勇者の召喚
(ロスタイム……!)
ついでにトイについての情報をドルチェさんに渡しておく。
ドルチェさんは「面倒臭……っ」とカリカリ頭を掻いた。
「ぁー……情報提供ありがとう。あとの対処は任せてよ。こっちで良いようにしておくから」
「お願いします。……殺したりは無しですよ?」
「もちろん分かってる。……魔術研究所所長を引き渡すことを条件に、帝国との交渉で成果を挙げたことにね、うん……」
というわけで、ドルチェさんに王子達の対応を任せることにした。
……なんか、思っていた以上に無難に事を収めてくれそうだ。
ドルチェさん、有能なんだなぁ。ミーシャと違って……いや、ミーシャもミーシャで十分有能なんだけどね。武力的には。
*
そして王子達はなんと謎解き部屋の突破を諦め、翌日には村を去って行った。満面の笑みで。
……ドルチェさん有能! なんて有能なんだ……
あと王子達はウーマを探していたようだが、多くの人間にそんな奴知らんと答えられ、ウーマを知る数少ない人間には「あいつは厄介事には敏感でなぁ、ウチに挨拶だけして出てったわ」と言われてしょんぼりしていた。
というわけで、俺とロクコは例によってのんびりと村長邸の俺の部屋でごろごろしていた。
「それにしても、今回は結構ヒヤリとしたわね。謎解き部屋がなかったらどうなってたと思う?」
「うーん……ボス部屋のひとつ先のコア部屋まで侵入されてたかもな」
闘技場のアイアンハニワ、そしてボス部屋のドラゴンゴーレムだが、実の所ニクが操っている初代ハニワゴーレムを無傷で突破できる時点で、この2体も突破される可能性がある。
「アイアンハニワゴーレムもパターンは同じだし、ドラゴンゴーレムに至ってはそんなに、だもんなぁ……ダンジョン、もっと強化した方が良いかな」
「悩みどころね。でも、そこそこ攻略させるつもりじゃなかったの?」
「……そういえばそうだった」
そのためのダミーコアのコア部屋だった。いわば見せコア部屋。
「というか、ゴレーヌ村村長はそこまで攻略してるって設定なのよね?」
「そうだな」
嘘は吐かずに、『ダンジョンの最奥まで行った。コアが置いてあるのも確認した』という回答を冒険者ギルドにはしている。
「つまり、私の事を攻略してるのはケーマだけがいいってことよね?」
「あー……そうなるかな?」
「ケーマってば、そんなに私の事他の人に攻略させたくないのねぇ……あのコアまで行って攻略したと言っても本当の奥の奥まではケーマだけよ? ね?」
俺はその言葉を否定できず、ニヤニヤ笑うロクコの頭をぽんぽんと撫でておく。
独占欲なんだろうかコレ。まぁ、うん。
と、俺は完全に油断していた。
だから足元に現れた魔法陣にとっさの反応ができなかった。
「え?」
「ん?」
視界が光に包まれた。
* * *
気が付けば、俺とロクコは石造りの部屋の中にいた。
「おお! 勇者様! やったぞ、召喚は成功だ」
……そして目の前には赤いマントを付けて王冠を被った中年男。兵士、兵士、メイド、おっさん、おじいさん。ローブに身を包んでる奴もいる。
なんだこれ。何が起きた?
ロクコもなにがなんだか分からないと言わんばかりに目を見開いて驚いている。と、王冠中年――王様が声をかけてきた。
「勇者よ、どうかお力を貸していただきたい!」
「……は? 勇者?」
「ちょっとケーマ、どうなってるのよ?」
俺もロクコも部屋でゴロゴロしていたわけで、靴を履いていない。
どうやら俺達はこの場所に転移させられたらしい……そして、勇者という発言。
「まさかこれは……異世界転移……!?」
「さすがニホンジンであるな、話が早い! ようこそ、我がダイード国へ、どうか我が国を救っていただけないだろうか」
あ、ダイードかぁ。そっかぁ。
ダンジョンのメニュー機能を見えないように展開する。……あ、使える。ちゃんと。マップ機能は……うん、一応ダイード国王都の地図っぽいな。
……一旦落ち着こう。これはきっとレオナの仕業だ。そして、ここで慌てたらレオナの思う壷。
しかし、ダイード国といえば帝国の南。ゴレーヌ村からみればかなり遠く、俺とロクコを転移させてくるとなるととんでもない魔力量が必要になるはずだ。
「どうするケーマ?」
「とりあえず……一旦様子見かな」
とりあえず俺はダイード国に呼び出された勇者、ということにしておくべきか。そしてレオナの暗躍してる証拠でも持って帰ったらいいんだろうか。
ダイード国王っぽい人がこちらの返答を待っているので、事情をきいてみることにしよう。
「えーと、事情をお伺いしても?」
「うむ、当然であるな。大臣、説明せよ」
「はい。えー、ここは勇者様の住む世界から見て異世界というべき場所ですな。勇者殿には、我が国の危機を救っていただきたい。その暁には、多額の報酬と共に元の場所へ送還することを約束いたします」
と、大臣が自身のヒゲを弄りつつ言う。
「……危機とは?」
「魔王の侵略ですな。今この世界は、魔王により危機に瀕しております」
しれっとそんなことを言う大臣。
こちらが何も知らないと思って、都合のいい情報を伝える気満々ということだろうか。
「……また、世界の危機に乗じて帝国という国が侵略を行っており、我がダイードも領土をいくらか奪われておりましてな」
「へぇ、それは大変ですね」
「ええ、なので勇者様のお力をお借りしたく」
ちなみに俺がハクさんから聞いた話によるとラヴェリオ帝国は確かに侵略をしまくってるらしいので、これはあながち嘘ではなさそうだ。
俺はロクコをちらりと見る。
ロクコに手を出してしまったダイード国……滅んだかな。これは。
(コミカライズ16話更新されました。
そして、今月25日、コミカライズ3巻発売。メロンブックスやとらのあなで特典付きのが予約できる感じですね?)





































