憑依用モンスターの確認
(え、もう8月……だと?)
……というわけで、【人化】込み30万DPきっかりの天使ロクファが、魔法使い系リビングアーマー商人ナリキンとのペアとなった。
ナリキンは鉄製のフルプレートアーマーだ。【収納】もスクロールで覚えさせてある。【人化】すると茶髪の一般人という顔の、俺の狙い通りの姿だった。
あとで俺のナリキン仮面のコピー品も渡しておかなきゃだな。うん。
で、ロクファの外見だが――だいぶロクコに似ていた。髪の青いロクコに、天使の輪と光る羽がついていて、重力を無視してちょっとだけ浮ける感じだ。羽も身体から直接生えているのではなく、少し浮いている所に出現している。
【人化】すると羽と輪が消える。
「ロクコ……弄った? 見た目近づけないって言ったよね?」
「……い、弄ってないわよ? ダンジョンコアである私に似ただけじゃない?」
「本当は弄ったよね?」
「……」
外見、弄っちゃったらしい。ああもう。もう召喚んじゃったからやり直しもきかないのに。
「だって私と同じ『695』の名前なんでしょ!? 似せたくなるじゃない!」
「だからって……目立つだろ」
「ケーマと旅するんだから、私の姿の方が嬉しくない?」
「嬉しいけどそれはそれだ! おバカ!」
「おバカとは何よ! 命狙われてるのはケーマとレイで私じゃないからセーフよ!」
くっ、確かにギリギリセーフな線だけども!
「あの、それでマスター。我々は何をすれば良いのでしょうか?」
兵士っぽく【人化】した状態のナリキンがおずおずと聞いてきた。隣ではロクファも困り顔で控えている。
「おっと、そうだなナリキン、ロクファ。お前達には俺達の体になってもらう。まぁダンジョン外の偵察ってとこなんだが」
『憑依』の機能を使って俺とロクコが村にいながら村の外を調べるために呼んだ、と告げる。
「はっ、かしこまりました。我々の体、ご自由にお使いください」
「了解いたしましたわ、マスター。全てはマスターとロクコ様の意のままに」
「あ、ちなみに2人は夫婦って設定よ。いいわね?」
「おいロクコ」
ロクコの発言に、ナリキンとロクファは真面目に頷く。まぁ、2人がいいってんならいいけど。いいの? 本当に? ならいいけど……
早速『憑依』がどんなもんか試してみることにした。
俺とロクコはそれぞれメニューからモンスターの操作を選択し、【人化】している2人に『憑依』する。
「おっ、できた。ロク――ロクファ、そっちはどうだ?」
「こっちも問題ないわケー――ナリキン」
と、ロクファ(中身ロクコ)が俺を見てにこっと笑う。顔を似せただけあっていつものロクコって感じだが。ちなみに俺とロクコの体はオフトンに寝かせてある。
……うん、普通に寝てるな。
「凄いな、ちゃんと感覚がある。ウサギダンジョンでウサギたちがやってるのを見たりはしてたけど……本当に自分の体って感じだ」
「元の体と体格が近いからなおさらね。大きく違うと、また感覚も違うらしいわよ?」
と、ロクコは【人化】を解いて天使の羽を広げる。
「わ、わ、すごいこれ。新感覚。っていうか体浮いちゃうんだけどなにこれ楽しい」
「ほぉ。どれ俺も――」
ナリキンの【人化】を解く。……あんまり変わらないが、これはどうやら『目で見てない』という感じだ。リビングアーマーに目はないからな。
……口もないから詠唱もできないのだが、そもそも俺は別に詠唱いらないんだった。魔法は使えるのかな? 【ファイアボール】――と念じると火の玉がポンッと飛んだ。
魔法も問題なく使えてしまうようだ。【収納】――これは俺の【収納】とは別だな? 中身が入ってない。ちょっと残念。
このままだと喋れないので、【人化】し直す――前に、喋ってみた。
「ケーマ、カタカタうるさいわ」
ああ、そうなるのね。じゃあ思念を飛ばしてみよう。指輪サキュバスや魔剣シエスタに話しかけるような感じで。
『……あー、あー。ロクファ、俺の声が聞こえるか?』
「ん? ああケーマ、じゃなかったナリキン。そうか念話ね?」
『念話ならちゃんと会話できるみたいだな』
そっかぁ、とぺたぺた俺を触るロクファ。
「ねぇナリキン。いざという時のために着る練習をしていいかしら?」
『おう、いいぞ――って、そういや俺のサイズで作っちまったな。これ大丈夫か?』
「中に何か詰めておけば大丈夫かしら……?」
腕とかは胸の前に組んだ状態で着てもらって、体を俺が動かすスタイル……というのもありだな。
「えい」
『おふぅ』
ぱきん、と俺の体をバラしていくロクファ。うわぁ、体が痛みはないけどバラバラになっていく、しかし感覚がある。お、おお、おおおう。
掴まれた身体がどこまでも引っ張られ持っていかれる。むず痒いとしか言いようがない。
ロクファが俺の腕をかかえて「どっこいしょー」と持ち上げる。こうしてみるとまんま肩まであるガントレットだな。
「これ切り離してても動かせるの?」
『動かせ……るな、うん』
「へー、面白いわね」
取り外された腕の手をわきわき動かす。ロクファはそれをコンコン叩いたり撫でまわしてくるが、着けるならはやく着けてくれ。むずむずする。
「合体! ……ひんやりして気持ちいいわね」
『こっちはすごく生暖かい』
とりあえず腕だけ付けてもらってみたところ、やはりぶかぶかだった。女性用サイズにすればよかったか……ん? なんか体が震えて……うお!?
俺の腕が、雑に洗濯した毛糸のセーターのようにキュッと縮こまる。そしてロクファの腕にフィットした。
質量保存の法則が仕事してない。なんだこれ。
「お、なんかうまく行ったわね」
『ロクファ、何かしたのか? 鉄鎧が縮んだぞ?』
「たぶん私の特殊能力でとった、『全身鎧適性』よ。ナリキンが全身鎧なら相性良いかなと思って。これほどまでとは思わなかったけれど。普通の服と変わらず動けるわね」
どうやら多少サイズの違う鎧でも装備できるようになるということらしい。
……適性と分類さえあっていれば体格の違うキャラでも装備を使いまわせるようなRPGかよと。まぁそこは魔法も神様もある世界でしかもロクファは天使なわけだし今更か?
ちなみに鎧を外したら元のサイズに戻った。あーびっくりした。
これで憑依用モンスターの準備はできたしトイに声をかけ、調査の旅にでるとしようかなって。
(ロクファの胸は、若干盛られているような気がします)





































