混沌の指先
(ロスタイム……!)
そして翌日。無事王子達は謎解き失敗。帰還することになった。
「もう1回! 頼む、もう1日!」
「流石にダメだぞ」
駄々をこねる王子だったが、既に1回譲歩しているのだ。これ以上は付き合い切れん。
はよ帰ってロクコ達の顔が見たい……もうだいぶ長い事見てない気がするんだ。
「くっ、仕方ない……ではまた後日潜りに来るか」
「そうですね。まぁ、ウーマ殿がいなくとも行けるでしょう」
「まぁ、感じとしては手ごたえありだよな!」
楽天的な王子達3人に、ジャンガリアはやれやれとため息をついていた。お疲れさん、でもジャンガリアが折れたからここで一晩寝ることになったのは忘れてないからな。
帰り道はまぁやっぱり順調で、途中アイアンゴーレムを1体狩って王子達の【収納】に詰めて持ち帰る。鉄材ってやっぱりよく売れるんだよなぁ。
と、いうわけで臨時パーティーは無事終了。迷惑料としてそこそこ多目な分配を貰い、俺はまぁこれなら許してやろうと宿へ帰還した。
で、ようやく【超変身】を解除。ああ疲れた。
「おかえりケーマ。お疲れ様」
「ああ、ただいまロクコ」
ロクコが出迎えてくれて、俺の頭をぎゅっと抱きしめてくる。やわらかくて良い匂い。
俺は抵抗することなくロクコの好きなようにハグされ、久々のロクコを堪能した。
……いやこれだと言い方がまずいかな? ハクさんに殺されるレベルだ。
「ハグは許可出てるんだから大丈夫よ」
俺の心を読んだかのようにロクコは言って、さらにハグを続けてきた。しかもさりげなく『神の毛布』を持ち出してきた……あー……逆らえない……スヤァ。
こうして俺はロクコに寝かされ、気分もスッキリ翌朝を迎えた。
「おはようケーマ」
「あ、うん」
もちろん起きたら俺の部屋だったんだが、ごく自然にロクコが居る。
……もはやあの毛布で落ち着かされてしまうのは条件反射ともいえよう。魔国ですっかり慣らされてしまった。
「それで、王子達は?」
「ああ。今日またダンジョンの奥へ行くみたいよ」
結局今度は俺抜きでまた謎解き部屋まで向かっているようだ。俺は臨時で入っていたものの、大して役に立ってなかったところはある。つまり俺がいなくても問題なく行けるだろう。実際行った。
……一体何が彼らをあそこまで駆り立てるんだろうか。
『むぐぐ、この答えも違うのか……!』
『今回もここでキャンプですかね?』
そして見事に足止めされていく。いやぁこの謎解きギミックはとても有効だ。1回間違えると1日足止め。強い。
「ところでケーマ。王子達は始末しなくていいのよね?」
「始末したらまずいからな。国際問題になる」
まぁダイード国の王子がうちのダンジョンで死亡したら、ダイード国から調査とかも来るだろうし面倒なことになりそうってのもあるけど……
「ここで王子達が死んでみろ。……レオナの手先がダイードからばら撒かれて、世界中が大変なことになる」
「ああ、国際問題ってそういう」
「あいつらには精々頑張って『テンセイシャ』とやらをまとめて閉じ込めてもらおうじゃないか」
可能であればレオナの謎の企みを潰しておいてほしい、いや、適度に発散させて余計な事をさせないでほしい。程々の手柄を持って帰ってもらって、無事にテンセイシャ規制法案的なものを可決させてほしい。
「というわけで、折角だ。あいつらに手柄を用意してやれたらいいんだが」
「あら。優しいのねケーマったら。……で、どんな?」
「そうだなぁ……時間はあるし、あいつらを監視しながらじっくり考えようか」
一応ハクさんにも手紙を送っておこう……いや、今来てるドルチェさんに言えば何かいい手柄を用意してくれるかもしれないな。
モニターで王子達を見ると、謎解き部屋のキャンプでマシュマロを焼いて食べていた。
……マシュマロなんてこの世界で初めて見た気がする。『テンセイシャ』が作ったのだろうか?
俺も久々に食べたくなったので、DPで出してロクコと食べることにした。
【ファイアーボール】でマシュマロをチリチリ焼くニオイを嗅ぎつけたのかイチカが乱入してきたが、まぁそれはそれで。
*
教会の地下室。ドルチェさんに事情を色々と話した。
ダイードの事、レオナの事、王子達から聞き出したこと。色々だ。下手に隠す必要はないのでそりゃもう色々。ハクさんに報告済みな事も多くてドルチェさんの持っている情報との重複は多々あったと思うけど。
隠したのはロクコにハグされて寝落ちした件くらいなもんだ。
「というわけでドルチェさん、あいつらになんか適当な手柄をやって追い返したいんですが」
「……混沌案件とは……面倒な……ダイードで起きているのがそういう事態だとは……」
ドルチェさんはため息を吐いた。『テンセイシャ』騒動は把握していたが、その裏側までは分かっていなかったらしい。
「私の部下達が把握できていなかったのは混沌の仕業?……さらに聞いた話だけでの判断でも魔術研究所所長が明らかに怪しい所……」
「あれ。言われてみると確かに」
魔術研究所所長、記憶操作の有無はともかく、どうやって転生の有無なんてものを判断したんだろうか。
「王子達が所長に洗脳されて、都合のいい情報を埋め込まれている可能性がある……いや、そうならこちらの持つ情報との辻褄が合う……やはり魔術研究所所長、トイ・ティンダロスは混沌の手先と見た方がいいか……でもそうなるとダイード国王子の供述も信用ができなくなる……? くそ、厄介な。これだから混沌案件は」
「……」
あーなるほど、犯人なら自分たちが関与してるから転生してない、って判定できるもんな。
(……なんか13巻も9割くらい書下ろしになりそうかな!(白目)
あ、今月25日にはコミカライズの3巻が発売ですよ)





































