憑依用モンスターの準備
(……一話にこれほど感想が来たのは初めてです、嬉しいものですね!)
というわけで、DPカタログから俺たちが憑依するのに使えるモンスターを探す。
聖王国は人間至上主義だ。ロクコ達が「ニンゲン」で一括りにするような獣人も軽視される対象となる。【人化】で化けるとはいえ、できるだけ人間に近いモンスターの方が苦労はないだろう。
また、【人化】にかかる費用も変わってくる。やる予定はないが、明らかに人から遠い不死鳥のフェニで50万DP、限りなく人に近い魔女見習いのネルネなら1万DPといった具合だった。
「うさ耳のケーマも捨てがたいところだと思うんだけど。ワーラビットとか。……ケットシーとかも良いと思うんだけど。猫耳ケーマ可愛いたぶん。ぜったい可愛い」
「うん、だから人ね? 人に近いやつにしような? あと俺たちの姿に似せたりはしないからな?」
「そうなの? ドッペルゲンガーとかもいいんじゃないかと思ってたんだけど」
潜入調査が目的なのに暗殺対象とかなってる俺の姿をとるとかないからな。しかもドッペルゲンガーとか単体で50万DPじゃないか。予算オーバーだよ。
「シェイプシフターってのはどうかしら。ケーマの【超変身】ぽくて便利そうじゃない?」
「……それも予算オーバーだな」
人間に限らずあらゆるものに化けられるタイプのモンスターだ、値段が問題なかったらこれもよかったんだけど。スライムの上位種みたいなもんだしなぁ……スライムは予算に収まるが、【人化】込みだと超えるんじゃないか?
「いっそリビングアーマーなんてどう? ケーマが憑依した鎧を、私が憑依したのに着せるのとか良くないかしら」
「それは悪くないアイディアだな」
俺とロクコが別々に行動するってことも無いだろうし、そういうのもアリといえばアリだろう。中身が人間なら魔装と言い張れるはずだ。単に【人化】を覚えさせてハクさん配下のリビングアーマー、サリーさんのようにもできる。
ついでに言うと、だいぶ前に出ているハクさんからの『男はダメ』という要望も満たせるだろう。一応リビングアーマーだと性別無いし。【人化】したらどっちかにはなるけど。いや、男物の鎧なら男になるのかな?
「じゃ、俺はそうするとして……ロクコはどうする?」
「そうね、ケーマが鎧になるなら私は完全に人っぽい方がいいわよね? ……ネルネみたく、魔女見習いとか? レイみたく吸血鬼もいいわね」
「吸血鬼は止めた方がいいな。弱点全部カバーすると高いし……攻撃力0はレイだけで十分だろ」
「む、それもそうね」
とカタログをめくる。一応魔女見習いは候補にしておく。あとシルキーは家依存症なところがあるので旅には向かない、候補から外しておこう。
「……いっそゴブリンとかどうだ? ゴブ助復活させたりとかホブゴブリン……いや、ゴブリーナとか?」
「いやゴブリンは人にならないでしょ。あとゴブ助に憑依とかしたくないわね」
ゴブリンフェチのロクコ的には無いようだ。俺がゴブリンの方だったらよかった可能性が……いや、ゴブリンの【人化】費用も結構掛かりそうだし無駄が多そうだ。ゴブリンとは安くて多い、それが魅力なのだから、1匹のゴブリンに大金をつぎ込むのは間違っていると。ロクコはきっとそう言いたいのだろう。
ふっ、俺が浅慮だったぜ。次だ次。
「ねぇ、ぬらりひょんってどういうモンスターなの?」
「なんか後頭部が長いお爺さんっぽいやつで、潜入には向いてるかもしれない」
「お爺さんじゃ私がなるにはちょっと憑依したくないわね。……こっちの座敷童とか雪女とか仙女とか? あ、この管狐っての可愛くない?」
「管狐は関係ないだろ今回のに」
「鎧もトイに着せてケーマの鎧の中に私が潜むという感じで……? うん、まぁ関係ないわね。他のにしましょ」
ロクコはさらにカタログを読み進める。サキュバスとインキュバスのページでページをめくる指が止まるロクコ……俺は何も言わず、そっと次のページに進ませた。
そうして、ロクコはしばらくカタログを見て――何やら面白そうなものを見つけたようだ。
「ねぇ、そういえば聖王国って光神教なのよね。天使はアリなのかしら?」
「天使? あるのか?」
「あるみたい。ほら」
と、ロクコが開いたページを見ると、基礎性能やカスタマイズで前後するが、10万DPくらいからであるようだ。……悪魔もあるし天使がいてもおかしくないか。
「って、そういえば前に天使は嫌な存在とかって言ってなかったか?」
「ええ。光神教の、光神の使いとされているの。ケーマも知っての通り、ダンジョンぶっころ主義のね。……つまり父様の敵対的存在よね? だから私もダンジョンのモンスターに天使があって驚いてるところよ……これ、前からあったっけ?」
ふむふむ。これはなかなか都合がいいかもしれない。もし【人化】が解けてバレても光神教の使いとされている存在ならむしろいろいろ便利になる可能性すらある。
次のページがダゴンとかショゴスとかのヤバそうで高いやつになっているのが少し意味深で不安を煽るが、まぁ別ページのことまで口を出すのは気にしすぎだろう。
「これにするか?」
「少し引っかかるところはあるけど、今回の用途を考えると都合がいいのは間違いないわね。これにするわ。【人化】いくらかかるか分からないし、そんな強くする必要は……って、カスタマイズ項目にあったわ【人化】オプション」
「なるほど天使だもんな、そういうオプションがあってもおかしくないか」
ちなみにこれ、元が強いと【人化】オプションの値段も上がるようだ。うん、ほどほどの強さでいいだろうな。元が強すぎて人間からかけ離れすぎた存在になったら怖いもの。そういうことだよね? 引っかかったりしないぞ?
「その点、リビングアーマーの方は【人化】にどれくらいかかるか呼ばなきゃ分からない、か……とりあえず低レベルなのを用意して、『強化』できるかだな。まぁサリーさんって実例がいるから【人化】もできるのは間違いないだろ」
「足りなかったら私の分のDP分けてあげるわ」
「そりゃありがたい。んじゃフルプレートメイル型を基礎にして……んん? なんか鉄鎧のが目立って安いな……ダンジョンの影響か? なら10万DPの鉄製のにしておこう」
というわけで、30万DPをどう割り振るか悩み中のロクコをさておいて、俺はアイアンリビングアーマーを召喚。俺が『憑依』することを考えて、俺が着てちょうどいいサイズにした。背丈が同じくらいになるので『憑依』時の違和感も少ないだろう。
で、召喚したリビングアーマーにさっそく『ナリキン』と名前を付け(名前がないと『強化』の対象にできない)、『強化』オプションを選択。【人化】に必要なDPは……15万か。
合計25万ならロクコから分けてもらわなくても、さらにおまけで【収納】と【クリエイトゴーレム】も覚えさせられる。『強化』実行だ。
俺がメニューを選択した瞬間、跪いていたナリキンの下に魔法陣が出現。魔法陣はぐるぐるぎゅわーんと光りながら回転が速くなり、そのまま足元から頭の先へと昇って消えた。これで『強化』完了のようだ。
ナリキンに兜を取らせると、帝国ではありふれている茶髪の地味男がそこにいた。
……うんうん、外見は特にエディットしてないが、なかなかいい具合だ。……聖王国でも茶髪はありふれてるのだろうか? とは思ったけど黒髪よりいいのは間違いない。
「おーい、そっちはどうだ?」
「あら、ケーマもうできたの? ……『ナリキン』ってケーマのよく使ってる名前じゃないの。そうきたかー」
「折角だからな。ロクコの天使は何て名前にするんだ?」
「ん、そうねぇ……『ナリキン』の奥さんって設定なら関連した感じがいいけど、影武者的に『ロクコ』でもいいかも?」
奥さん設定はさておき、影武者っていうのもアリだな。でも完全に同じだとそれはそれで困りそうだからロキュコとか……なんかサキュバス憑依してるっぽい名前だな。うーんと、そうなると……
「ロクファ・イブなんてどうだ? ファイブってのが5って意味でな、イブは苗字なりミドルネームなりにすれば」
「695なわけね、凄くいいじゃない。ロクファにするわ! ケーマ愛してる」
ロクコの笑顔に、胸がトゥンクと高鳴った。
「不意打ちでそういうこと言うのやめてくれない? ドキッとするから」
「……愛してる!」
堂々と言うのもだめぇ!
(というわけで、天使&リビングアーマーとなりました。いざとなれば合体もできますね。
これが一番ケーマらしい選択だとおもいます。ありがとうございました!
異世界における可愛い女の子が男物の大きい鎧を着るのは、日本における女の子がぶかぶかな男物のワイシャツを着るような感じに通じるのでしょうか?)





































