方のためにこれ以上は説明しない。
ナリキンにいきなり『憑依』せず、一旦小鳥に『憑依』して、周囲の状況を探る。木でできた部屋――船室のようだ。船を使って聖王国へ向かっているらしい。
ナリキンの肩の上、俺は合図として「ぴっぴっぴ、ぴっぴっぴ、ぴっぴっぴっぴっぴっぴっぴ」っと三々七拍子で鳴いた。
「お、マスターですかな? 念話します――どうでしょうか?』
『……便利だなぁ。ナリキンをリビングアーマーにしてよかった』
意思のある無生物系モンスターにもなればデフォルトで念話が使えるらしい。
だが周囲にはロクファと、トイの【憑依】したナーナしかいないように見える。鳥の喉で喋れない俺はともかく、ナリキンは普通に話していいのではないか。
「……それもそうですかな?」
「ナリキン、マスターは何と?」
『ああ、鳥自体は念話使えないからナリキンじゃないと会話できないのか……まぁいいか』
一旦ロクファに説明をする。
『まだ憑依できるようだな。予定通り、1日に1回は憑依する。1日分戻って待機してくれ。……と、言いたいところだが。船だとそのあたり難しいな』
「ああ、考えが足りませんでした」
『到着した後、連絡がなくても1日待機してくれ。何かで連絡を忘れたりタイミングが合わなくなる可能性もあるからな』
「は、了解しました」
「ナリキン、マスターは何と?」
一旦ロクファに説明をする。
……ケチらずに魔剣にでもすれば良かったかな。そうすれば一度に纏めて会話できたところだ。
「マスターのお言葉は俺が念話するから、いちいち聞くなロクファ」
「分かったわナリキ……んん? あれ、これどういう状況?」
「ロクファ?……ああ、ロクコ様か……」
突然雰囲気が変わる。なるほど、憑依する時ってこんな感じなんだなー、とロクコが憑依したロクファを見る。
青髪のロクコと言う見た目なだけあり、中身もロクコになるともうほぼ完全にロクコだ。
『おいロクコ。手順守れよ』
「あれ、ケーマこっち? ……可愛いわね!」
『おおう!? やめい!』
むんずっと鷲掴みしてくるロクファに、俺はじたばたと暴れて抗議する。なんとか右羽を拘束から抜け出させて、ぺしぺしと手をはたく。
「ぴぃぴぃ鳴いてるけどなんて言ってるか分からないわ? うふふ、かーわいーい」
「あの、マスターは手順を守るように、それと離すようにとおっしゃっていますが」
「あらそう? 胸の谷間に挟んであげようかと思ったのに。こう、おさまりが良いわよねここ」
「やめて差し上げてください」
ナリキンに取りなされて、ロクファ(ロクコ)は俺を解放する。
……ロクファはギリギリセーフかもしれないが、胸に挟むとか何という事をしようとしてくれるのか。俺は羽ばたいてナリキンの頭の上に乗った。
ロクファは代わりに自分の肩に乗っていた小鳥を胸の谷間にすぽっと収めた。
『はぁー……最近のロクコはなんかその、積極的というか……手に余るというか……』
「ああ、それなんですがケーマ様。発言よろしいですか?」
ぴょこんと小さく手を挙げるナーナ(トイ)。念話が聞こえてるのか、俺の心を読んでいるのか……まぁいいか。
『なんだ?』
「ロクコ様の言動なんですが、そういえばパヴェーラの酒場でも『最近サキュバスが出るらしい』という噂を聞きました。そのせいでは?」
『サキュバスから悪い影響を受けてるのか……』
「ええ、なにせダンジョンは概念に影響を受けますからね」
ん? と俺はナーナ(トイ)の発言に小さな首をかしげる。
『サキュバス達シスターからエロ話を聞いたりしてたんじゃないのか?』
「ああ……それもあるかもしれませんが。ダンジョンは亜神ですよ? そのダンジョンの評判なんかにも左右されるに決まってるじゃないですか。……ご存じ、ないのですか?」
『……は?』
亜神。闇神を『父』とするなら、確かに間違いなく神の子供。寿命も不明だ。
この世界の神様は……なにかこう、司るモノがあるんだっけ? で、ダンジョンコアが各々自分のダンジョンを司るとすれば……
思い起こせば、お酒やらお風呂やら食べ物へのこだわりやら、そもそも知能だってダンジョンの影響を受けている気がする。
という事はアレか。最近のロクコがあれなのはその……ダンジョンの評判がピンク方面だから、色々と手を焼く状態になっているということか。
……
ん? ということは、サキュバス村に入りやすいよう改築するのは悪手なのでは?
「なんかフラフラするんだけど……」
「船ですからな」
「船旅……あ、そういえば海だったっけ? それだと部屋の外も観たいわね」
「では明日の昼に来られてはいかがでしょう? 今は夜です、夜の海は暗くて危険ですから、甲板には出られませんしな」
そんな話をしている二人。
『大事な情報をありがとう。ちょっとダンジョンの改築について考えることができたから、今日はこのくらいで。また明日連絡する』
「はい、承知いたしました。それではまた明日お待ちしております」
「あら? ケーマ帰るの? じゃあ私も帰るわね。明日はシーバ使うわ」
こうして『憑依』を切り上げてダンジョンのマスタールームに戻ると、ロクコが無防備に隣に寝ていた。俺が寝始めたときにはいなかったはずだが。
と、ぱちくりと目が開いた。
「おはようケーマ。勝手に一人で行かないで、ちゃんと私にも声かけてよね」
「あー、今日は船で移動だって話だっただろ? だからすぐ終わるしいいかなって」
「もう! 何のためにロクファを用意したと思ってるの? まったく……」
むすっとして拗ねるロクコ。……うん。とりあえず、ダンジョンの改築についての計画を一部修正しないとな。
布団を増やしたら良いかもしれない。
とりあえず『暴食』ギミックについては鋭意調整中。このままイチカに協力してもらおう。
その次は『憤怒』……いや、『嫉妬』かな?
あ、でもロクコが大食らいになるのはともかく、怒りっぽくなったり嫉妬深くなるのは少し困るか。そこも見直すか……
「シチューばっかりで食べ飽きない?」
「え? 美味いやん?」
「というかよくそんなに食べられるな……」
「え? 美味いやん?」
「一応、残飯処理用のスライムも用意してるから全部食わなくてもいいんだぞ?」
「え? 美味いやん?」
※シェフゴーレムの料理は、スタッフが美味しくいただきました。





































