買い食いデート
オフトン教。
1人のシスターがこのダイードの地に現れ、布教したらしいその宗教。
……そういや帝国のコーキーの町でもレオナがオフトン教を広めてやがったな。
何を企んでいるのだろう? まさか俺のGP集めに貢献してる? 何故?
分からん。考えても無駄かも知れないし何も考えてない可能性もある……混沌め。
で、俺とロクコは今ダイード国の城下町を見に城を出ている。勿論二人きりというわけではなく護衛という名の監視付きだ。
「勇者様の護衛ができるなんて光栄です! よろしくお願いします」
「勇者様、僭越ながら私が町をご案内させていただきますね」
と、目がキラキラ輝くような若い男の騎士(あからさまにイケメン)と、若い女騎士(ロクコの方が可愛い)の2名。他にも隠れて護衛兼監視がいると見て良いだろうな。
色仕掛けを仕掛けてたりするんだろうか……いや、単に見目がいい奴のほうが印象は良くなるからか?
俺達を奴隷のように扱うつもりだった可能性はあるが、さらにそれを手のひら返しした可能性もある。勇者の腕輪とやらを着けなかったから煽てて使うことにしたのかもしれない。
ともあれ城の外に出られるなら色々見ておきたいことも多い。……夜には魔術研究所所長トイ・ティンダロスとの対面が控えてるし、今のうちに。
「どこか行きたい所はございますか?」
ある程度下調べしてこの町に来た相手ならともかく、拉致同然にこの世界に初めて来た人相手に言う言葉じゃないと思うが、まぁいいか。
「食べ物の屋台とか出てるところに行きたいね。そのあとはオフトン教の教会なんかあれば」
食は文化。食べ物を見れば国の事が分かる、とかイチカが言っていた。
それに、城で出される食べ物と比べたら外で買い食いする方が比較的安全だろう。大量に買い込んだことにして晩飯もスルーできなくもない。
「食べ物ですか! それなら最近色々なお店が出てるところがあるのできっと勇者様も気に入られるかと。私に付いてきてください」
「オフトン教も丁度今日はミサをやるので、昼過ぎに向かってはいかがでしょうか」
というわけで、屋台で昼食をとってオフトン教のミサに行くことになった。
華のある笑顔で先導する女騎士に、斜め後ろから護衛する男騎士。俺とロクコははぐれないように腕を組んで屋台のある通りへ向かった。
「気になる屋台があったら言ってください、私の奢りです――と、言いたい所ですが、騎士団長からお金をいくらか預かってますので騎士団長の奢りですね」
「へぇ。そりゃお礼を言っとかないとな。騎士団長って何て名前だ?」
「チャリディ団長です。なんと、あのクトゥグア家の当主様でもあるんですよ!」
どのクトゥグア家か。説明が足りなさすぎる。この女騎士、俺達が異世界から拉致されてきたばかりだということを聞いてないのか?
「ケーマ、ケーマ! カラアゲがあるわよっ!」
「おや本当だ。……って、ベビーカステラ、焼きそば、お好み焼き?」
「クレープもあるのね」
見ると、カラアゲの屋台の他にもやたら日本の縁日にありそうなラインナップがずらりと並んで、ソースや醤油の焼ける良い匂いが漂ってきていた。デザート系の甘い匂いもする。ここ日本だっけ?……あ、タコ焼きやイカ焼きは無いのかな。まぁ内陸国だしな。
「ああ、それらは新しい食べ物ですね。貴族のご令嬢やご令息の間で食品開発ブームがあったらしくて。よくご存じですね? この国発祥の食べ物かと思ったんですが」
「俺のいた世界にも、ほとんど同じ食い物があったんだよ。うーん、チョコバナナやたい焼きは無いか……」
「へぇ。勇者様の世界にも……ちょっと前ならチョコバナナというのはありましたよ。剥いたバナナにチョコを塗ったやつです。しかしこれ、外国からチョコとバナナを密輸入していたらしくスポンサーだった令息が逮捕されてしまいまして……美味しかったんですけれどねぇ」
つまり、この屋台のラインナップは『テンセイシャ』の仕業か。
ちなみに俺もカラアゲやプリン、人形焼き(ゴーレム焼き)といったものをゴレーヌ村で作ったりしたので、あまりとやかくは言わないが、節操ないなぁ。
……たい焼きは無いけど大判焼き、おやき、それと今川焼きに回転焼きの店も並んでいた。(看板だけ違ってモノは全部同じで)中身はカスタードクリームと粒あんの2種。
……鯛の型があればたい焼きも作れるな。
「どれも美味しいですよ。一通り買ってきましょう」
「少しずつ色々つまみたいわね。ケーマ、分けて食べましょ」
「朝飯抜いてくりゃ良かったな」
と、ロクコと色々分けつつ、護衛の騎士2人にも食い切れそうにないからと分けて食べてもらった。……うん、特に躊躇もしてなかったし毒は入れて無さそうだ。俺はそれを見届けてからつまませてもらう。
ダンジョンコアで絶対命令権を応用すれば毒を無効化できるロクコはさておき、俺は毒にかなり無防備だからな。【超変身】してあるから1回は死ねるけど。
しかしこの屋台の食い物、何気に技術力高いぞ。ソースやマヨネーズはともかくとして、醤油はどこから手に入れたんだ? クレープも砂糖たっぷりの甘い生クリームとか普通に使ってるし。……食中毒とか大丈夫だよな?
「ああ、今生き残ってる屋台のは大丈夫ですよ。初期にはマヨネーズの食中毒事故もありましたが」
「原因を突き止めたのは宰相様でしたっけ?」
「宰相……俺達の相手をしている大臣とは違うのか?」
「ええ、勇者様と交渉していらっしゃるのは外交大臣で、宰相様はその上司になります」
あれ外交大臣だったんだ。へぇ。
で、宰相の名前はイマサラ・ダゴン宰相というらしい。実にレオナ好みの名前だ。
ともかく、飯を食べて昼過ぎになった。今からオフトン教の聖堂に行けば少し見学してミサにも参加して、さらにゆっくり話を聞くこともできるだろう。
「では聖堂へ行きましょう。こちらです。オフトン教には歴史ある聖堂がございます、圧巻ですよ」
「……へぇ、そりゃ楽しみだ」
……歴史ある新興宗教の聖堂ってなんなんだよ?
と思ったが、古い建物を聖堂にしたってんなら別におかしい話でもないかな。
(コミックガルドでコミカライズ更新きてました! リンクは↓のとこに貼ってますのでどうぞ。
そして書籍化作業があるので3月中に1回は休むかもしれない)





































